もう一度、重なる手

月ヶ瀬 杏

恋情〈2〉

 明け方。肌寒さに寝ぼけながらブランケットを胸元まで引き上げようとした私は、横顔に視線を感じて目を開けた。

 ぼんやりとした視界に映るのは、口角を上げてうっすらと微笑むアツくんの姿で。一瞬前までぽやんとしていた脳みそが、一気に覚醒する。

「おはよう、フミ」
「お、おはよう……!」

 外はまだほんの少し薄暗くて、カーテンの隙間からは太陽の光も差し込んでいないのに、私の隣で寝転ぶアツくんの顔がやけに眩しい。

 直視すると、眩しさに目がやられそうだ。

 ブランケットを頭の上まで引っ張り上げて顔を隠すと、「フミ?」とアツくんが肩を揺すってくる。

「フーミ、出てきて?」

 あやすような声で呼ばれて、ブランケットからチラッと頭と目だけを出すと、アツくんがふっと吹き出した。

「何してるの?」
「だってアツくん、人の寝顔見てたでしょ。いつから起きてたの?」
「三十分くらい前かな」
「そんなに見られてたの? 起こしてくれたらよかったのに……」

 ブランケットの下に隠した頬をむっと膨らませると、アツくんがそれすら見抜いているかのようにククッと笑う。

「だって、昨日の夜は首元に抱きついて俺を誘ってきた子が、朝は小学生の頃と変わらないあどけない顔で隣で寝てるんだよ。なんか変な感じというか、ちょっと罪悪感というか……」
「私としたこと、後悔してる?」

 不安になって訊ねると、アツくんが私の前髪をかきあげて、額にチュッとキスをしてきた。

「してないよ。変な感じがしたのは初めの数分だけ。そのあとは、昨日のフミのこと思い出しながら、可愛い寝顔を見てた」

 起き抜けにかけられた甘い言葉に、ブランケットの下に隠した頬がかぁーっと熱くなる。

 くるりと寝返りを打ってアツくんに背を向けると、余裕げにククッと笑った彼がブランケットごと背中から抱きしめてきた。

「なんで今さら照れてるの。もう二度と離れたくないんでしょ」

 耳元で揶揄われて肩越しに少し振り向いて睨むと、アツくんが私の顎をつかんで口付ける。

「好きだよ」

 キスで力の抜けた身体を、アツくんに仰向けに返される。

 昨夜想いを伝えたときは、私の言葉を驚いた顔で受け止めていたアツくんだったけど。やっぱりアツくんは私の考えなど全てお見通しで。私の宥め方も機嫌の取り方もよく心得ているのだ。

 髪を撫でられて、アツくんの手の心地よさに目を閉じる。いつのまにかふたたび微睡かけた私の唇に、今朝二度目のキスがそっと落ちてきた。

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