悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きていきます。私にしか使えない魔法で、モフモフたちとスローライフ

末松 樹

第4話 イケメンエスコート

 翌朝。今日は朝から入学式なので、寮の部屋に置かれていた制服に着替えてホールへ行くようにと、テーブルの上に紙が置かれていたんだけど……見事に寝過ごした。
 だって、魔法が使えるんだもん!
 昨日はブランチ・アローという、木の枝を矢のように飛ばす魔法を教えてもらい、真っ暗になるまで裏の森で乱射してしまった。
 おかげである程度狙った所へ飛ばせるようになったんだけど、その代償が睡眠不足だ。
 その上、困ったのが制服で、日本のセーラー服とかと違い過ぎるっ!

「ゆ、ユリアナさん! この服って、どうやって着るんですかっ!?」
『最初はコルセットからじゃないかしら?』

 コルセット!? 何よ、コルセットって!
 知識としては知っているけど、そんなの身につけた事なんて無いし、何よりめちゃくちゃ苦しいんだけどっ!
 あと、地獄のコルセットを限界ギリギリまで緩くして着たのに、水色をベースにした制服も、着るのがめちゃくちゃ大変なんですけどっ!
 ようやく着終わった時には、とっくに集合時間は過ぎていて、それどころか入学式が開始している時間だった。
 それに気付いた直後、ときメイのシステムメッセージみたいな声が聞こえてくる。

――称号『遅刻の帝王』を得ました――

 くっ……こんな称号要らないんだけどっ!
 基本的に称号は、何か特殊な条件を満たした時に得られる、ボーナスポイントだから、マイナスになる事は無い。
 この称号だって、ゲームでは一ヶ月連続で授業に遅刻すると得られる称号で、精神力の成長率が上がるという効果がある。
 ……怒られ過ぎて、メンタルが鍛えられるからだろうか。

「って、こんな事を考えている場合じゃなかった! ユリアナさん、行ってきますっ!」
『あの、ゲートを使えば一瞬で着きますよ?』
「なるほど! 流石、ユリアナさんっ!」

 寮からホールまで全力で走って行くつもりだったけど、この魔法学園の敷地は広過ぎるから、凄く助かる。
 ここから裏の森まで行けるという事は、反対側のホールにだって行けるはずだしね。
 ……あれ? でも、待って。
 よく考えたら入学式って、ときメイの主人公アメリアとルーシーが出会うイベントがあったよね?
 だったら、むしろ行かない方が良いんじゃない?
 教室の場所も知っているし、学園生活では目立たずに、ひたすら辺境で生きる為のスキルを習得するつもりだし。
 あ、でもゲームと同じクラスかどうかだけは確認しておいた方が良いかも。
 ゲームとクラスが違ったら困るもんね。

「≪ゲート≫」

 ホールの裏手に植えられている、大きな木へ移動すると、クラス分けの表が掲示されているホールの入り口へ行こうとしたんだけど、

「何者だっ!」
「えっ!? えぇっ!?」

 突然男の人の声が聞こえたかと思うと、金髪碧眼のイケメンが現れた。
 制服から三年生だと分かるけど……こんなキャラ、ときメイに居たかな?
 少なくとも攻略対象ではないから、モブキャラなんだろうけど、それでもこんなに格好良いの?
 もしかして、この世界って、全員美形とか!?

「む……そのリボンは、一年生か。どうして、こんな所に居るんだ? 今は入学式の真っ最中だろう」

 どうしよう。流石に木魔法でワープして来ましたとは言えないし、適当にごまかした方が良いよね?

「えーっと、実は道に迷いまして」
「こんな場所で……か? 寮からホールまでの案内板もあったし、分岐点には上級生が立っていた筈だが」
「……正直に言うと、それに加えて大寝坊しました」
「…………はぁ。分かった。ホールへ連れて行くから、ついておいで」

 そう言って、イケメンが私の手を取り、スタスタと歩きだす。
 ひゃぁぁぁっ! 凄いイケメンが私の手をっ!
 日本でも、こんな事は今まで経験していないので、思わず声が出そうになってしまったけど、ここがときメイの世界だと思い出し、ぐっと我慢する。
 ……ルーシーじゃなくて、アメリアになっていたら、毎日こんな感じなんだろうな。
 そんなの心臓がドキドキし過ぎて、耐えられないのではないだろうか。
 そんな事を考えながら暫く歩いていると、突然イケメンが足を止める。

「君の名前は?」
「ふぇっ!? さくら……じゃなくて、ルーシーです」

 攻略対象ではないとはいえ、イケメンに手を握られ、名前まで聞かれてしまい、ビックリし過ぎて日本での名前を答えてしまった。
 こ、これはもしや、フラグが立ったの!?
 モブだけど、イケメンの先輩と恋のルートに!?

「お、あったぞ。ルーシーは一年一組だな」

 え? ……あ、気付いたら、クラス分けの掲示板の前だった。
 私の事が気になって、名前を聞いた訳じゃなかったのね。
 べ、別に残念とか思ってないもん。
 ルーシーは悪役令嬢だから、誰とも結ばれないって分かってるし、一人で生きていく為のスキルを磨くんだからっ!

「あの、ありがとうございました。後は大丈夫ですので」
「いや、ルーシーは相当な方向音痴だと判断した。席まで案内しよう」

 えぇぇっ!? 未だに手を離してなかったのは、そういう事っ!?
 待って! 中に入ったら、アメリアに出会っちゃう!
 それに、こんなイケメンにエスコートされて入ったら、目立っちゃうよぉぉぉっ!

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