極道、溺愛。~若頭の一途な初恋~
36 誓い(終)
龍牙は何やら考え込むようにして眉根を寄せていたが、決心がついたのか藍子を見据える。
「藍子に言いたいことがある」
「……な、なんでしょう」
急に改まって、何を言うつもりだろうか。
龍牙はみるからに顔を硬くして緊張しているようだった。突然どうしたのかと彼の言葉を待っていると、ごくりと喉の音が聞こえ、龍牙が口を開いた。
「藍子、愛してる」
照れて顔が赤くなっているのに視線をそらすことなく告げられたその言葉に藍子は息を飲む。
龍牙の口から聞くことなどないと思っていた言葉が飛び出し、藍子の瞳は自然と潤んでいく。彼の表情からしてかなり心構えが必要だったのだろう。それも涙を溢れさせる要因だった。そうまでして伝えようとしてくれた気持ちがうれしい。
「お、おい、なんで泣く」
龍牙が戸惑いの声を漏らす。涙でよく見えないけれど焦っているみたいだ。龍牙が泣かせることを言ったのに動揺している姿がおかしくて笑いたいのに、藍子の気持ちとは逆に涙の粒が溢れ頬を伝っていく。
「だって、なんかびっくりして……」
「嫌だったか?」
藍子はブンブンと首を振る。するとさらに涙が溢れ出して、一度流れると止まらなくなった。
「そんなわけ、ないじゃない、ですか……うれしくて」
涙のせいうまくしゃべることができない。必死に手で拭っても次々と涙が溢れキリがない。
「それなら、言った甲斐があったな」
龍牙の指が藍子の涙をすくい、目尻に口づけた。そんな繊細な仕草すら愛されていることを実感して胸が熱くなる。涙にふれる龍牙の指を掴んだ。彼の指は藍子の涙で濡れてしまっている。
泣きじゃくっている場合ではない。藍子も龍牙に伝えなければいけない。
喉が詰まりそうになりながらも藍子は龍牙をまっすぐ見つめて口を開いた。
「……私も龍牙さんを愛してます」
「……っ」
龍牙も動揺に身を震わせる。
口にするには恥ずかしい言葉なのに、言葉にしたら彼のことがさらに愛おしくなる。不思議な言葉だ。見上げる彼の瞳はわずかに濡れていて、それに気付いた藍子はまた涙を流した。
龍牙は涙を浮かべながらも意志の強い瞳で藍子を見つめたままだ。
「……藍子、極道の世界は厳しいかもしれない。今までの藍子の生活とはまるで違うと思う。男の世界に嫌気が差すかもしれないし、危ない目に遭う可能性だってないわけじゃない」
龍牙の屋敷に泊めてもらっている日数も、まだ一ヶ月にも満たないだろう。表面で楽しい空間だと思っているだけで裏ではなにが起っているかわからない。鷲上のような男が新たに出てこないとも言えないだろう。それは龍牙にとっても未知だろう。
「何があっても俺がお前を守る。――だから」
龍牙は一度息を飲む。
「俺はまだまだ未熟だが、これからも俺とずっと一緒にいてくれないか」
彼の告白は少し自信なさげで、でも曲がらない意志を感じる。誰に何を言われても、藍子の気持ちはとっくに決まっている。
「もちろんです。一緒にいさせてください」
藍子は目に涙を浮かべながら微笑み返した。
手を繋ぎ、指を絡める。それは誓いの儀式のようだった。
「……藍子を幸せにする。絶対に」
「私も、龍牙さんを幸せにします」
与えられているだけでは嫌だ。藍子も、龍牙を支え助け合いたい。
「ああ、そうしてくれ」
龍牙がはにかみ笑った。
初めて見る笑顔らしい笑顔に藍子は釘付けになった。
龍牙と一緒なら、自由な未来も幸せな未来も、一緒に作ることができる。
藍子は涙を流しながら龍牙の溢れるほどの愛を受け止めるように、誓いの口づけを交わした。
終
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