俺を嫉妬させるなんていい度胸だ〜御曹司からの過度な溺愛〜

せいとも

攻防戦【2】

 元々、人の顔を覚えるのが得意な暁は、数日で大体の社員の顔を把握していた。もちろんどこの誰だがはわからないが、見た顔だと認識出来る。

 ところが毎日見たことのない女性がひとり通るのだ。化粧はバッチリしているのだが、美人だったり可愛かったり雰囲気が全く違う。身長は女性の平均くらいだと思う。

 最初は、別人だと思っていた。だが、あることに気づいた。その女性は、毎日鞄も違うものを持っているが、スマホのカバーが同じだったのだ。手に持っていたり、鞄にしまうところだったり、見えたのは一瞬だが間違いなく同じだ。

 そして、決定的だったのが靴だ。確実に厚底を履いている。実際の身長より10cm以上高くなっているはずだ。

 身長を小さくして、化粧を取ったところを想像する。

 おそらく、暁の予想は間違っていない…

 そのことに気づいた翌日、気合を入れて定時にエントランスで待ち構えた。

 毎日雰囲気を変えている女性。今日は、どんなタイプに変身しているのだろう。楽しみで仕方ない。どれが本当の彼女なのだろうか。

 今日こそ逃さない…

 定時になり、いつもより足取り軽く最上階から下りて来た。

 彼女は退社ラッシュのいつも後半だ。いつものベンチに座り待つ。

 いつも通り、たくさんの社員が退社していく。ここ数日で、暁には頭を下げても声を出して挨拶はしない、暗黙のルールが出来ていた。賑やかなはずのエントランスは、静かで人の足音だけが響いている。事情を知らない人が見たら、異様な風景だ。

 そして、数分後…

 今日は、清楚系のワンピースを着ている。だが、間違いない彼女だ。さあ、どうやって声を掛けるかな。

 見ていると、都合のいい事に彼女はスマホを手に人波を避け、暁とは反対の端に寄り、何やら忙しそうに手を動かしている。

 機嫌がいいのか薄っすら笑みまで浮かべて…

 何を見て機嫌がいいのか気になる。

 彼女は余程何かに必死なのか、全く動く様子なくスマホを弄っている。




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