転生した公爵令嬢はVUCAを生きる

Mo×5

12ソードマスターへの鍛錬始めます side B

「そんなことでは、いつになったらソードマスターになれるのか、思いやられる」

そんなこと言われましても。
筋力、全然ないんですよこの体。

私はヴァイオレットの特訓を受けていた。
キール城の外にある王のプライベートな訓練場で、まずは走り込みの練習から。
ほぼ、スポーツの基礎体力づくり。
少しの間だけは集中してフォースを集めることができるのだけれど、一定時間以上は無理。
ここを克服しないと恐らく次には進めない。

理論上は、瞬発的にはフォースを使えるのであれば、後は体力と集中力の問題で続けられるかどうか。
うん、頭では理論が分かっても、これがなかなかできない。
そんな簡単にソードマスターになれるわけはないし。

「やはり実践から入るべきなのか?そうすれば否応なしにもフォースを使わざるを得ないだろうから」
ヴァイオレットが腕組みをしながら考えている。
「私も子供の頃これをやられて、ほんとに腹が立ったんだが、今になって師匠のほうの気持ちがわかるようになった」
ヴァイオレットがため息をつく。
「よし。やっぱりそうする。少し待っていろ」
そう言うとヴィーが消えた。

何をするつもりかしら。
とりあえず、勝手に休憩。私はお水を飲んだ。
少しすると、ヴィーが戻ってきた。手には何かを抱えている。
ビウユィ、ビウユィて鳴いてますけど。
「なんですか、それ?」
ヴァイオレットがその泣いている何かを背中に押し当てて、皮のベルトを使って私に巻きつけた。
「これか?イノシシの子供だ」
「え?まさか」
「母イノシシにここがわかるように匂いをつけてきた。ほら来たぞ。自力で何とか頑張ってみなさい」
ヴァイオレットは私の肩をポンと叩いた。

イノシシの子供を外さなきゃ。そう思ってトライをするが、全く外れない。だけど、母イノシシがものすごい勢いでこちらに来る。
逃げないと。
私は足に意識を集中する。走り出すと、先ほどまでは少ししかフォースを使っては走れなかったけれど、後ろにイノシシが追いかけてくるので、追いつかれまいと意識が働いて持続して走った。
「やればできるじゃないか。やっぱりこの方法が最適だな」
ヴァイオレット、もう子イノシシをそろそろはずして欲しいんですけど。多分、子イノシシの方がかわいそうなので。動物虐待では?
でも、それは数時間後に行われた。


訓練が終わる頃には、もうヘトヘトになっていた。
食事を取るよりも、まず寝たい。
部屋に戻った途端ベッドに倒れ込んだ。
「ソフィア、どうしたの?」
ルイーズが驚いた。
「ちょっとハードに訓練をしただけだ。悪いが、ソフィアは疲労しているので、癒しの力で回復させてほしい」
師匠、嬉しい。お気遣いありがとうございます。
「そうでないと明日、訓練ができないからな」
前言撤回。

このようなスパルタ教育が朝から晩まで5日ほど続き、そして毎日癒しの力を使ってもらって、体力を回復させた。そうしているうちに、だんだん筋力も付き、フォースを使える時間も長くなってきた。
今では、体全体にフォースを貯めて、好きな時に、好きなレベルで使えるようになった。
準備運動の訓練場を20周走ることは、ものの数分でできるようになり、疲れることもほとんどなくなった。

6日目からは、やっと、剣を持たせて貰えた。レイピアとマンゴーシュを使った訓練に入った。

「腕にも筋力がついてきたし、レイピアとマンゴーシュをを持つことができるだろう。構えてみて」
聞き手の左手には攻撃をのレイピア、右手には防御用のマンゴーシュを装着した。
腕に筋肉がついてきたからか、重いとは感じず、前よりも体に馴染んだ感じがする。
ヴァイオレットが自分のスモールソードを構えて、1振りをすると紫色のオーラが風を切る。
「受けてみて」
なんですと。いきなり?
ヴァイオレットは私目掛けて、ソードを振りかざした。
咄嗟に、マンゴーシュでヴィーの剣を受ける。
キーンと金属音が出た気がした。
マンゴーシュが銀色に光り、ヴィーの剣をしっかりと受け止めている。
なにこれ、銀のオーラが出ている?!

「どういうことだ。オーラが出るなんて」
ヴァイオレットが驚き、そして後に跳躍。また体制を整えて、剣を振りかざす。
私はまた、マンゴーシュを盾のように使い、受け止めた。銀のオーラは消えることなく、発し続けている。
受け身である防御はコツが掴めた。
「今度はレイピアで私を攻撃してみるように」
ヴァイオレットがまた私と距離を保ち、剣を構える。
攻撃って、どうすればいいのよ。
「とりあえず私に飛び込みつもりで、近づいて。そして、私の胸を狙って、レイピアで突いてみなさい」
私は言われた通りにすると、レイピアも銀色に光り、レイピアはものすごい速さで振りかざされた。
ヴァイオレットは難なく受け止めるが、ぶつかりあったときにとてつもない衝撃が走った。
ちょっと勢いがありすぎたかな?

