貧乏令嬢は公爵様に溺愛される

日下奈緒

第6話 紅茶②

落ち込んでいる私を、コラリー様は笑って見ている。
「アンジェは、紅茶は嫌い?」
「はい。一度子供の時に飲んだ事があるのですが、苦くて。それ以来、飲んでいません。」
「まあ、もったいない。」
そう言うコラリー様は、紅茶がお好きなんだろうなぁ。

「紅茶はね、茶葉とかお砂糖の分量だとかで、甘くもできるのよ。そうだ、レモンとかミルクを入れてみたら?」
「はい……」
「そんなにかしこまらないで。紅茶って、楽しいわよ。」
私は思わず、作り笑いをした。

しばらくして、エリクが紅茶セットを持ってきた。
「今日は持ってきたましたが、これからはアンジェリク嬢が持ってくるのですよ。」
「はい。」
私はそのセットの名前を、メモ帳に直ぐ書いた。
優しいコラリー様の為にも、いい紅茶を淹れられるようにしなきゃ。
「次にお湯ですが、沸騰寸前のモノを使います。」
「沸騰していては、ダメなんですね。」
「その場合、少し冷ましてから使ってください。」
「はい。」

必死にメモを取る。
「そして、次に……」
どんどん、紅茶を淹れて、砂糖はあーだ、ミルクはこーだ、果てはレモンがどうどか、エリクさんの説明は延々と続いた。
「はぁー……書ききった……」
右手が疲れた。
普段、こんなに書きものをしない。
「アンジェリク嬢。これでまだ半分ですよ。」
「半分!?」
これ以上、まだあるの?

「紅茶は、茶葉によって少し味が違います。実際飲んで頂いて、味の違いを確かめてみましょう。」
「ここで、実際飲んで頂くんですね。」
私は、メモ帳に大きく丸をつけた。
「あなたが飲むんですよ、アンジェリク嬢。」
「ええっ!?私が!?」
するとコラリー様が、クククッと笑っている。
「エリク。アンジェは、紅茶はダメなんだそうよ。」
「なに!?」
エリクは、顔を歪ませている。
「紅茶が飲めなくて、どうやってオリジナルブレンドを作れるのですか!これから、紅茶を好きになって貰います。」
「……はい。」
そう言われると思った。

その時だ。
「大変だな、アンジェ。」
ドアのところに、オラース様が立っていた。
「残念。俺も姉さんも、紅茶が大のお気に入りなのに。」
……そうなんだ。オラース様も、紅茶が好きなのね。
「一緒に、紅茶飲めると思ったんだけどな。」
「えっ……」
今、なんて?
一緒に、紅茶……?
オラース様と一緒に、紅茶!?

「ぜひ、ご一緒したいです!」
私は、オラース様の目の前で、目をキラキラさせた。
憧れのオラース様と一緒に飲めるなら、嫌いな紅茶だって飲めるようにしなきゃ!
「それでは、早速3人で紅茶を楽しもうか。」
オラース様は、コラリー様の向かいに座った。
「では、アンジェリク嬢。新しい紅茶を、淹れて差し上げて下さい。」
「はい。」
私は先程、エリクに教わった通りに、紅茶を淹れてみた。
「いいですね。アンジェリク嬢は、物覚えの早い方だ。」
エリクも誉めてくれた。

「コラリー様は、飲み方は如何しますか。」
「私はストレートで。」
「俺はミルクがいいな。」
それぞれの飲み方に合わせて、私は紅茶をお出しした。
「うん。香りもいいし。合格ね、アンジェ。」
「ミルクの淹れ方も上品だったよ。」
コラリー様とオラース様にもOKを出されて、一安心。
「そして、アンジェの番だね。」
その瞬間、オラース様は立ち上がって、私をその椅子に座らせた。

オラース様が座っていた場所!
それだけでも興奮するのに、今度はオラース様が、私の為に紅茶を淹れようとしている。
「そうだな。最初からストレートは難しいか。」
「オラース、ミルクを入れてみたら?」
「いや、まずは砂糖だね。」
オラース様は紅茶を淹れると、お砂糖を二つ紅茶に入れてくれた。
「はい。よくかき混ぜて飲んでね。」
「はい、ありがとうございます。オラース様。」

私はオラース様が淹れてくれた紅茶を、一口飲んでみる。
「うっ……」
やっぱり子供の頃、飲んだ苦い味だ。
「駄目?じゃあ、ミルクは?」
オラース様は、ミルクを少し入れてくれた。
私はそれをまた、一口飲んだ。
「うっ……」
今度は、ミルクの味がしつこく残って、飲み干せない。
「今度は、レモンだ。」
オラース様はわざわざ、もう一度レモン入りの紅茶を淹れてくれた。
「どう?」
「……美味しい。」
レモンの酸味が、紅茶の苦さを中和してくれている。
「やった。これで、アンジェとも紅茶飲めるね。」
私は、そのオラース様の笑顔を、胸に焼き付けた。




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