【コミカライズ配信中!】社長、この偽婚約はいつまで有効ですか?(原題:花束と婚約指輪)

月ヶ瀬 杏

Promise.Ⅹ

「広谷様、ブーケを」

 閉じられたチャペルのドアの前。黒のスーツを着た女性が、にこやかにブーケを差し出してくる。

 白のバラにトルコギキョウ、華やかな花たちの間に青いカスミソウを散らしてサムシングブルーを意識したブーケは、私が今日のために作ったものだった。

「ありがとうございます」

 受け取ったブーケを左手に持ち、右隣に立つ父を見遣る。いつになく緊張した面持ちでチャペルのドアを見つめている父の腕に手をのせると、振り向いた父が不自然に頬を引き攣らせて笑いかけてきた。

「お父さん、緊張しすぎだよ」
「ハナコには緊張感がなさすぎる」
「だって、嬉しすぎるから」

 左手に持ったブーケに視線を落として顔を綻ばせていると、父がボソリとつぶやいた。

「今度こそ、幸せにな」

 ふと顔をあげると、込み上げてくるものを堪えるように眉根を寄せた父と視線が交わる。

「ありがとう」

 父に笑いかけたとき、チャペルのドアの前に立っていた式場のスタッフが私たちのほうに視線を向けた。

「広谷様、間もなくチャペルのドアが開きます」

 扉の向こうからパイプオルガンの厳かな音色が流れ始める。ゆっくりと左右に開かれたチャペルのドア。真っ直ぐに伸びたバージンロードの辿り着くその先で、振り向いたタローさんが微笑みかけてくる。

「行こうか」

 父の合図に、ブーケを手のひらの中で握りなおす。向こうに見える彼を見つめながら、最初の一歩を踏み出した。

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