極道、溺愛。~若頭の一途な初恋~
21 ひとときの甘い時間
食事を終えて少しするともう良い時間になった。夜が近づくたびに明日が近づくということで、明日からのことを考えなければならない。家のことも仕事のことも問題は山積みだ。まずなにから解決をしていけばいいのだろう。気ばかりが急く。
「……そろそろ風呂に入るか?」
「あ、そうですね。いいですか?」
「もちろん」
彼が立ち上がり部屋を出て行くのでついて行くと、お風呂にはすぐに到着した。というか、龍牙の部屋の真横にある。木製のドアを開けると脱衣所があり、奥には贅沢な広さのお風呂スペースだ。外側には大きな窓があり、整えられた庭園がよく見える。夜になるとライトアップされている庭園は雰囲気があった。
「風呂はここだ。ここは俺専用の風呂だから、誰かが入ってくる心配もない」
「ありがとうございます」
龍牙専用のお風呂があるということがまず驚きだ。龍牙専用ということは組長専用もあるのだろう。この広い屋敷の中にいったいいくつお風呂あがるのだろうと考えるだけで藍子との差を感じる。藍子の実家もそこそこ広いが、お風呂は一つだった。
藍子が着替え始めようとしても、背後には龍牙が立ったままだ。それどころか、彼もシャツを脱ぎ、鮮やかな龍が顔を出していた。
「あの……龍牙さん?」
「ん?」
彼は藍子を振り向きながらスラックスのベルトもゆるめ始める。
「ま、待ってください! なんで脱いでるんでしょうか」
「俺も入るからな」
「ええっ!」
「当たり前だろ」
当然のように言い放ち、ついにベルトを外してしまった。藍子は彼の身体を見ていられなくて背を向ける。
「ほ、本気ですか……」
「ああ、本気だ」
龍牙が力強く頷く。どうやら彼は真剣らしい。
龍牙は以前よりも大胆かつ強引になっているような気がする。藍子も龍牙のことが好きなのでできる限りの要望には応えたいと思っているが、心の準備というものが必要だ。普段気の強い藍子はこういうことに関してはひどく弱い。服を脱いでいる龍牙は止められないようなので、せめてものお願いをした。
「それならせめて、私が先に入るので、あとから来てくれませんか?」
「あとから?」
「……さすがに、恥ずかしすぎます」
涙目になりながら龍牙を振り向く。目が合った瞬間龍牙は動揺を見せ、ごくりと唾を飲み込んだ。
「……わ、わかった」
藍子のお願いは成功したみたいだ。
一度龍牙に脱衣所を出てもらい、藍子は服を脱いだ。長い髪をひとつに纏めてタオルを持って風呂場に入る。本当なら大きなタオルを身体に巻いて入りたかったけれどそれではお風呂に入る意味が無い。
一歩中へ入ると、どこかの旅館の温泉のような雰囲気だ。
身体を洗ってから広々とした湯船に身体を沈める。ヒノキでできたお風呂場はいい香りがする。男性ばかりの家だと汚かったり騒がしいのかと思っていたらまったくそんなことはなかった。掃除がきちんと行き届いており、静かな空間だ。
龍牙がいなければ、ゆったりできていたところだ。
「……いいか?」
「ど、どうぞ」
遅れて入ってくる龍牙に背を向けた。龍牙は身体を洗ったあと、湯船に入ってくるのが窓越しに見える。
「そんな縮こまってたら見えないだろ」
肩に手を置かれ、びくっと身体が揺れた。
「だ、だって」
「外からは見えないようになってるから安心しろ。ついでに防弾ガラスだ」
「……そういう問題じゃありません」
龍牙に見られるのが恥ずかしいだけだ。
抱かれた時は暗かったから恥ずかしさも軽減したが、今は明るい場所だ。隅々まで見えてしまう。龍牙はそんな藍子の気など知らず、近づいてきて肩を抱く。藍子は身体を縮めたまま彼の身体に身を寄せる。
「さっきの、可愛かった」
龍牙がぼそりと言う。見上げると顔を赤くした龍牙がいた。それがお風呂のせいなのかわからない。
「恥ずかしがってる藍子は可愛いな」
「あっ……」
龍牙の手が藍子の身体を開いてしまう。隠そうとする手をとらえられ、そのまま情熱的な唇が重なった。お風呂の中で暴れたせいで水面が波打つ。
「龍牙さんっ」
「ん?」
龍牙は藍子に抵抗する隙を与えてくれない。意義を唱える声は彼の唇に飲み込まれてしまう。深い口づけに藍子は身を捩るけれどビクともしない。そうしているうちにも舌は絡めとられ翻弄される。
藍子は龍牙にキスをされると何も考えられなくなってしまう。お風呂に入っているせいかいつもよりも温度が高いキスは藍子の身体の中を潤す。
「龍牙さん……」
「藍子、可愛い」
龍牙が藍子のまとめていた髪をほどく。頬を撫でられ何度も唇が重なる。止まらないキスに呼吸が苦しくなるのはいつものことだ。
ここは龍牙の家なのに、と思いながらも二人きりでお風呂に入っているシチュエーションが刺激となりいつも以上に悦楽を感じていた。
お風呂場だというのに、藍子は龍牙の情欲に乱されてしまった。
先に上がった龍牙が脱衣所を出たのを確認してからお風呂から上がる。鏡を見ると、顔がゆでだこのように真っ赤になっていた。
「……龍牙さん、お風呂でまであんなことするなんて」
