ヨーロッパの覇者が向かうは異なる世界

鈴木颯手

第2話「半年の月日」

神聖歴1222年7月1日 神聖ヨーロッパ帝国 帝都神聖ゲルマニア
 神聖ヨーロッパ帝国を襲った未曽有の災害。異世界への転移は神聖ヨーロッパ帝国の人々に大混乱をもたらしたがそれもすぐに終息した。何しろ自国内でほぼ全てを賄えるこの国にとって他の国が無くなったところで影響は大してなかった。
 そして、神聖ヨーロッパ帝国は新たな友人を手に入れる事にも成功していた。アフリカ大陸に代わるように現れた南方の大陸、スミーラム大陸の北部には二つの国家が存在していた。その内の一つ、ベルペル王国は地球世界で言うと紀元前並みの文明しかなかったがそれでも国家として機能する彼らと国交を樹立した。その隣国であるデュニス王国も同じように国交を結ぶ事となり、国内の外資系企業はこぞって両国に進出していった。

「スミーラム大陸の中北部にある大砂漠ですが石油や天然ガスを始め鉱物資源なども確認できました。まさに宝の山と言って差し支えないです」
「ほう、では国内の生産を抑えてそちらを開発するか」

 ベルペル王国南部に広がる大砂漠は作物が育たない不毛の土地と言う事もあって領土としていた国家はなかった。その為に神聖ヨーロッパ帝国は自国領として編入して調査団を送っていたが結果としてその行動は吉と出た。
 大砂漠には石油や天然ガスを始め神聖ヨーロッパ帝国でも希少価値の高い鉱物資源が山の様に埋蔵している事が発覚したのである。とは言えこれは大砂漠だけにとどまらずにスミーラム大陸全土で採掘出来る可能性が高いものであったが大砂漠にほとんどが集中しているのも事実であった。
 これにより神聖ヨーロッパ帝国は無尽蔵とも言える資源を手に入れる事となった。国内の混乱と周辺国家の調査、資源確保を終えた形となり、いよいよ対外進出を行うべく帝前会議が開催された。
 帝前会議は皇帝カイザー・ヴィルヘルムが国家運営を担う者達を招集し、今後の国家方針を決める重要な会議であり、参加する者は何かしら影響力を持つ者ばかりであった。

「諸君、集まってくれたことに感謝しよう。早速だが我らはこの世界に進出する最初の一歩を踏み出す事を決定した。そして最初の目標も決めてある」

 カイザー・ヴィルヘルムがそこまで言うと司会の男に視線を向ける。何を言わんとしているのか理解している司会は頭を軽く下げると皇帝に代わり説明を始める。

「お手元の資料を確認してください。そこには我が国土の南方、つまり南方世界の地図が記載されています。……ご存じと思いますがこの世界は地球より惑星が大きい様です。その為にアフリカ大陸や新大陸並みの大陸が複数存在しています。そこで、我らはそれぞれを南方世界、西方世界、東方世界に大まかに区切りそれぞれ毎に対応する事としました。そして問題の南方世界には二つの大陸が存在します。スミーラム大陸とダスクルス大陸です。スミーラム大陸には中北部に大砂漠が存在し、その北部、新地中海沿いにベルペル王国とデュニス王国があります。両国ともに文明レベルは神聖歴前のキリスト神話時代前後となっています。対するダルクルス大陸は大砂漠のような不毛の土地はほとんどなく、様々な国家が存在しています。そして、今回我らはその北部に位置するベルー王国とアーシア公国の紛争に介入します。現地からの調査でアーシア公国は元々ベルー王国の属国だったようですが数十年前に独立。現在は3つの島の領有権を巡って泥沼の争いをしているとの事です」

 司会はそこまで言い切ると一旦呼吸を整えてから再び話し始める。

「両国ともに文明レベルはスミーラム大陸より高いですがそれも神聖歴開始前後程度となっています。軍事力も特筆するようなものはなく、船は帆船、武器は剣と盾と弓となっています」
「何か異世界らしいものは確認されていないのか? 例えば魔法とか」

 司会の言葉に質問を挟んだのは軍部大臣で、異世界と言う事から魔法の存在を確かめたいようだった。

「現在のところ確認はされていませんがダルクルス大陸南部には強大な国家が存在している様で介入後に接触を試みる予定となっています。噂ですが魔法に似た物を使う事で領土を広げているそうです」
「成程……」

 文明レベルが低い国ばかりだが世界全体がそうではない。その可能性が浮上したことで軍部大臣は今後の国防に関する計画を改めて練りなおす必要があると考えていた。

「では話を戻して両国に関してですが……」

 その後も会議は続き、神聖ヨーロッパ帝国が本格的にこの世界に進出する最初の一歩である紛争介入の計画が練られた。そして神聖歴1222年8月12日、神聖ヨーロッパ帝国軍は総勢20万の軍勢を向かわせる事になった。

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