ヨーロッパの覇者が向かうは異なる世界

鈴木颯手

第6話「ベルエガ戦争4」

神聖歴1222年8月13日 ベルエガ群島 ブランデル島アルトウェッペン
 出陣を明日に控え、英気を養うために兵たちは思い思いの事をして過ごしていた。ある者は酒を飲み、ある者は肉を喰らい、またある者はベルー王国の支配地域から攫ってきた女性と暗闇の中に消えて居たりした。しかし、全員が明日の出兵の為にはしゃぎ過ぎない程度に楽しむ事は忘れていない。確実の勝利が約束されている状態ではしゃぎすぎて寝坊した等している訳にはいかないのだから。

「ガハハハッ! 新兵! お前は良い時期に来たな!」

 そんな中で新兵が多く入れられた歩兵団が集まって酒を飲んでいた。その部隊の隊長を務める男は上機嫌で新兵の一人であるラダマンに話しかける。15歳になったばかりの彼は親の反対を振り切って軍に入ってきて今日初めて戦線基地に配属となったのだ。まさに隊長の言う通り良い時期に入ったと言えた。

「今までなんて小競り合いや互角の戦いばかりだったからな。お互い兵がどんどん死んでいった……。だがそれも今日で終わりだ!」

 新兵が多く配属になった。それが意味するのはこれまでこの歩兵団は損耗が激しかったという事だ。多くの部下の死体を見て来た隊長はこれで見なくて済むと機嫌がよくなっていた。

「そんなに凄いものなんですか?」

 一方のラダマンはと言うと今日配属になったばかりであるがために前線の状態など知らず、ましてや兵器の知識を持っていない為に今日紹介された兵器に関して懐疑的であった。しかし、そんなラダマンに対して隊長は自信をもって答える。

「そうだ。俺はこれまで20年以上ここで戦ってきた。だからあれらがどれだけすごいのかが分かる。先ずは突撃戦車。構造は馬車と変わりはないが荷台は人が5人は乗れる程大きく、四方にはボウガンなどの武器を射出する小さな窓を残して鉄板で覆われている。弓程度じゃ貫く事は出来ねぇ。そしてそんな荷台を曳く馬も凄い。なんと魔獣であるスレイプニルの血を引いているらしく普通の馬よりもデカくて力が強くスタミナもある。普通の馬じゃ何頭いても難しい思い荷台を僅か3頭で曳く事が出来る上にこいつらは頑丈だ。突進の衝撃すらものともしねぇ。それが100両だ。これが通過するだけで敵を叩きつぶせる」
「そんなに……! 確かにそれは凄いですね……」
「そしてそれ以上に凄いのがこの魔導戦車だ! 馬を引かずとも内部に搭載されたエンジン? と言うものを用いる事で自動で動くらしい。魔力を消費するという欠点はあるが動けば突撃戦車を超える機動力に上に搭載された魔導砲と言う兵器がある。これはどんなに硬い壁でも一撃で破壊できる代物だ。人間に当てれば数十人はまとめて吹き飛ばせる」
「っ! それが本当ならこの戦争勝てるじゃないですか!」
「だろう? だからこそお前は良い時期に入って来たって言ったんだよ」

 隊長の説明でラダマンも自分の幸運を理解できた。そしてやはり軍に入隊したのは正解だったと笑みを浮かべた。

「(親父もおふくろも軍は危ないって言ってたけどそんな事ないじゃないか! 俺はここで功績を上げていずれはこの国の将軍になるんだ!)」

 身の丈に合わない野心を抱きながらラダマンはこれからの生活に思いをはせた、その瞬間だった。
 ドォン! と言う音がいくつも響き渡り、アルトウェッペンの基地を爆発が包み込む。かがり火を焚いているとは言え夜中と言う事で暗かった空が一瞬昼間並みに明るくなる。

「な、なんだ!?」

 隊長が慌てて立ち上がるがその後ろで爆発が起こり、隊長の体は爆発に包まれてその体をバラバラに吹き飛ばされる。隊長が壁となり軽傷で済んだラダマンの顔に隊長の血が降り注ぎ、視界を真っ赤に染め上げた。

「は、はは……。何だよこれ……」

 一瞬にして死んでいく仲間達。先程まで過去最高の日が訪れると思っていたにも関わらず、結果的に最悪の日となってしまっていた。

「畜生……。ちくしょおおぉぉぉぉぉっ!!!!」

 ラダマンがそう叫んだ瞬間、彼の頭上に一発のミサイルが着弾した。彼は死体すら残さずに爆死し、周囲には爆発と炎による破壊の後だけが残った。









同刻 ベルエガ群島 ブランデル島沿岸
 ブランデル島に到着した第一艦隊はベルー王国から提供された情報と衛星や偵察機による情報を基にアルトウェッペンに敵の主力が集まっている事を察知した。結果、その主力部隊の撃破を目的に戦闘が行われた。

「レーダー及び偵察機からの情報収集完了! 敵基地に甚大な被害を与える事に成功した模様!」
「敵は産業革命すら出来ていない国家だ。このくらいは当然だな」
「慢心は良くないぞ艦長。戦闘機を発艦させ敵への追撃を行う」
「そこまでする必要がありますか?」

 “カール大帝”の艦長は徹底的に攻撃を行うフローランに対して懐疑的だった。流石にミサイルの飽和攻撃で敵は壊滅している。これ以上の攻撃は無用だと。

「陛下からは“徹底的に敵を殲滅せよ”、と命令を受けている。それに敵は南方に存在するという大国の武器を入手したようだ。どのようなものか分からない以上徹底的に叩くべきだ」
「それはまぁ、そうですが……」
「どちらにしろ前線にいる敵も叩かねばならないのだ。軽く敵を掃討した後に戦闘機にはそちらの殲滅を命じればいいだけの話だ」
「確かに、行先の途中で敵を殲滅しても問題はないですな」

 あくまで前線に配置している敵兵を倒すついでに倒すならと艦長は同意する。それを受けて全空母より戦闘機が発艦していく。その数は100を超えており、前線にいる敵兵全てを殺すべくそれぞれの目標に向かって飛び立っていく。

「中華帝国配下の海洋国家が編み出した航空母艦。これに散々苦しめられた我らが異世界において使用する事になるとはなんとも皮肉な話だな」

 フローランは資料で呼んだかつての世界大戦の戦術を思い出しながら、敵地へと向かっていく戦闘機隊の無事を祈るのだった。

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