初めてのことに思い出すだけで身体が熱く火照る。むしろ湯あたりしてしまったのではと思うくらいだ。最後までされなかったのが救いというべきか。
火照った身体を冷ましつつ、寝間着を着る。
今日のところは着る服がないので龍牙に黒いTシャツとスウェット、それから男性もののパンツまで借りることになった。かなり大きいサイズなので、Tシャツが膝下まできていてワンピースになるほどだった。ここまで長ければいやらしさも無い。これならスウェットは必要なさそうだ。藍子はそのまま龍牙の部屋に戻る。これほどお風呂が近いと移動も楽だ。
「龍牙さん、寝間着ありがとうございました。これだけで大丈夫そうです」
「え? ……っ!」
藍子の姿を見て、龍牙は手で口元を覆う。何かおかしいところがあったのかと彼の顔を覗き込むが、目をそらされてしまった。
「それ、龍牙さんの寝間着ですか?」
「あ? ああ、まあそうだが……」
龍牙は藍子のほうを見ないまま答える。彼は藍子と同じようにTシャツを着て、下はボクサーパンツのみだ。スーツ姿や私服ともまた違う龍牙の普段の姿を見ると胸が鳴り動揺する。
「龍牙さん?」
彼はなぜか藍子に背を向けたままだ。なんだか変な雰囲気になってしまった。お風呂で温まったからか眠気が藍子を襲う。今日はいろいろなことがあって疲れているしもう眠ってしまいたい。
「……あの、じゃあお先におやすみなさい」
龍牙の部屋には布団が一人一式用意され、くっついて敷かれていた。これもなんだか恥ずかしい光景だが、藍子は先に布団に入ろうとする。
「ひゃっ!」
すると、背後から大きな身体に抱きしめられる。
龍牙の身体はお風呂上りのせいか熱を持っていた。背後からはかすかに荒い息遣いが聞こえてくる。なんとなく嫌な予感がした。
「龍牙さん、だめですよ?」
念押しすると彼はさらにぎゅっと強く藍子を抱きしめた。
「さっきから俺を煽ってるのは藍子だろう。足りねえ」
はぁ、と深いため息が首筋をくすぐる。煽った覚えなどないが、お尻のあたりに感じる龍牙の熱にさすがに焦った。
「ちょ、ちょっと! ここは龍牙さんの実家ですよ?」
「わかってる」
「さっきだってお風呂で……」
思い出すだけでまた身体が熱くなっていく。これはお風呂だけのせいではない。
「藍子も気持ち良さそうだったじゃないか」
「う……」
図星をさされると藍子は何も言えなくなる。気持ちよかったのは確かだが、藍子からねだったことではない。龍牙が、普通に一緒にお風呂に入るだけにすればよかっただけだ。
「このTシャツも、ずるすぎるだろう」
「えっ」
そう言いながら龍牙は藍子を解放せず、むしろ藍子の身体に手を這わせる。後ろから回ってきた手は藍子の胸にふれた。すると彼の手がビクンと反応を示す。
(……まずい)
「……藍子、下着は」
「あ、えーと……」
一度外した下着をもう一度つけて眠るのは抵抗があったのでブラジャーはつけなかった。さすがにお風呂で色々してしまったし、このまま眠るだけのはずだろうという甘い考えだった。Tシャツは黒いのでさわられなければバレなかったはずなのに。
龍牙は呆れたように大きく息を吐いた。さすがに慎みがなかっただろうか。
「はぁ……もう限界だ。さすがにそれは藍子が悪い」
「そんな……きゃっ!」
藍子はついに布団に押し倒される。見下ろす龍牙の息は荒く目はギラついていて、獣のようだ。藍子としてはまだ龍牙の実家で彼に抱かれることに抵抗はある。
「龍牙さん……本当にするんですか、実家ですよ?」
ここまでの龍牙を藍子はとめられる気がしない。お風呂場の時よりも様子がおかしい。
「ここは奥の部屋だから声が聞こえないようになってる」
そういう問題ではないはずだが、龍牙は気にしないらしい。
「藍子」
低い声に名前を呼ばれ胸が鳴る。
ずっと本名を知られていなかっただけに、龍牙に名前を呼ばれることに弱い。日常のふとした会話の中でさえも名前を呼ばれるとドキッとするくらいだ。
こんなに熱く見つめられて名前を呼ばれたら心が震える。
お風呂の時から彼は野獣のように藍子を求めてくる。静まったはずの身体はお風呂でされたこともあり、すぐに火がついてしまう。だめだと思うのに龍牙の目を見ていたら流されてしまいたいとも思う。
「つらいことがあったし休ませてやりたい気もするが、今日のところは俺に抱かれて忘れろ」
押し倒しておいて今さらずるいことを言う。さっきからそんなつもりだったというのだろうか。まさか、考えすぎだろう。
龍牙は早々に着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。彼の身体は逞しく、いつ見ても絵になる身体をしている。お風呂でも見たばかりで何回も見ている姿なのに毎回うっとりと見とれる。気持ちは徐々に傾いていた。
「藍子……好きだ」
その言葉はダメ押しだ。
「もう……。私も、好きです」
結局藍子は龍牙に絆されるまま、身体を委ねていた。
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