貧乏令嬢は公爵様に溺愛される

日下奈緒

第18話 俺にしておけ②

そして午後から、お茶の準備がある為、コラリー様のダンスレッスンから、外れて来た。
「さあて、今日のお茶はどうしようかな。」
茶葉を持ちながら、庭を見ると、オラース様達が剣術の稽古をしている。
ふと、オラース様と目が合うと、彼は手を振ってくれた。
私も手を振り返す。
なんて、幸せなんだろう。
自分の幸せを、噛み締めているその時だった。

「何で、オラース様なんだ。」
後ろからエリクの声が聞こえた。
「エリク……」
振り返ると、エリクが私の腕を掴んだ。
「どうして、オラース様なんだと、聞いている。」
「それは……」
「どうせ、オラース様の顔なんだろう。」
私は、ムッとした。
「違います。オラース様の人柄に惹かれたんです。」
「人柄?あんな、女ったらしのどこがだ。」
エリクは、近くにある椅子を蹴った。

「エリクは、オラース様の侍従でしょう?どうしてそんな事言うの?」
「好きな女を取られて、黙っていられるか。」
ええっ!?
私は目を大きく開けて驚いた。
「エリク?」
「アンジェ。」
呼びなれない名前にも驚いたけれど、もっと驚いたのは、エリクが私を抱きしめた事だ。
「俺は、身分が低いけれど、アンジェの事、誰よりも好きだ。」
「エ、エリク!」
「俺にしておけ。アンジェ。」
エリクが私を見つめる。
「待って!」
このままじゃあ、キスされちゃう!
私は、エリクの身体を引き離した。
「やっぱり、身分が大事か?」
「そういう事じゃないの!」
私は、オラース様の事が好きなのに。

「好きなの。オラース様の事が。」
「そんなの、直ぐに忘れさせてやる。」
エリクは、私を壁に追い詰める。
「報酬なら十分貰っている。アンジェとアンジェのご両親の面倒を見るくらいできる。」
「お金の問題でもないわよ。」
「じゃあ、どうすれば俺の方に向いてくれるんだ!」
エリクは私の身体を、ぎゅっと抱きしめる。
「好きなんだ、アンジェ。誰にも渡したくない。」
「エリク……」

そんな。エリクが私の事を好きだったなんて。
だって今まで、優しくされた事なんて、一度もなかったのに。
「エリク。待って。」
そう言うとエリクは、私から体を放した。
「エリクの気持ちは分かったけれど、その気持ちには応えられない。」
「アンジェ……」
エリクの顔が、苦痛に歪む。
「ごめんなさい。どうしても私、オラース様の側にいたいの。」
するとエリクは、クスッと笑った。
「分かった。一度口説いたぐらいで、自分の物になるくらいなら、俺は好きにならないから。」
「はあ?」
「俺の物になるまで、口説き続けたいけれどな。」

そう言った時だ。
エリクは、私の頬に手を当てた。
「好きだ、アンジェリク嬢。身分の差があるのも分かっている。でも、止められないんだ。」
ドキンとした。
その瞬間、エリクの顔が近づいてくる。
キ、キスされる!?
助けて、誰か!?
心の中で叫んだ。
でも、いつまで経っても、エリクの唇が来ない。
そーっと、エリクを見てみると、彼の肩に手があった。

「エリク。そこまでだ。」
「オラース様。いらっしゃったんですか。」
するとエリクは、オラース様と顔を合わせた。
「エリク、どういうつもりだ。アンジェには近づくなと言ったよな。」
「オラース様。あなたがアンジェリク嬢のお相手というなら、話は違います。」
2人は、尚一層顔を見合わせた。
「どうせ、僕にアンジェが遊ばれると思って、止めさせようとしているんだろう。」
「そんな軽い冗談のつもりで、アンジェリク嬢のお相手に、なろうとはしていません。」
ついに二人は、距離を縮めた。
「アンジェの事、本気で好きだと言うのか。エリク。」
「少なくても、あなたよりは本気です。」

私は、二人の間に割って入った。
「もう、止めて下さい!これ以上、私のせいで二人の仲が悪くなったら、私……」
そして、オラース様が私を抱き寄せてくれた。
「ごめんね、アンジェ。不安にさせて。君は何も考えず、僕の側にいればいいんだ。」
すると今度は、エリクが私を抱き寄せた。
「アンジェリク嬢、申し訳ありません。今、あなたを救いだしますよ。」
なぜか二人の間に、バチバチと火花が見える。
どうしよう。
私は二人の間で、身体が固まってしまった。

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