ヨーロッパの覇者が向かうは異なる世界
第12話「ベルエガ戦争の終結」
神聖歴1222年9月15日 ベルー王国 王都ベギルガ
この日、ベルー王国の王都ベギルガで遂にアーシア公国が占領していたベルエガ群島に関する外交を行うべく、神聖ヨーロッパ帝国の外交団が訪れていた。
本来、自国より圧倒的に国力が低い国に態々出向くというのはあり得ない行為であったが、自分たちで行動した方が早く着く、本土に他国の人間を入れる訳にはいかないという理由から出向く事となっていた。とは言え訪れるであろうベルー王国の外交団から国民や国王に説明してもらうより、再び訪れる事で誰もが自分たちの力をその目で見ることで歯向かう心をなくさせる事が出来るという理由も含まれていた。
実際に、それを裏付けるように神聖ヨーロッパ帝国が今回の外交団を派遣するにあたって差し向けた艦隊は戦艦8、巡洋艦20、駆逐艦28を率いる第二艦隊である。空母を持たない第二艦隊だがそれを補ってあまりある設備を持っていた。そもそも、空母より戦艦をと言う風潮が強い事もあって空母を持つ国は限られている。
加えて、ベルー王国は帆船が主力の国家であり、空母を理解できるとは考えられなかった。それならば見るからに強いと分かる戦艦や巡洋艦で構成された第二艦隊を送る方がいいという結論に至ったのだ。
そして、これら神聖ヨーロッパ帝国の思惑は見事ベルー王国に効いた。再び王城から港の様子を見ていたアルーベル6世を始めとする王国首脳部は神聖ヨーロッパ帝国の国力を改めて思い知らされていた。
「やはり彼の国と戦う事を避けて正解だったか……」
「陛下……。20万の軍勢と言うのはほんとうの事なのでしょうか? とてもではありませんが信じられない数値で……」
「あれほどの船を作る国だ。それくらい兵を出しても可笑しくはない。むしろそれだけの数を出してきたという事は本国にはまだまだ余力があるという事だ。恐らく、その気になればこの十倍は出せるかもしれない」
「じゅッ!?」
200万という兵をアルーベル6世を始め誰もが見た事がない。それこそバルパディアでもそれだけの兵力を揃えるのは厳しいかもしれない。しかし、神聖ヨーロッパ帝国はそれだけの事が出来るかもしれない。否定しようにも目の前の光景からあり得てしまうとさえ感じてくる。否定する気力を削いでくる。
「幸い我らは彼らの属国と同じ立ち位置だ。少なくとも彼らの言うとおりにしていれば我らに害する事はないだろう。でなければベルエガ群島の返却に関する話が浮上するとは思えないからな」
アルーベル6世の言葉はまさにその通りであり、王国首脳部は心を持ち直し、神聖ヨーロッパ帝国の外交団を受け入れる準備を始めるのだった。
「アルーベル陛下、お久しぶりですね」
「コルベル殿。貴殿も息災の様で安心した」
神聖ヨーロッパ帝国の外交団の代表は前回訪れたモーリスだった。彼は以前と変わらない様子で対応してくる。それを受けてアルーベル6世も前回と同様、と行きたかったがそれよりもかなり丁寧に接した。今は謁見の間の玉座に座る彼だが近いうちに上座を渡したうえでの対等なテーブルを挟んで話す事になるだろう。
「それでは早速ですが本題に入らせていただきます。ベルエガ群島は貴国に返却しましょう。ですが約束通りアーシア公国の占領地では軍事基地の建設が始まっています」
「それは既に約束されていた内容だ。こちらとしても問題はない。直ぐに行政官を派遣して統治政策を始めよう」
いつまでも神聖ヨーロッパ帝国軍に統治を任せる訳にもいかない。アルーベル6世は直ぐにベルー王国による統治を行う行政官の派遣を決定した。元々、係争地で両国の軍隊が数多く展開していた群島である。まともな島民は大体が本土に逃げており、行政官が必要な程ではなかった。しかし、領土問題が解決した今後は島民や移住希望者が群島に入って来るだろう。そうなればきちんとした統治を行う行政官が必要不可欠となる。
