転生した公爵令嬢はVUCAを生きる

Mo×5

4事件か、事故か side A

皆が椅子かソファーに着席をすると、ヴィーは立ち上がって話を始めた。

「さて、今回の修道院の集団食中毒は、事故か事件か、どちらかだと思う?」
「事件って、誰かが意図的に誰かを殺そうとしたって言うこと?」
私が質問した。

「そう、その可能性がある。修道院の上層部を全員一掃しなければならない理由があったのかもしれない。又はルイーズはあと2週間ほどで18歳、成人を迎える。兄上はセルゲイ殿の姉上のグレース王妃と再婚され、今は8歳になるミカエル王子がいる。今まで、絶対的長子継承制するのか、男系男子継承制するのを決めてこなかったので、王位継承問題を解決するために、ルイーズを殺そうとしたのかもしれない」
「私1人を殺すために、修道院の上層部全員を殺したってこと?」
「あくまでも可能性の話だ。単なる事故ということもある。それとも、全く別の理由の殺人かもしれない」

「伯父の立場でもある私が言うと信憑性に問題があるかもしれませんが、ミカエル王子殿下を皇太子に擁立しようと思う者はラーウィック公国にはほとんどおりません」
セルゲイが発言をした。
「グレース王妃とセルゲイ殿以外には、ではないか」
「姉上はそのようなことを考える方では絶対にありません。ミカエル王子殿下が王太子の地位に着いたとしても、貴族が反対し、後で内紛が起こるだけでしょう。私は国をまとめることができるルイーズ王女が王太子となられることを望んでいます」
セルゲイは少し声を強くして、それでも落ち着いて答える。

「その通り、だな。わざと言ってみたが、挑発には乗らないのだな。ミカエルを王太子に担ぎ上げても、貴族がまとまらないだろうし、ルイーズとの婚姻を利用して、公国を実質支配することの方が現実的だ。ルイーズを皇太子に擁立する方が価値がある。つまり、死んでは困ると言うことだ」

「では修道院内の権力争いかしら?でも、そんなことが起こるような権力、そもそも修道院にないと思うけど」
私が口を開いた。
腐敗をしている修道院ならば、利権が絡むかもしれないけれど、この修道院は真面目に質素倹約に努め、戒律も上層部になるほど厳しかった、と記憶が教えてくれている。誰かが豪勢な生活をしているわけでもない。まあ、王女の部屋ですら、この質素ですものね。

「これは、意図的に仕組まれた王女の殺人、事件です」
ソフィアが突然発言をした。
「なぜそう思う?」
「私が殺されかけたからです」
「殺されかけた、だと?」
忘れていたけれど、転生するときに、本当のルイーズから妹のソフィアを助けてと頼まれていた。
こういうことなの?
狙われていたと知っていたの?

ソフィアが回想録を語り始めた。

〈回想録〉
事件前日。
この日は、久しぶりに寄付金が多い未亡人が、新しく修道院に入る予定で、修道院上層部のみ参加の晩餐会が開かれた。

「新しい方はどんな方かしら」
「どんな方でも関係ないわ」
「寄付金が多いらしいから、私たちの家庭教師の1人になるかもしれないわ」
「だったら、優しい方だといいけれど」
「新しい方が開いて下さる晩餐会では、どんなお料理が出るかが楽しみ!」
「いいなぁ、美味しいものが食べられて」
「デザートが持ち帰られるものだったら、テイクアウトしてくるね」

ルイーズは16歳以上になって以降、晩餐会に出席しており、その日も出席。ルイーズが呼ばれた後に、私は自室で1人で夕食を取ることになった。
その日は今まで見かけたことがない、新しい修道女の見習いが食事を運んできたので、不思議に思い、声をかけた。

「新しい見習いの方ですか」
「はい、本日修道院に参りました。……こちらが本日のご夕食でございます」
「これからも配膳してくださるの?これからどうぞ宜しくお願いね。あら、いつもよりもメニューが豪華ね」
「そうなのですか。王女殿下はいつもこのようなメニューを召し上がっているのかと思っておりました。本日の夕食は私の主人がご挨拶として開いた晩餐会のメニューです」

見習いは、私と全く目を合わさずに黙々と夕食の準備をした。動きに無駄がなく、愛想もない。トレイから前菜、スープ、ステーキ、パン、サラダ、果物、焼き菓子が並べられた。
晩餐会がある日でも私のメニューは普段食べているものと同じものが出るのが通常。でも、この日は晩餐会と同じものが出された。前菜が美味しそうで期待をしたものの、メインは魚介がたっぷり入ったスープ。その分、ステーキは少ししかなかったので、期待が外れ、テンションがだだ下がりだった。

「まあ、新しい方の付き添いで来られたのね。新しい方はなんとおっしゃるのかしら」
「レディーアンとお呼びいただければと思います」
「どんな方なの」
「私のご主人様はお体が弱く、あまり外に出られる方ではございません。物静かで落ち着いてらっしゃる方です」
「まぁそれは、お体を大切にしてほしいものだわ」
見習いは用意が終わると直ぐに下がった。
私は魚介類が苦手でスープには手をつけず、それ以外は全て食した。

