転生した公爵令嬢はVUCAを生きる

Mo×5

8キール城へ side B

翌朝、私は一番遅くまで寝ていた。

仕方ないでしょ、まだ12歳なんだから。
転生してから、初めてフォースを使ったので、体力がついて行かないみたい。

ルイーズと2人きりになるチャンスを探していたのだけれど、結局2人きりになるチャンスはなかった。
ベッドルームでこっそり二人っきりで話せるかと思ったのだけれど、ルイーズはすぐに寝てしまった。転生前もよく寝ていて、全然変わらない感じ。

「さあ、もうタイムリミットです。お支度をして下さい」

クロエに布団を勢いよく剥ぎとられた。

朝食食べてないんだけれど、と思ったけれども、クロエが時間をかけて、髪を結ってくれ、ドレスを着せてくれるので、文句を言えなかった。
後で取って置いた焼き菓子でも食べよう。こんな時に役立つとは思わなかった。

「そういえば、ルイーゼは?」
「ヴァイオレット様と一緒に、馬を見に行かれました。ここに来る途中に、馬が怪我をしていて様子が心配だったようです」

つまり、馬に癒しの力を使いに行ったのね。

「ブレアとリリーは?」
「今朝から訓練をされると言うことで、森のほうに行かれています。修道院の一般のほとんどは王女様の顔を知りませんから、ソフィア様ということにして堂々と出かけられましたよ。ちなみに、修道院の中ではキール城へはルイーズ様だけが成人式のために登城することになっています。リリー殿は王国からの警護の騎士でこちらにとどまることになります」

うまくストーリー立てしたのね。
さすが、ヴァイオレット。戦略にたけた騎士団長だけある。

はぁー、それにしてもブレアは朝からもう訓練とは。
よっぽど早くソートマスターになりたいんだろうな。何か理由があるんでしょうね。

クロエに言われた通り、身支度を整えると、鏡の前には、完璧な美少女の王女様がいた。

 
「ルイーズ王女殿下、ソフィア王女殿下、お迎えにあがりました」
誰が来るのかと思ったら、第一騎士団長のセルゲイだった。馬に乗った10人の騎士と1台の馬車を引き連れていた。
初めて見る騎士団のパーティーはロイヤルをアテンドするのに相応しいカッコいい集団だった。国民にアピールする意味合いもあるので、私も気が抜けない。

セルゲイが優雅にお辞儀をして、ルイーズの手を取った。

この2人、美男美女で絵になるな。
でも、私の案内は誰がしてくれるの?
私は放置状態。こんな時どうする?

「お前、涎を垂らして昼までグースカ、寝てただろ」
後からブレアの囁く声がした。
「涎なんて垂らしていませんけど」
ブレアが突っかかってきた。
そんなにライバル心あるのかしら。こちらには全くないんだけど。
「朝から稽古をしていたら、ヴァイオレット様が通り掛かって、稽古をつけて下さった。だから、私が実質1番弟子って言うこと」
はいはい、そうですか。
何、そのドヤ顔。
「それに、内緒だがヴァイオレット様に重要な任務を任されたんだ。私は、精神は既にオルデラン帝国を守るソードマスターだ」
ブレアが生き生きと語る。
聞いてるこちらは、うざったい。
「そうなの。立派な心掛けね。そういえば、しばらくの間、修道院内では私と言うことになるらしいわね。くれぐれも評判を落とすような変な真似はしないで頂戴ね」
「規則正しい生活をする優等生だから、心配なく。それよりも、王城はドロドロとした人間関係が渦巻いているから、気を付けろよ。一度命も狙われてるんだから。何が起こるか分からない。自分の身は自分で守るしかないんだ。お前は、誰からも愛されるような可愛い王女様で、それだけで腹が立つだが、自分にそっくりのいとこが傷つくのも、自分がやられているようで非常に腹が立つ。だからやられるなよ」
ブレアはそう言うと、私の手を引っ張って、馬車の脇まで行き、馬車に乗るエスコートをした。
あー、私に対しては似ている分憎くて、傷つかれるのも嫌という拗らせ屋さんなのね。
「ありがとう。行ってくる」
「あー、いってらっしゃい」
そう言って、私も馬車に乗り込み、ルイーズの隣に座った。

後からヴァイオレットが乗り込んで来たが、場所の踏み台のところで止まった。
「あー、なんてことだ」

「セルゲイ殿、馬をお借りしてもいいか?代わりに馬車に乗って欲しいんだが」
「どうかされましたか?」
「進行方向と逆に座ると、馬車酔いするんだ。だから私は馬で行きたい。だからといって、誰でも王女と同席させるわけにはいかない。セルゲイ殿が適任だろう」

