ヨーロッパの覇者が向かうは異なる世界

鈴木颯手

第5話「ベルエガ戦争3」

神聖歴1222年8月13日 ベルエガ群島 ブランデル島アルトウェッペン
 ベルエガ群島において都市と言える規模の町は4つ存在する。ブランデル島のアルトウェッペンとフルーベ、ロワン島のシャールロワン、ブルーゼル島のブルーゼルであり、ベルー王国はブルーゼルとフルーベを、アーシア公国はシャールロワンとアルトウェッペンを領有していた。これらの都市は現在では両国がベルエガ群島を領有するうえで重要な都市として全てを奪い取る事を目標としている。
 そんな中でアルトウェッペンのアーシア公国軍基地ではこれまでにない熱狂が包み込んでいた。

「ついに我らはベルエガ群島の完全占領を成し遂げる時が来たのである!」

 アーシア公国軍ベルエガ群島侵攻軍総司令クススーム・ライアーンは集められた兵士たちにそう宣言した。それに答えるように兵士たちも雄たけびを上げる。彼らの前、クススームの後方には彼らが戦争に勝利出来ると確信できる兵器が並んでいた。

「無限軌道式魔導戦車5両! 敵陣突破型の突撃戦車100両! 更に固定式の魔弾射出機10機! このような兵器を持たないベルー王国相手には過剰とも言える戦力である! これらを以て我らはこの長き戦争に終止符を打つのだ!」

 南部の大国より入手した数々の兵器。アーシア公国では劣化品すら作成することが難しいそれらは彼の大国がどれほど強大な力を持っているのかを示していた。そして、クススームは上が下した決断が決して間違っていなかったと確信する。

「(我らでは奴らが侵攻してきた際に防衛すらままならない。これらを大量に生産・運用出来る時点で我らでは叶うはずがないのだ……)」

 自国の限界を理解したからこそ現状に不満など無い。属国として扱われようとも、今回の武器譲渡がどんな結果を産むのかもわからないがそれでも泥沼の争いに終止符を打てるとクススームは前向きに考える。

「では明日! 我らは全軍を以てフルーベに侵攻する! それまでは英気を養っておくように!」
「「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」

 クススームの言葉に兵士たちは雄たけびを上げて答える。ここに居る誰もが理解していた。自分たちに風が吹ていると。
 それが更なる強風で掻き消え、向かい風になる出来事はすぐそこまで近づいていた。







神聖歴1222年8月13日 神聖ヨーロッパ帝国 キプロス島
 キプロス島は元はアナトリア半島を領土とするオスマン帝国との前線基地として機能していた。島全体が軍事基地と言っていい程要塞化されており、一般人はほとんど住んでおらず、軍人やその家族が住む島となっていた。
 それ故に、アーシア公国の沿岸に転移したこの島は同国を攻める前線基地として利用するには充分だった。昨日出発した20万の軍勢はいったんこの基地に立ち寄り、最初に攻撃を行う海軍と空軍の結果を今か今かと待機している。

「我らもすぐに向かわないとな。このままでは陸軍の連中が勝手に上陸しそうだ」

 神聖ヨーロッパ帝国海軍第一艦隊の司令長官フローラン・ド・ダンヴィエは冗談交じりにそう言った。彼の周りでは出港準備を整えフローランの言葉で直ぐにでも出航できる状態となっていた。第一艦隊は神聖ヨーロッパ帝国軍の主力艦隊であり、帝国最強の艦隊として地球でも恐れられていた。編成としては空母6隻、戦艦8、巡洋艦15、駆逐艦30に加え、最新鋭技術である原子力エンジンを搭載した原子力航空母艦2隻が就役していた。
 その内の一隻である“カール大帝”に旗艦を置いている第一艦隊の目的は複雑である。最初に空母から艦載機を発艦してアーシア公国が占領するブランデル島アルトウェッペンに攻撃を行う。可能であれば前線に展開する兵にも攻撃を加えてアーシア公国軍の戦力を削っていく。一方で艦隊は戦艦8隻を中心にアーシア公国本土やロワン島に艦砲射撃を行う。少なくとも敵の海上戦力や湾口施設はこれであらかた破壊する事で二度と海に出られない打撃を与えられると予測されていた。
 それらを完了次第陸軍20万がブランデル島、ロワン島、アーシア公国本土に強襲上陸を仕掛ける事になる。ベルー王国からもたらされた情報により両国ともに凡そ1万以下の兵士か持っていないことが判明している為に過剰とも言える戦力で直ぐに叩き潰せると考えていた。

「別に20万も必要ないとは思うがな」

 これほどの大軍を用いる理由、それは神聖ヨーロッパ帝国の力を周辺諸国に知らしめるためであった。新たに転移して来た大陸の国家は20万の軍勢をポンと出すことが出来る強大な国家だぞ、と。力を持たない中小国家の中にはこの情報だけで降伏したり従属を願い出る所もあるだろう。神聖ヨーロッパ帝国はたったこれだけの事で強大な名声を手に入れられると考えての派兵であった。

「まぁ、いいさ。我らは軍人。上の命令に従い敵を殲滅するのみだ。各艦艇に連絡! 第一艦隊、出航する!」
「はっ!」

 キプロス島より第一艦隊が出港。神聖ヨーロッパ帝国による最初の異世界介入が始まった瞬間であった。

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