「それはそうと、貴国がアーシア公国を圧倒的な兵力で叩き潰した事が大陸北部で知れ渡っておる。その為に我が国に帰属したいと申し出る国家が幾つか出てきておる」
「それはいい事ではございませんか。我が国としても貴国の領土が回復していくのは歓迎する事であります」
本音を言えばベルー王国がどれだけ巨大になろうと自分たちを超えられるわけがないと思っている為であった。加えて、今後ベルー王国は経済的植民地に等しい状態に陥る。例え反抗して来ようともその気になれば経済を崩壊させて国家の動きを止める事が出来る。ベルー王国に神聖ヨーロッパ帝国と対立する道は既に閉ざされていたのだ。
「(それにベルー王国領が増えるという事は我が国の影響力もそれだけ増していくという事に等しい。我々としては何の問題もないですからね)それにしても中小国家群ですか。よくあの大国の侵略を受けずにここまで残ってきましたね」
「彼の国の北部にはゼルシアやミティア、アリッシアなどがある。中小国家群と領土を接しているが攻めようものなら他の国々が連合を組んで侵攻してくるからな」
この三か国による反バルパディア連合によってバルパディアは北部にまで力を伸ばせないでいるのだとアルーベル6世は語る。
「もし、これから中小国家群を併合していくとなるといずれ彼の国と領土を接する事になる。厚かましいとは思うがもしその時に侵攻してきたら……」
「お任せください。その時はバルパディアの相手をしましょう。我々としても勢力圏の国に手を出されて黙っている程寛容ではありませんので」
尤も、そうならないように両国では互いの情報を集めており、不要な接触は避けていた。今後それらが何時まで続くかは不明だが、継続されている間は両国が戦争に陥る心配はないだろう。
しかし、そんなモーリスの思いとは裏腹に情勢は悪化する。
神聖歴1222年10月2日、バルパディアの北方領大総督が中小国家群に侵攻を開始。バルパディアによる北伐が遂に開始されたのであった。
この日、ベルー王国の王都ベギルガで遂にアーシア公国が占領していたベルエガ群島に関する外交を行うべく、神聖ヨーロッパ帝国の外交団が訪れていた。
本来、自国より圧倒的に国力が低い国に態々出向くというのはあり得ない行為であったが、自分たちで行動した方が早く着く、本土に他国の人間を入れる訳にはいかないという理由から出向く事となっていた。とは言え訪れるであろうベルー王国の外交団から国民や国王に説明してもらうより、再び訪れる事で誰もが自分たちの力をその目で見ることで歯向かう心をなくさせる事が出来るという理由も含まれていた。
実際に、それを裏付けるように神聖ヨーロッパ帝国が今回の外交団を派遣するにあたって差し向けた艦隊は戦艦8、巡洋艦20、駆逐艦28を率いる第二艦隊である。空母を持たない第二艦隊だがそれを補ってあまりある設備を持っていた。そもそも、空母より戦艦をと言う風潮が強い事もあって空母を持つ国は限られている。
加えて、ベルー王国は帆船が主力の国家であり、空母を理解できるとは考えられなかった。それならば見るからに強いと分かる戦艦や巡洋艦で構成された第二艦隊を送る方がいいという結論に至ったのだ。
そして、これら神聖ヨーロッパ帝国の思惑は見事ベルー王国に効いた。再び王城から港の様子を見ていたアルーベル6世を始めとする王国首脳部は神聖ヨーロッパ帝国の国力を改めて思い知らされていた。
「やはり彼の国と戦う事を避けて正解だったか……」
「陛下……。20万の軍勢と言うのはほんとうの事なのでしょうか? とてもではありませんが信じられない数値で……」
「あれほどの船を作る国だ。それくらい兵を出しても可笑しくはない。むしろそれだけの数を出してきたという事は本国にはまだまだ余力があるという事だ。恐らく、その気になればこの十倍は出せるかもしれない」
「じゅッ!?」