「なんてことだ」
ヴァイオレットが防御も、攻撃も止めた。構えを解く。
「ソフィア、想定外のことが起こっている。驚いたことに、もうすでに、ソードマスターになっているんだ」

はい?
特訓をしないと、魔法のようにはソードマスターにはなれないんじゃなかったでしたっけ?訓練を始めて、まだ6日目ですけど。
「多分、ルイーズの癒しの力だ。癒しの力を毎日マッサージがわりに受けていただろう。だから急激に体が慣れ、身に付いたんだ」
何それ、私、得したってこと?努力なくして、こんなに簡単に、マスターになってもいいのかな。

ブレア、ごめん。きっと、努力して修行中よね。それなのに、私の方が先にソードマスターになってしまったみたい。
なぜかブレアのことが思い出された。

ヴァイオレットはまだまだ余裕で限界がどこまでなのか、試そうとしているのかもしれない。

ヴァイオレットがどんどんレベルを上げてきて、ツキを外すと地面に穴が掘られた。
これって、普通の騎士とか超越してるよね??

その後は面白そうに、容赦なく、ヴァイオレットが攻撃を仕掛けてくるので、攻撃を交わし、そして反撃をすると言う実践を長い時間、繰り返した。



「どうだ、訓練は辛くないか」
ラーウィック国王である父が、私の訓練を見に来た。いわゆる授業参観。
「兄上、ソフィアを見てやって下さい。驚かれると思います」
ヴァイオレットがそう言うと、今まで一番のソードマスターの威力で攻撃を仕掛けてくる。いつもの通り、マンゴーシュで攻撃を受け止め、そしてレイピアで反撃をした。
今では銀のオーラはかなり大きくなっていて、私も一振りすれば自然と銀のオーラを発するようになっていた。

国王は驚いた。
「うん?もう、ソードマスターの域になったのか!」
でも、ワクワクもしている。
「驚きましたよね。私も驚きました。ご明察の通り、ソフィアはもう既にソードマスターになっています」

「そうか。私も大分、体が鈍っているので、一緒に鍛錬をさせて欲しい。ソフィアと対戦をしてみてもいいか」
「ええ、手合せお願いいたします」
王は自身のロングソードを構えると、赤色のオーラが放たれた。
お父様は赤のオーラだったのね。ホワンとしたオーラではなく、光線のようなクリアな赤。
交じるとどんな音がするのかな?

「私から攻撃させていただきます」
そう言って、私は父に攻撃を仕掛けてみる。
レイピアのツキを素早くいろんな角度から繰り出した。
でもさすが父上。全てのツキを見極めて、全てを完璧に簡単に防御する。隙がない。私はスピードを加速し繰り出す。
「おお、凄いじゃないか」
父は確実に喜んでいる。
「それでは、私からもう攻撃するぞ。受け止められるか?」
父は、防御の姿勢から1転、くるりと姿勢を反転させると私に大きく1振りを振りかざした。
軽く振っているように見えるが、赤いオーラの威力は凄まじく、その風が当たると体がビリビリとした。
私は、マンゴーシュの防御力をかなり高めて受けた。銀と赤のオーラがぶつかりあった。衝撃波で風が起こる。
「いい感じじゃないか」
今度は、父が加速度的に振りを繰り出す。私も加速して防御しながら攻撃も仕掛ける。
そのスピードも、攻撃力もどんどん上がっていった。
父も私も手合わせを楽しみ、それは日が落ちるまで長い時間行われた。

最後は私はヘトヘトになりながらも、楽しんでいた。
「ソフィアは本当に凄いな。私の知る限り、セルゲイに次ぐ成人前のマスターだ」
ヴァイオレットが言った。
「癒しの力があったとは言え、ソードマスターになれるとは。それよりも、このことを絶対に秘密にしなくては。ルイーズの力を誰にも知られないようにしなければならない。癒しの力が、ソードマスターになる増幅装置だと思われれば、命を狙われるか、誘拐されて利用されかねない」
王が言った。
「その通りです。ルイーズを守る必要があります。今は、セルゲイ殿に護衛を任せていますが、なるべく私自身が張り付きましょう。ソフィアはもう、自分で何とかできるので、守られなくても大丈夫だな」

守られる方から守る方へ。
ルイーズの事は当然私も守りますと心の中で思った。

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