貧乏令嬢は公爵様に溺愛される

日下奈緒

第8話 恋愛とか②

ふとコラリー様を見ると、”こうするのよ”と言わんばかりに、手を差し出すのを見せてくれている。
いいの?私、オラース様と踊っても。
「緊張しないで。付いてきて。」
「オラース様……」
そして勇気が持てない私に、コラリー様はため息をついた。
「男性をそこまで待たせるなんて、却って失礼よ、アンジェ。」
「仕方ないよ。今まで男性と踊った事がないんでしょ。」
私はうんと頷いた。

「いいんだよ。さあ、踊ろう。」
ふいにオラース様に手を引かれ、私は一生懸命にステップを踏んだ。
「上手じゃないか、アンジェリク嬢。」
オラース様に”アンジェリク嬢”って言われると、まるで舞踏会で踊っているよう。
上手なのは、オラース様だわ。
こんなに上手に、女性をリードできるなんて。
また、ドキドキしてしまう。

「あーん。もう見てられないわ。オラース、私も相手してよ。本番は、明日なのよ。」
「分かったよ。」
オラース様は踊り終えると、私に一礼した。
「楽しかったよ、アンジェリク嬢。」
「私もです、オラース様。」
ニコッと笑うオラース様に、思わず見とれてしまった。

「はい、次はこっち。」
コラリー様は私の隣に来て、手を差し伸べた。
「おっと、こちらのお姫様は、じゃじゃ馬の……」
「そういう前置きは、いいから。」
二人は姉弟なのに、まるで恋人のように踊っていた。
二人共綺麗だから、傍から見てて、ため息がでる。
「これで明日も、踊れたらいいね。姉さん。」
「本当、その通りよ。」

そして、コラリー様は夜になっても、踊りの練習をしていた。
「もうお休みになっては?コラリー様。」
「もう少し練習するわ。」
「はい。」
練習熱心なコラリー様は、日中よりもフォームが綺麗になった。
やっぱりオラース様のリードがよかったみたい。
「アンジェ、私ね。」
「はい。」
コラリー様が、汗を拭く。
「将来の夫になるセザール様に、こんな姫、嫁に貰わなきゃよかったって思われたくないの。」
「あの、まだセザール様をご覧になった事ないんですよね。」
「そうよ。明日が初めて。でも、きっと素敵な方よ。」
私は、そんな風に思えるコラリー様が、羨ましかった。
もし私だったら、一度も会った事のない人に、そこまで思えるかしら。

そして運命の時は、訪れた。
セザール様が、アルノ―家を訪れた。
「初めまして、コラリー嬢。」
そう言ったのは、柔らかそうな茶髪の、背の高いハンサムな紳士だった。
「初めまして……セザール公爵殿下。」
あのコラリー様が、緊張で女らしくなっている。
「いやあ、綺麗な方だと聞いて期待していたけれど、期待以上の美しさだった。」
「私も……これほどまでに素敵な方だと、思っておりませんでした。」
見つめ合う二人を他所に、私とエリクは、部屋を出た。

「第一印象は、まずまずのようですね。」
「あれでまずまずなんですか。メチャクチャ気に入っているじゃないですか。」
するとエリクは、ため息をついた。
「お相手は社交界で名を馳せているセザール様ですよ?見目麗しい姫なんて、何十人も見てますよ。」
「じゃあ、コラリー様を美しいって言っていた事は?」
「社交辞令です。」
私は途端に、不安になった。

そして、音楽が流れてくる。
「始まった。コラリー様の苦手なダンスだ。」
私はゴクンと息を飲んだ。
「ダンスを踊ると、パートナーとして相応しい方か分かると聞く。コラリー嬢、私と踊って下さいますね。」
そしてセザール様は、手を差し伸べた。
「は、はい、よ、喜んで。」
まずい。コラリー様、緊張している~!
「そんなに緊張しないで。私に任せて下さい。」
「はい。」
声も上ずっている!
大丈夫?コラリー様!

するとコラリー様は、ガッチガチ。
ステップも何度もしくじった。
「この辺で。」
見かねたセザール様が、途中で止めた。
「あの……」
もうコラリー様は、泣きそうだった。
「そんな顔しないで下さい。コラリー嬢。ダンスは練習すれば、上手になりますよ。」
「セザール様……」
「それよりも私は、あなたの美しい金髪が気に入った。ぜひ、私の妻になって頂きたい。」
「……うっ、うっ、はい。」

泣きながら返事をしたコラリー様に、私は思い切って、ドアを開けた。
「君は?確かコラリー嬢の侍女?」
「はい。お願いです!どうか、コラリー様と恋愛してから、ご結婚なさってください。」
「恋愛?」
コラリー様は、驚きながら困っている。
「コラリー様は、政略結婚ではなく、恋愛結婚をしたいんです。セザール様と!」
セザール様がふと見ると、コラリー様は頷いていた。
「分かった。じゃあ、結婚は少しお預けで、恋愛などしてみましょうか。」
「コラリー様!」
「アンジェ!」
この時ばかりは、コラリー様と一緒に、泣いてしまった。



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