200万という兵をアルーベル6世を始め誰もが見た事がない。それこそバルパディアでもそれだけの兵力を揃えるのは厳しいかもしれない。しかし、神聖ヨーロッパ帝国はそれだけの事が出来るかもしれない。否定しようにも目の前の光景からあり得てしまうとさえ感じてくる。否定する気力を削いでくる。
「幸い我らは彼らの属国と同じ立ち位置だ。少なくとも彼らの言うとおりにしていれば我らに害する事はないだろう。でなければベルエガ群島の返却に関する話が浮上するとは思えないからな」
アルーベル6世の言葉はまさにその通りであり、王国首脳部は心を持ち直し、神聖ヨーロッパ帝国の外交団を受け入れる準備を始めるのだった。
「アルーベル陛下、お久しぶりですね」
「コルベル殿。貴殿も息災の様で安心した」
神聖ヨーロッパ帝国の外交団の代表は前回訪れたモーリスだった。彼は以前と変わらない様子で対応してくる。それを受けてアルーベル6世も前回と同様、と行きたかったがそれよりもかなり丁寧に接した。今は謁見の間の玉座に座る彼だが近いうちに上座を渡したうえでの対等なテーブルを挟んで話す事になるだろう。
「それでは早速ですが本題に入らせていただきます。ベルエガ群島は貴国に返却しましょう。ですが約束通りアーシア公国の占領地では軍事基地の建設が始まっています」
「それは既に約束されていた内容だ。こちらとしても問題はない。直ぐに行政官を派遣して統治政策を始めよう」
いつまでも神聖ヨーロッパ帝国軍に統治を任せる訳にもいかない。アルーベル6世は直ぐにベルー王国による統治を行う行政官の派遣を決定した。元々、係争地で両国の軍隊が数多く展開していた群島である。まともな島民は大体が本土に逃げており、行政官が必要な程ではなかった。しかし、領土問題が解決した今後は島民や移住希望者が群島に入って来るだろう。そうなればきちんとした統治を行う行政官が必要不可欠となる。
「それはそうと、貴国がアーシア公国を圧倒的な兵力で叩き潰した事が大陸北部で知れ渡っておる。その為に我が国に帰属したいと申し出る国家が幾つか出てきておる」
「それはいい事ではございませんか。我が国としても貴国の領土が回復していくのは歓迎する事であります」
本音を言えばベルー王国がどれだけ巨大になろうと自分たちを超えられるわけがないと思っている為であった。加えて、今後ベルー王国は経済的植民地に等しい状態に陥る。例え反抗して来ようともその気になれば経済を崩壊させて国家の動きを止める事が出来る。ベルー王国に神聖ヨーロッパ帝国と対立する道は既に閉ざされていたのだ。
「(それにベルー王国領が増えるという事は我が国の影響力もそれだけ増していくという事に等しい。我々としては何の問題もないですからね)それにしても中小国家群ですか。よくあの大国の侵略を受けずにここまで残ってきましたね」
「彼の国の北部にはゼルシアやミティア、アリッシアなどがある。中小国家群と領土を接しているが攻めようものなら他の国々が連合を組んで侵攻してくるからな」
この三か国による反バルパディア連合によってバルパディアは北部にまで力を伸ばせないでいるのだとアルーベル6世は語る。
「もし、これから中小国家群を併合していくとなるといずれ彼の国と領土を接する事になる。厚かましいとは思うがもしその時に侵攻してきたら……」
「お任せください。その時はバルパディアの相手をしましょう。我々としても勢力圏の国に手を出されて黙っている程寛容ではありませんので」
尤も、そうならないように両国では互いの情報を集めており、不要な接触は避けていた。今後それらが何時まで続くかは不明だが、継続されている間は両国が戦争に陥る心配はないだろう。
しかし、そんなモーリスの思いとは裏腹に情勢は悪化する。
神聖歴1222年10月2日、バルパディアの北方領大総督が中小国家群に侵攻を開始。バルパディアによる北伐が遂に開始されたのであった。
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