お断りするつもりだったツンツン婚約者が直球デレデレ紳士に成長して溺愛してくるようになりました

三崎ちさ

1.最悪な顔合わせ①

「フン、なんだ、つまらなそうな女」

 今日は私が初めて婚約者とお顔を合わせる日! とっても楽しみにしていたの!

 私の婚約者は侯爵家のカミル・ロートン様と仰る、格好いい男の子。釣書の姿絵を見て、私はすごい楽しみだった!

 だって、とっても、すっごい、格好良かったんだもの!

 ちょっと固そうだけど、キレイな金髪! 長いまつ毛の、ヘーゼルアイ! お顔も小さくて、眉の形も良くって、とにかく、格好いいの!

 こんなに格好いい男の子が私の婚約者になるだなんて、嬉しくてたまらなかった。
 絵に描いたような王子様! いえ、実際に、私が拝見していたのは絵だったんですけども!
 ロマンス小説が大好きで、歳のわりに耳年増の私はとにかく彼と出会うのが楽しみだった。

 だったのに。

「カミル! こら、ちゃんと挨拶しないか!」
「……だって……」

 男の子は不機嫌そうに顔をしかめて、チラリ、ときれいなヘーゼルアイを私に向けたけれど、すぐにそっぽを向いてしまう。

 そんなふうにされるものだから、私も気まずくってつい、彼から顔をそらしてしまう。なんだか、冷たい気がする。気のせいかしら。

「申し訳ありません。どうも、照れてるみたいで」
「照れてなんかない! こんな大したことないやつに、そんなわけないだろ!」

 大きな声を近くで出されて、つい身体をビクッとさせてしまう。カミル様は顔を赤くして、彼の父親に怒っていた。
 男の子って、あんなにおっきな声が出るんだ。ビックリした。

 カミル様は私のお顔を見てくださらない。たまーにチラッと目が合うんだけれど、その度に顔ごと目を背けてくるものだから、なんだかもう、嫌になってきちゃった。

 私、挨拶する時、なにかよくないことしちゃったのかなあ。

 いままでマナーの先生からあんまり褒めてもらったことってなかったけれど、カミル様にお会いすると決まってからは頑張って、先週くらいにやっとお墨付きをもらえたのに。十歳にもなって、ようやく褒めてもらえたくらいじゃ、やっぱり全然よくなかったのかなあ。

 それとも、私の顔がお好きじゃないのかなあ。釣書に似顔絵はあったと思うのだけれど。こんなに嫌なら、お会いする前に断ってくださっていたらよかったのに。

 ああ、政略結婚だから、お断りできなかったのかしら。
 でも、政略結婚だというなら、今この場でもう少しだけでも、愛想良くして欲しいのだけれど!

 私は泣きそうな気持ちを何とか堪えて、お父さまや、ロートン侯爵が気を利かせて振ってくれるお話に笑顔で応えた。

 その間も、カミル様はむっつりとされていて。

 ──なんて人! せっかく格好いいのに、子どもっぽいわ! 私のこと好きじゃなくても、もうすこし態度というものがあるでしょう!

 いい加減、私もつられてむくれてしまいそう!
 でも、我慢、我慢よ。私は立派なレディですもの。

「そうだ、ミリア嬢はお花はお好きかな? ちょうど今、我が家のバラ園が見頃を迎えていましてね」
「まあ!」

 お花は大好き、バラは特に!

 不機嫌になりかけていた私だけれど、素敵な声かけをしてくださったロートン侯爵に、つい前のめりに頷いてしまった。侯爵は瞳を輝かせる私にニコリと微笑んで見せてくださった。

 大人な微笑みを見たら、私ったら、はしたなかったかしら。そんな気がしてきたから、すぐに居住まいを正して、そっとカミル様を横目で見る。

 そうしたら、一瞬だけ目があって、慌てたようにまたカミル様はそっぽを向いてしまった。

 悲しい気持ちになりながらも、私はカミル様に声をかける。せっかく、ロートン侯爵が気を遣って話題を振ってくださったんですもの。それに、私もバラが見たいわ!

 カミル様と会ってちょっと憂鬱だった気持ちが、バラのおかげで少し浮き上がっていた。

「わ、私、お庭をのんびりと見て歩くのが好きなの。よかったら案内してくださらない?」
「……おれが?」

 カミル様はきょとんとした顔をされた。露骨に嫌な顔をされなかっただけ、私はホッとする。

「カミル、行っておいで」

 ロートン侯爵から促されて、男の子はしぶしぶ……という感じで椅子から立ち上がり……私を置いて歩いていってしまった。

 えっ、ついてこい、ってことかしら。ついていっていいのかしら?

 どうしたらいいのかオロオロしていると、ロートン侯爵が苦笑混じりに肩を叩いた。

「すまないね。どうも素直じゃなくって……庭園はあちらだよ。ついていってあげてくれ」
「は、はい」

 従者の人にも案内されながら、私はカミル様の後を追いかけた。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品