貧乏令嬢は公爵様に溺愛される

日下奈緒

第10話 恋愛結婚②

その日の夜。
私は、自分の将来の事を考えると、眠れなくなった。
「あーあ。寝不足だと、目の下にクマができるのに。」
こんな時には、お母さん、いつもホットミルクを飲ませてくれた。
そうだ。
こうしていても眠れないから、キッチンへホットミルクを飲みに行こう。

私は、部屋をそっと抜け出した。
キッチンは、1階にある。
「どうしよう。こんなパジャマで誰かに見られたら。」
足音を立てないように、そろりそろりと、階段を降りた。
ここまでは、大丈夫。
誰もいない。
私は階段から、キッチンへ走った。

こんなところ、コラリー様にも、ましてやオラース様にも見せられない。
もう少しで、キッチンというところで、私は立ち止まった。
「誰もいないわね。」
その時だった。
「やあ。アンジェも眠れないの?」
振り返ると、そこには人影が。

「きゃああ……」
「大きな声出さない!」
急に口を塞がれた。
「だ、誰か!」
「僕だよ、アンジェ。」
よく見ると、オラース様が立っていた。
「オラース様。」
「そうだよ。急に大きな声出すなんて、びっくりした。」

いや、それはこっちのセリフだよ。
私は心の中で、そう答えた。
って、言うか私、パジャマだ!
オラース様に気づかれないように、腕を前で組んだ。
「どうしたの?」
「いや、その……」
ダメだと思って、背中を向けた、その時だった。
ふぁっと、肩に上着を掛けられた。

「ごめん。パジャマだったなんて、気が付かなくて。」
振り返ると、オラース様もパジャマだった。
「いや、僕もパジャマなんだけどね。」
「はっ、ははは。」
2人で可笑しくて、笑ってしまった。

「ところでオラース様は、何をしにキッチンへ?」
「ああ、ホットミルクを飲もうと思ってね。」
「えっ?」
驚いた。
そんなホットミルクぐらい、侍従に頼めば作ってくれるのに。
「オラース様が作るんですか?」
「そうだよ。もしかして、アンジェもホットミルクを?」
「はい。」
「僕達、一緒だね。」

一緒という言葉が、胸を温かくした。
「アンジェは、この屋敷のキッチン、初めてだろ。僕が作り方を教えてあげる。」
「はい。」
キッチンに入って、電気を着けると、オラース様は手慣れた感じで、小さい鍋にミルクを入れた。
「コンロはここを使うといいよ。」
そう言って、一番手前のコンロに鍋を置いた。
「そして、最後にお砂糖を一杯。」
しばらくするとミルクは沸騰して、ホットミルクは完成。

「はい、これ。」
オラース様は、マグカップにホットミルクを入れてくれて、差し出してくれた。
一口飲んでみると、優しい味がする。
「美味しいです。」
「ありがとう。」
オラース様も一口飲んで、ホッとしている。

「そう言えば、昼間、エリクに何を言われていたの?」
「ああ……コラリー様に恋愛結婚を進めて、叱られたんです。恋愛をして飽きられたら、どうするんだって。」
「へえ。」
オラース様は、しばらくボーっとすると、こんな事をボソッと言った。
「僕も、恋愛結婚してみたいな。」
「えっ!」

オラース様に、好きな人が!?
そんな~!

「……好きな方、いらっしゃるんですか。」
「今は、いないよ。ほら、僕達って、政略結婚するしかないだろ。結婚相手は、親が決める。その相手と恋愛したいって、僕はアンジェの気持ち、分かるな。」
胸がじーんとする。
こんなにも優しい言葉をかけてくれるなんて、オラース様はいい旦那様になるよ。
って、やっぱりオラース様の相手も、ご両親が決めるんだね。
ちょっと、ショック。

その時、オラース様はクスッと笑った。
「なんだかアンジェと一緒にいると、ほっとするよ。」
「そうですか?」
「不思議だな。君が来たのは、ついこの前なのに、まるでずっと前から一緒にいるような、そんな気がするよ。」
するとオラース様は、私を見つめてくれた。
「オラース様?」
だんだん、オラース様の顔が近づいてくる。
キスされる!?

その瞬間だった。
「何をしているんですか!?」
エリクの声が、キッチンに響き渡った。
「アンジェリク嬢!あっ、オラース様まで!」
エリクは慌てて、私達の側に来た。
「ホットミルクを飲んでいたのですか?仰っていただければ、お作りしたものを。」
「いいんだ。誰にも、邪魔されたくなかったから。」
「そうですか。って、えっ……二人共、パジャマ!?」
エリクの目が、だんだん丸くなる。

「ま、ま、ままさか。アンジェリク嬢!オラース様とそういう仲なのですか?」
「そういう仲?」
「二人でパジャマでいる仲です!」
その慌てように、私とオラース様は、腹を抱えて笑ってしまった。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品