お断りするつもりだったツンツン婚約者が直球デレデレ紳士に成長して溺愛してくるようになりました

三崎ちさ

15.聖霊祭のお役目に選ばれました

 我が国の春のお祭り、精霊祭。国を挙げての大きなお祭りだ。

 国の守護神である女神様に、春の花を『精霊』が捧げ、今年一年間の豊穣を願うお祭り。

 もちろん、精霊なんて御伽噺の世界で、本当にはいないから、女の子が代表で一人選ばれて、その子が『精霊役』としてお役目を果たすの。

 精霊役は厳正なるくじ引きの結果、決められる。対象は、我が国の十五歳になる少女。……つまり、私も対象だ。

 早いもので、私は今年、十五歳となる。



「いやあ、ミリアが! まさか精霊様になるなんてな~」

 お兄様が呑気にハッハッハと笑う。お兄様は今年でもう二十一歳になられたけれど、まだご結婚はされていなかった。あれだけおモテになるのに。

「もう、笑い事じゃないわよ! わ、私、ドキドキして今からどうにかなりそうだわ!」

 お役目に選ばれたことが告げられるのはお祭りの一ヶ月前。
 これから衣装を作ったり、祈りの踊りを覚えたり、色んな準備をする。
 十五歳の女の子は、誰が選ばれてもいいようにこの時期には一切の予定を入れないようにしている。私も、カミルと毎月会っていたけれど、今月と来月は会う約束をしていなかった。

「私、ちゃんとできるかしら」
「大丈夫だって、踊りの先生は毎年毎年お役目の子にレッスンしている大ベテランだし、衣装を作ってくれるのは国で一番人気のテーラーだろ? 楽しい思い出にしかならないよ!」
「なんでお兄様はそんなに楽天家なの?」
「ミリアだったらできるって思っているからだよ!」

 もう! だから、そういうことを気軽に言わないで、って言っているのに!
 お役目が決まってからお兄様はずっとニコニコしていた。

 実はもう、衣装の採寸は終わっていた。お役目を告げに来た役人がそのまま採寸までして行ったのだ。

 ……綺麗な衣装を着れるのは楽しみ。妖精というだけあって、毎年、お役目の女の子はふわふわでヒラヒラでキラキラな美しい色彩の衣装を身に纏っていた。透け感のある生地をふんだんに使って、動くたびに布がふわりと舞って、本当の妖精になったかのように、みんな可愛らしかった。

(……私も、あんなふうになれるのかしら!)

 実は、私のお母様も、十五歳の頃に精霊役に選ばれていたの!

 その時の姿絵が我が家の居間には飾られていた。
 ふわふわのミルキーベージュの髪を、柔らかい色彩の花飾りで彩り、精霊の衣装を身に纏って微笑む若かりし頃のお母様。

 お父様も、私が精霊役に決まったときに、とっても懐かしそうに目を細めながら、お母様によく似た私の髪の毛を優しく撫でてくださっていた。この時にはもう、お父様とお母様の婚約は決まっていて、お父様は婚約者の美しい晴れ姿に感動されたそうなの。

(私も、お母様みたいに……)

 そう思うと、自然と笑みが溢れた。
 さっきはつい、楽天家と言ってしまったけれど、お兄様の言う通り、せっかくの幸運をいただいたのだから、この機会を楽しむべきだわ!

 去年の精霊の踊りを思い出しながら、私はクルクルとお部屋の中で回った。


 ◆


「お嬢様、カミル様から手紙が届いていますよ!」
「まあ、本当!? ありがとう!」

 笑顔のマチルダから、封筒を受け取る。飾り気のないシンプルな封筒にロートン家の刻印が押されていた。

 会えない代わりに、私とカミルは手紙のやり取りをしていた。週に一度か、二度くらい。手紙が届いたらすぐに中身を読んで、夜なべしてお返事を書いて、次の日の朝に送ってもらうの。

 鼻歌まじりに私はカミルの手紙を取り出して、読む。カミルは、けして汚くはないけれど結構癖の強い字を書く。文字を払う線が長いのかな? あと、書き出しのインクだまりが濃い。

 カミルの書く字が、私は好きだった。内容を読み込む前に、カミルの文字がたくさん書かれているのを見て、私は顔を緩ませていた。

「ええと……カミルもなんだか、忙しいみたいね……」

 カミルは聖霊祭の日まで、やらなくてはいけないことがあるらしい。忙しくなるので手紙を書く頻度が少なくなるだろうと、謝罪の言葉があった。
 残念だけど、仕方がない。カミルは侯爵家の跡取り息子なのだし、色々あるんだろう。

(きっと、ミリア、お前はお役目に集中しなさいと女神様がおっしゃっているのだわ)

 うんうんと頷き、カミルの手紙をぎゅっと胸に抱きしめて、私は気合を入れた。

 精霊祭の日、カミルがあっと驚くくらい、素敵な精霊になれるように頑張ろう。

(が、頑張ったら、惚れ直してくれるかもしれないもの! せっかくの晴れ舞台、がんばるしかないわ!)

 まあ、カミルはすでに十分すぎるほどデレデレなのだけれど──とは思いつつ。

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