ヨーロッパの覇者が向かうは異なる世界

鈴木颯手

第11話「ゼルシア革命」

神聖歴1222年9月10日 ゼルシア 首都レイ
 ダルクルス大陸最大にして最強の国家であるバルパディアだが彼ら以外にも強力とされる国家は存在する。バルパディア北部、アーシア公国の南部に位置するゼルシアは長年バルパディアの北侵を防いできた国家であり、軍隊の質だけで言えば決して劣ってはいない。
 しかし、近年では王族の腐敗による国家の弱体化が起きており、現在はバルパディアに国境部分の領土割譲を条件に同盟を結ぼうとしているなどこれまでの反バルパディア政策を全て覆すかのような動きを王家は見せており、大きく威信は落ち込んでいた。

「我らはもはやバルパディアに適う国家ではなくなった。なればこそ彼の国の庇護を受けて国家を存続させるべきであろう」

 日に日に反対意見が大きくなる中で国王は疲れ切った様子でそう宣言した。これ以降、ゼルシア全土で国王への反対運動が起こっていく事になり、国内は混乱の一途をたどっていた。
 それ故に、この状況を打開するべく動き出す者も出始めていた。

「諸君。もはや現在の王国に未来はない」

 首都レイに存在する王宮。そこに近い位置に存在する軍の宿舎にて一人の男が演説を行っていた。

「親愛なる我が兵士たちよ。どうか私に力を貸してほしい。その暁には約束しよう。この国を改革し、バルパディアすら降せる大国に成長させると。その為の一歩、クーデターに諸君らの力が必要なのだ!」
「「「「「オオォォォォォォォォッ!!!!!」」」」」

 男が考えているクーデターに対して兵士たちは雄たけびを以て返す。男はその様子に満足げに頷くと直ぐにクーデターを実行に移した。男は部下たちをいつかに分けるとそれぞれ首都の重要拠点の制圧に向かわせ、自分は王宮の制圧に乗り出した。

「っ!? 貴様ら何を……! ギャッ!?」
「し、襲撃だぁぁぁぁっ!!! ガッ!」

 王宮の城門を守っていた守備兵は男の進撃に気付いて止めようとしたがその前に男によって切り捨てられた。男は剣についた血を振り払うと同時に城門は開き、彼のクーデターに賛同する王宮の兵が姿を現した。

「王宮内はほぼ制圧済みです。ですが一部近衛兵の激しい抵抗を受けています」
「分かった。ならばお前達も近衛兵の排除に回ってくれ。一気に叩くぞ」
「はっ!」

 守備兵も仲間に加えた男は王宮内を進んでいく。一部抵抗したらしい兵士の死体を跨ぎ、降伏したらしいメイドや執事の横を通り過ぎていく。そして、王族が住まう一画まで来ると、こに通ずる唯一の扉の前で攻防戦が起きていた。近衛兵はこの国の王族を守る存在なだけあって精強な者が多く、たった10人でその何倍もの兵士を防いでいる。それどころか彼らの周りには返り討ちにしたであろう兵が10人以上倒れている。

「流石はこの国最強の兵士たちだ。この程度の数は苦にならないか」
「将軍、このままでは兵士が死に過ぎます。何か策を考えた方が……。それに王族が逃げてしまいます」
「問題ない。死者が増えるのは想定内だ。王族も逃げられる訳がないからな。このまま続けよ」
「……了解しました」

 男が連れて来た兵も加わり、圧倒的な数で以て近衛兵を叩き潰した。しかし、ここを守備してから既に10分以上が経過していた。王族たちが逃げるには十分すぎる時間だ。現に、王族の居住スペースに乗り込んだ男たちだが中には誰もおらず、もぬけの殻となっていた。

「小型の貴金属が全て無くなっています。逃げた者達が持ち去ったのだと思います」
「と言う事は行き先は国外……。バルパディアか!」
「不味いぞ……! 敵に攻め入る理由を与える事になる! なんとしても捕らえなければ……!」

 慌てだす兵たちだが、その中で男だけが冷静だった。

「王宮に抜け道があるのは想定内だ。既に抜け道の出口には兵を配置済みだ。捕まるのも時間の問題だろう。それよりもこの王宮内を完全に制圧するぞ」
「はっ!」

 男はこのクーデターを計画した時からあらゆる準備を行ってきた。それこそ抜け道から逃げられたときの為に国境部に兵を配備したり、護衛としてついていったであろう近衛兵数名を買収したりなどをしており、王族に逃げ道は残されていなかった。
 約一時間後、国王を始めとする王族は全て捕縛された。その報告を受けた男は国民に向けてクーデターが成功した事を宣言した。




『全ての国民よ。今日よりこの国は生まれ変わる。これよりこのレダー・ファーンがこの国をより良き方向へと導こう! 誇り高きゼルシアを再び大陸最大の国家へと成長させるのだ!』



 神聖歴1222年9月11日。ゼルシア元国王以下全王族の処刑を以てゼルシアの王朝は終わりをむかえ、代わりにレダー将軍が国王となり新たな王朝の成立と国王への戴冠を行った。
 ダルクルス大陸において無敵となったバルパディアに対して、対抗できる唯一の国家が蘇った瞬間であり、新たな動乱の火種が吹きあがった瞬間でもあった。

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