貧乏令嬢は公爵様に溺愛される

日下奈緒

第2話 貧乏令嬢への誘い②

翌日、その侍従さんが、私を迎えに来た。
「おはようございます。では早速、コラリー様の元へ行きましょう。」
「はい。」
頼んでおいた鏡台は、昨日の内に届けられなかった。
仕方なしに、部屋にあった小さな鏡で、見支度を整えた。

2階から3階へ上がると、コラリー様の部屋はあった。
「あの、侍従さん。」
話しかけると、侍従の人は振り向いた。
「私まだ、お名前伺っていなくて……」
「失礼しました。エリク・バイイと申します。」
「ムッシュ・バイイ……」
「エリクとお呼び下さい。」
エリクは、私の方を見ない。
「……はい、エリク。コラリー様はどんな方?」
「お優しい方ですよ。」
するとエリクは、部屋のドアをノックした。

「はい。」
中から女性の声が聞こえる。
「コラリー様。例の方が来ました。」
「お入りになって。」
「失礼します。」
ドアを開けると、金髪を巻いた綺麗なお嬢様が立っていた。

「こちらが、今日からコラリー様の侍女となる、アンジェリク嬢でございます。」
「アンジェリクね。私は、コラリーよ。宜しくね。」
コラリー様は気さくな人で、私の手を直ぐに握ってくれた。
「初めまして。こちらこそ、宜しくお願い致します。」
私がニコッと笑うと、コラリー様も微笑んでくれた。

「そうだわ。弟に会った?」
「弟様?」
私は、エリクを見た。
「オラース様にはまだ、お会いになっておられません。」
「じゃあ、これから会いに行きましょう。」
コラリー様は、思い付きで行動される方なのかしら。
「大丈夫よ。弟は、気さくな人だから。」
コラリー様は、急に私の手を取ると、部屋を出てしまった。

「弟の部屋は、隣よ。」
コラリー様は、ウキウキしながら、隣の部屋のドアを叩いた。
「オラース!入るわよ。」
「姉さん?」
ドアを開いた瞬間、陽の光に照らされた金髪が、キラキラ光っていた。
「急に入ってくるなよ。まだ髪を結っていないんだ。」
胸までの長い髪を、一つに結い上げようとしている彼は、別世界の人に見えた。

「仕方ないわね。私が結ってあげるわ。」
コラリー様は、彼に近づくと、髪を慣れた手つきでとかし、リボンでキュッと結んだ。
「ありがとう、姉さん。」
振り向いた彼と、突然目が合った。
「もしかして、例の方?」
「そうよ。アンジェリク嬢よ。」
私は息を飲むと、緊張しながら、ドレスの裾を持った。
「初めまして。アンジェリク・フェーネルと申します。」
「オラースだ。宜しく。」
オラース様は、コラリー様が言った通りに、気さくな人だった。
会ったばかりだというのに、手を差し出してくれる。

「宜しく……お願いします。」
ドキドキしている。
まだあの綺麗に光っていた金髪が、目に焼き付いている。
そしてため息が出る程の、美男子。
さすが、公爵家の息子というイメージだ。

「そうだ。アンジェリクでは、ちょっと余所余所しいわね。アンジェって呼ぶのはどう?」
「アンジェ……」
そんな風に、気さくに呼んでくれる人なんて、今までいなかった。
「いいね。これからは、アンジェって呼ぶね。」
オラース様も、気に入ったよう。
「はい。嬉しいです。」
私みたいな貧乏公爵の娘が、こんな豪勢な宮殿で、やっていけるかと思ったけれど、気さくな姉弟のおかげで、その心配はなくなった。

「挨拶は済みましたか?」
後ろでエリクが、咳ばらいをしている。
「全く、コラリー様は思い立つと、直ぐ行動される。そこは、お気を付けください。」
「はーい。行きましょう、アンジェ。」
コラリー様は、私の腕を掴むと、オラース様の部屋を出た。
「どう?オラースは、カッコいいでしょ。」
「えっ……そうですね。」

もしかして、私の気持ち、バレたのかしら。
「オラースは、髪が綺麗でしょ?だから小さい時から、私が髪を結ってあげていたの。だから今でも、髪を伸ばしているのよ。」
「へえ。」
なんだかこの姉弟は、大人になっても仲が良さそうだ。
私はふと、後ろを振り向いた。
オラース様が、エリクと一緒に、部屋から出てくる。
エリクと比べても、背が高くてスリムだ。
たぶん、社交界でも人気の人なんだろうなぁ。

「アンジェリク嬢。次は……」
エリクが私に声を掛けると、コラリー様は私の前に立った。
「今日は、私の遊び相手でいいでしょう?」
「しかし……」
「行きましょう、アンジェ。」
どうやらコラリー様は、行動的なお姫様のようだ。
「お庭に行きましょう。今は、お花がたくさん咲いてるのよ。」
「はい、コラリー様。」
エリクのため息と、オラース様の笑い声が、後ろから聞こえてきた。










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