ある日、超能力に目覚めた件

ファーストなサイコロ

4P

 不思議な力に目覚めて一か月が経っていた。野々野足軽は毎日のせっせと自分に目覚めた力を使ってその力の詳細を調べていってた。そして毎日使って鍛えたおかげか、最初は体を五センチだけ持ち上げて、三十秒維持するだけが限界だったのに、今や一メートルは浮いて五分くらいはそのままでいれた。

「一か月でこの成長はなかなかにすごいのでは?」

 と何気に野々野足軽は思ってた。特に上昇率だ。一メートルも浮くと、もうかなり浮いてる感じになる。自由自在に左右とかには行けないから、ただ浮いてるだけ――ではあるのだが、それでもかなり浮いてる感はある。それはなかなかにたのしかった。

 それに何よりも、自分の成長が垣間見える……それが野々野足軽のやる気を促進してた。

「よし……今日はこのくらいかな?」

 そういって野々野足軽は浮かぶのをやめて、勉強机の引き出しから石を取り出した。今日はそれなりに大きな石だ。こぶし大のごつごつした石。勉強机の一番下の引き出し、大きなスペースが取ってあるそこにはたくさんの石が詰め込まれてた。

 小学生か!? と言いたくなる所業だが、別に野々野足軽は石が好きで集めてるわけではない。もちろん自身の不思議な力の解析の為だ。こぶし大の石を床において、椅子の上からそれを見下げる。手をかざして「上がれ上がれ」と念じた。すると小刻みに振動した石が、ふわりと浮き上がった。そしてゆっくりと手のひらまで到達する。

「よし、更に追加してみよう」

 そういって引き出しから大体同じくらいの石を出してそれらも同じようにする。浮かしては下に戻して床に接地するギリギリでとどめてはまた上げる――を繰り返す。これを野々野足軽は『能力筋トレ』と呼んでいた。最初は一個でしかも手のひらまで届かせるのも難しかった。

 けど今は複数個を同時に制御して上下運動をできるくらいにはなってる。一個ならそれこそ人一人くらいは浮かせるくらいはできる。いや、自分が浮いてるからそれは当然か……と野々野足軽は思った。二人くらいはいけるかもしれない――と訂正しておく。

 とりあえず能力筋トレはそのままにして、更に机にあったトランプをとって、それを机の上にトランプの模様側を向けてならべる。

「むむむむ」

 そういいつつ、野々野足軽はトランプを凝視する。けどすぐにそれは止めて、手のひらをかざして、更に「むむむ」とうなる。これではただの変人だ。けどすぐにノートに同じようなトランプの絵を描き、それに数字と模様を書き込んでいく。当然、トランプは裏返ったままだ。そしてすべてを描き終わると、一枚ずつめくっていく。

「よし! 当たってるぞ!」

 そういって一人盛り上がる野々野足軽。彼が何に嬉々してるのか……それは透視が出来てるからだ。彼は裏にしてるトランプの模様と数字を当てる訓練をしてるんだ。

 透視能力……それはESPで最もポピュラーといっていい能力だ。それに何か火とか水とか、周囲に影響を及ぼすものではないから、やりやすいんじゃないかと思ったのも、試してみようと思ったきっかけの一つだ。

「よし! 見えてる見えてるぞ!」

 力を使うことに慣れてきてる野々野足軽はできることが増えてくことが楽しかった。だからどんなことだって楽しい。次々にトランプをめくっていく。そしてそれが最後の一枚をめくった時、思わず立ち上がった。

「よっしゃああああ!」

 それは全てのトランプの柄と数字が合ってた事を示してた。さて、次はどうするか……いや野々野足軽はちゃんと考えてた。トランプの次のステップを。彼は本棚から漫画を取り出した。最近は電子書籍になって久しいが、まったくもってないわけでもない一冊だ。まあそうそう買わないから、変な巻数の漫画とかしかないが……そんな一冊を取り出した。

 そして今度はその漫画を透視する。

「むむむ……流石にこれで内容は読めないか……」

 本を開くのではなく、閉じたまま読もうとしてるらしい野々野足軽。でもどうやら芳しくないようだ。

「やっぱり裏と表が明確なトランプと違ってちゃんと範囲を指定するって奴が難しいな」

 本は何頁もの紙が重なって本になってる。そしてそのページにはそれぞれの内容が記されてる。当然だ。それが本なのだから。だからただ裏側を見るだけでよかったトランプとはその内容までちゃんと見ようと思うと、難易度が違うらしい。

「でも……これが出来たらきっと――」

 そういいつつ、野々野足軽の鼻息が荒くなる。

「――女子のスカートの中をのぞくのに役立つ筈だ!」

 くっそしょうもない目標で彼は動いてた。いや、男子高校生にとってはそれはある意味で夢の力なのかもしれない。隠して熱心に透視能力を鍛えてるのはその為らしい。

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