彼氏に浮気されふられた彼女は妖精サイネリアと出会い資格をとる妖精物語

ヒムネ

①クリスマスと妖精

 妖精、それは困っていたり悩んだりしてる人達にちょっと手を差し伸べる、そんな生き物である。


「この裏切り者、死んじまえーっ!」


 12月24日、クリスマスの夜、彼氏に浮気され一方的に別れを告げられた女性がいた。

「何よ、それ……」

 凛桜りお、彼女はクリスマスの日ということで何とか仕事の忙しい彼氏と少しでも会いたいと思い駅の外で待って驚かそうと思ったら……彼氏は他の女性と歩いていたのだ。怒りで問いただすと、


「僕はこの人がいい」


 と言ってきてムカついてこっちから別れを告げたのだ。しかし、

「うううっ……」

 凛桜りおは近くの公園のベンチに座り、泣いていた。怒鳴っていても彼の事が大好きだったから。
 そんな、悲しみに包まれていた彼女に、


「─隣いいかしら?」


「えっ、だれ?」


 隣を見ると、言葉を失った。そこには自分の顔ほどの大きさと青い全身タイツを着てトンボのような羽の綺麗な人が、妖精が座っていた。


「な、なによ、あんたは?」


「私の名前はサイネリア、妖精です」


『妖精です』なんて言われて信じる奴はいない。でもこんなに小さくて羽も作り物じゃないならと、信じてみることに。

「妖精があたしになんのようよ、うぅうっ」


「……見てたの」


「はあっ、なにを?」


 サイネリアは眉にシワを寄せ、モジモジしながら、

「駅で彼氏に……その……」

「捨てられた、そういえばっ?」


 彼女は、泣き顔で睨んで強くあたった。


「んで、見たからなに、あたしを嘲笑いにでも来たのっ?」

「ちがう!」

 怖くてもそこは真剣な眼差しで否定する。

「私の事が見えるのは、あなたが、病んでいるから」

「あたしのせい、ってわけ?」


「そうじゃなくて、あなたが元気になるまで私が、そばにいる」


「ええ……」


 彼氏に捨てられた彼女をその日に拾い上げたのは青い妖精だった。妖精は帰りのコンビニにもマンションにも浮きながら付いて来たので、

「あんた、ホントに付いてくる気?」

「うん、言ったでしょ? あなたが元気になるまでそばにいるって」

 満面の笑顔に、凛桜りおは呆れたが、家の中は独りだし話し相手ぐらいにはと彼女をマンションに入れた。

「ほらっ、入れば」

「お邪魔します」

「……んじゃ、あとはスキにして、あたし寝るから」

「え、お風呂とか、入らないの?」

「そんな気分じゃないの、わかってるでしょっ、んじゃね」

 帰ってきて早々と布団に寝る凛桜りお、妖精はしかたないと思い、ワンルームの周りを見渡すことにした。彼女が眠ったころ、タンスの上に彼氏と撮ったであろう写真。

 どこかの遊園地か、青空で観覧車が後ろに写りその手前に笑顔の二人が本当に幸せそうな顔をしている。その横に手日記があったがさすがに勝手に読む訳にはいかない、他にもコーヒーカップの水色とピンクがあったりとごく最近まで仲良かったのが伺える。

 ひととおり目を通して、これは一筋縄ではいかないと思ったがなおさらどうにかしたいと思うサイネリアだった……。


 夜が明けた早朝、凛桜りおは午前7時にスマホのタイマーで目覚めて、

「う〜ん、そのまま寝ちゃったか……はぁ〜」

 昨日の出来事を思いだすと泣きたくなる。

「……あっ、そういえば」

 妖精の事も思いだしたがあれは傷つき過ぎた自分が見た幻影と整理し、化粧をしようと準備を始めたら、

「起きたのね、凛桜りおさん」

「うわっ……やっぱり夢じゃなかった」

「これからお化粧ね」

「あ、うん、そうだった」

 驚いたが仕事に遅れるわけにはいかないので化粧をさっさと済まし、車で職場へと向かった……。

 普段喋らない車の中、

「ねえ、あんた、職場にも付いてくる気?」

「ええ、ダメかしら?」

「……来てもいいけど、邪魔だけはしないでよね妖精さん」

「わかってるわ、邪魔はしない」

「……そっ、ならいいけどさ」

 後ろの後部座席に座っているのを、バックミラーで見ながら半信半疑だがとりあえず納得する。

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