「では、原因はスープではないと言うことか?」
ヴィーが口を挟んだ。
「いいえ。スープです」
ソフィアが断言をした。

回想録が続く。
晩餐会が終わり、ルイーズが戻ってきたので、少しおしゃべりをして、いつも通り、一緒に就寝した。

「晩餐会はあまり話が進まなくて、退屈だったわ。でも、デザートの梨と焼き菓子を持って帰ってきたの」
「焼き菓子はとても嬉しいわ。実は私にも出たのよ。取って置いたの。明日、こっそり食べましょう。そうだ、レディーアンはどうでした?」
「なぜ名前を知っているの?」
「私のところにはレディーアンの付き添いの見習いが来たから知ってるのよ。お名前と体が弱いことだけを教えてもらったの。でも、私の苦手な魚介スープが出てきたからガッカリして、それ以上は会話が続かなかった」
「そう。レディーアンは全然お話されない方なの。はいとか、いいえとかばかりで。顔立ちは綺麗な方ではあったけれど、とても小さくて細くて、あまり召し上がらなかったわね。オルデラン帝国の西にある町の海洋貿易商人の未亡人だそうよ。趣味はレース編みと詩を書くことですって」
「見習いの方は背が高くて、変に甲高い声だった。素っ気ない人だった。はぁー、レース編み!まさか私の家庭教師になったりしないわよね」
「クスクス、クス。ソフィアは刺繍やレース編みが大嫌いですものね」
「まぁ、意地悪ね。もう知らない。おやすみなさい」
「まぁ、拗ねちゃったの。おやすみなさい」

2人とも直ぐに眠りについた。
夜中にルイーズの体調が急変し、ルイーズが苦しみ出したので、私は目を覚ました。
「お姉様、大丈夫?今、人を呼んでくるわ。お水も貰ってくる。この洗面器に吐いてしまって頂戴」

人を探しに、下の階に降りた。丁度、夕食を上げ下げしに来た修道女見習いが廊下に立っていた。

「まあ、どうなされましたか」
「ルイーズお姉様の様子が変なの。誰か医学に詳しい人はいないかしら」
「私は薬学に詳しいです。薬草の研究をしておりますので。診察をいたしましょう」
そして2人で部屋に戻った。
既にお姉様はぐったりとして、うつ伏せに倒れていた。

「ルイーズお姉様!」
駆け寄ってお姉様を摩ったけど動かず、最悪のことが起こっていたことが分かる。息が事切れていた。
「お亡くなりになっていますね」
見習いが首筋と手筋の脈を確認してから言った。
「嘘でしょう?」
「現実です。原因は即効性がない、でも毒性が強い食中毒でしょう。ご遺体は丁寧に葬らせていただきますのでご安心下さい」
その声がとても不気味で、私が睨みつけら、見習いが微笑んだ。

「ソフィア様もご一緒にね」
何を言われているか判断する間もなく、私は両手を拘束され、ベッドに押さえつけられた。抵抗しようとしても、全く身動きが取れなかった。
「スープを飲んでいれば、こんな面倒なことにならなかったのに」
見習いは手の拘束を解き、馬乗りになり、無理矢理に私の口をこじ開けて、羊袋に入った液体を飲ませた。飲まないように抵抗をしたけれど、口を指で広げられたので、結局は飲んでしまった。
「約半日程で効きますから、それまではぐっすりとお休み下さい」
その後私はお腹を殴られて、気を失った。

〈回想録終〉
ソフィアは淡々と話した。
「私の手首には拘束された時の掴まれた跡が残っています」
ソフィアが両手を差し、腕を磨くった。
ヴィーはその手首の掴まれた跡と自分の手の大きさを比べてみる。
「セルゲイ殿、手の大きさを比べてくれないか」

ソフィアの手首に残った跡はヴィーより大きく、セルゲイより小さかった。

「痛かったでしょう。すぐに治してあげる」
そう言って私はすぐに癒しの力で治療をした。

「殺人だとすると」
ヴィーが考え込んだ。
「王女2人を狙ったと言う事ですね」
セルゲイが険しい顔で答える。

「もう逃げていると思うが、その見習いがどこに行ったのかを調べる必要がある。また黒幕は誰なのか、誰がどこまで加担をしているのか」
ヴィーは少し怒って、そして覚悟を決めたように息を吐いた。

「この後の行動をどうするか確認しよう。ルイーズとソフィア2人が生き返ったことが分かれば、また別の方法で狙ってくるかもしれない。上層部がいなくなって、混乱している修道院にいるよりも、警備が可能な場所の方が良い。明日より、王女2人は私と共に公国の城、キール城に行く。もともと2週間後の成人式前には城に戻ることになっていたので、それが早まっただけ。問題はないだろう。反対にブレアとリリーは修道院に残り、暫くここに身を隠せ。丁度この部屋が空くので、この部屋を使わせてもらうといい」
「セルゲイ殿は先に城に戻っていただき、王女2人が生き返ったことを公国王に伝えて欲しい。そして明日、私と2人が戻ることも。また城での警備体制を準備しておいていただきたい」

「調査が終わり次第、すぐに立ちます」
セルゲイが答えた。

「ブレア様の警護は身を呈して行います」
リリーが答えた。

そして、ブレアとソフィアと私は肯定の意味で頷いた。

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