ヴァイオレットはセルゲイが返事をする前に、セルゲイの馬に近寄った。
「いい馬だ」
「国王殿下から賜りました。名前はナイトです」
拒否権は無いんだろうな。
セルゲイが馬の頭を撫でて、ヴァイオレットに手綱を渡し、馬車に乗り込んできた。

「それではこれより、キール城に向かうこととする」
ヴァイオレットが掛け声をかけるとパーティーが進み出した。

 
「キール城までは、2時間ほどとなります。馬ですと1時間もかかりませんが、馬車酔いもありますので、ゆっくりと移動いたします。ご安心ください。途中でいちど休憩を取らさせていただきます」

私は初めて見るラーウィック公国。窓の景色が新鮮でワクワクする。ルイーズも同じようにワクワクしているようで、ずっと窓の外を眺めている。

修道院を出ると、しばらくは林が続いていた。途中、鹿の親子やウサギがいて、見つける度にルイーズが私に教えてくれる。
最初のうちは見つけると楽しかったけれど、何度も何度も繰り返すうちにだんだん飽きてきた。ルイーズは飽きないようだ。
セルゲイを観察してる方が断然面白い。
あまり表情も表に出さないながらも、ルイーズが喜ぶ度に、セルゲイが喜んでいる。ちょっとだけ唇の端が上がるからすぐにわかる。
セルゲイはルイーズのことが好きなんだろうな。
でもそれは転生前のルイーズであって、転生後のルイーズではない。大丈夫かな。恋が覚めちゃうかも?

それよりも、お腹がペコペコ。朝も昼も食べてないし。かろうじて、焼き菓子だけはこっそり持ってきているから、早く休憩をしてほしい。

途中で道が開け、川に沿って進んでいく。
お腹が空いていても、その景色に心を奪われた。
開けた平野には辺り一面、麦畑が広がっている。太陽の光が麦穂を照らして、キラキラ光る。金色優しい光が平野を包んでいる。
そして、その横に広がる川も透き通ったブルーに光っている。鳥の鳴き声が聞こえ、時折羽ばたいている姿が影になって景色に溶け混んでいる。
なんて美しいのかしら。

「本当に綺麗」
ルイーズはため息をつきっぱなし。私もしばらくその景色をずっと眺めていた。

「一度休憩を取りましょう」

丁度良い具合に、木々が生い茂っている場所があり、そこで休憩をした。
セルゲイはルイーズも、今度は私も馬車から降りる手助けをしてくれた。

馬車から降りて見る景色は、遠くに見える景色から近い景色に変わり、こちらも絶景。麦畑の少し香ばしい感じの香りも心地よい。
馬車に乗っていたときには気づかなかったけど、川縁にはコスモスの花が咲いていて、とても可愛い。川の水の透明度が高く、川底の石までもよく見える。

コスモスをじっと見ている私に気づいたセルゲイは花を摘むと私に手渡した。
「お気に召されましたか?」
何、そのイケメン行為。
そしてルイーズにも同じように手渡す。
セルゲイが少し赤面しているのか分かった。
「どうもありがとう」
ルイーズも赤面をしている。
はいはい、お邪魔虫は少し離れてますよ。

私は川縁から樹木のほうに移動し、ヴァイオレットのところにいった。
それなのに、ルイーズとセルゲイがこちらにやってくる。

セルゲイは樹木から実をとって、ルイーズに渡す。それは小ぶりの青いリンゴだった。

「ラーウィックは本当に美しい国です。今は昼間ですが、夕暮れ時もまた違った美しさがあり、そちらもお見せしたかったです。この麦畑が黄昏色に染まるんですよ」
「それがきっと素敵でしょうね」
「はい。それはもう。もう時期に刈り入れとなりますので、それが見れるのは今の時期だけです。あー、本当にお見せできないのが残念でなりません」
「何とかしてみる事はないかしら。お父様にお願いしてみようかしら」

2人の世界に入ってる。景色よりもそちらが気になった。

「大地は豊かで、その麦畑も、それを耕す人々も、本当に愛おしいです。りんご畑が広がる光景も絶景です。もぎたてのりんごはみずみずしくてほんとにおいしいです。ぜひ召し上がっていただきたいです」

「ほんとにおいしい」
ルイーズがセルゲイに微笑んだ。

「この景色とこの国の人々の優しさに触れて、ラーウィックを好きになりました。この国で騎士になって、守りたいと思ったんです」
セルゲイが言った。

情緒もへったくれもないけれど。
私もりんごを食べたい。
でも背が低くて取れない。

仕方ない、フォースを使って跳躍して、りんごを獲った。
もぎたてりんごは本当においしい。満足。
ついでに焼き菓子も食べちゃおう。

「フォースをそんなことに使うんじゃない」
ヴァイオレットがあきれたように言った。

「まぁ、それだけ元気なら、訓練もしがいがあるな。明日から頑張ろうな」

うっ、喉に詰まった。お水が欲しいです……

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