TSロリとセンシティブノーで知識が時代遅れな女神の日常

下の蠍

私……違和感覚えず

朝は鳥の声から始まると言うが真相はいかに。
ほのかに刺す太陽の光にも目覚めない紫雨音にはその音が届くことはないだろう。
その為に朝から怒声が降る
「いいですか紫雨音!朝ですよ」
「んみゃぁーもうすこし」
うすらと目を開けまた暗闇に沈む
「仕方ありませんね、では楽しみにしといてくださいね?帰ってきたら種明かしですね、テレビでみたどっきり大成功を仕掛けるなんて少し親っぽいです!」
女神が紫雨音のデコに指を当てた
「は?!朝!」
紫雨音が勢いよく飛び起きた。
「起きましたか?小学生から遅刻癖が付きますと大変ですよ」
「あ、あぁもうおきるからちょっと待って」
ランドセルを手に取り一階へと下る。脳みそが回転していない状態で席に着く
「ふぁぁ~眠たい。はむ、っむぐ」
「大丈夫ですか?喉を詰まらせては大変ですよ」
「あぁ、むぐむぐ」
「ほら、食べ終わったら歯磨き終わらせて支度してください」
ふらふらぁ~と準備を終わらせ玄関で靴を履き始める。
「う、あ。あ……そうか今日も学校」
「そうですよ!ほらしゃんとしてください」
女神がぽんと紫雨音の背中を押す。
扉を開けて少し眩い太陽を憎みながら外に出た。
集団場所にはもうみんな揃っていた。いつから居るんだ言わんばかりに揃っているメンツに紫雨音は安心感と少しの罪悪感を感じた
「みんな遅れてごめんね~。朝寝坊しちゃってお母さんに怒られてたの(遅れてスマンな、寝坊したら怒られたんだわ)」
「俺らが早いだけだ!安心しろ万年」
「紫雨音ちゃん恋でもしたの?ちょっとかわいくなったんじゃない?」
「え、えぇ?!そうみえますか?そんなことないですよー(なわけねぇーよ、推しキャラならいるけど)」
嶺石うるみの問いかけに対する紫雨音の反応。四宮はくしが少し興味の目を向ける
「ま、まぁありえなくもないよな。地味に優しいし」
「そうですね!先輩は素晴らしいほど美しいですからね!そんな先輩も私に恋したんですね!」
しゅりに勢いよく引っ張られる
「あ、危ないよしゅりちゃん。それと、私は誰にも恋しません(あぶねーぞ、しゅり)」
「すいません、はは……では皆さん揃ったので向かいましょうか!」
「あぁ、そうだな。遅れては元もこもない」
学校へ着きみんなと別れた。
「あー紫雨音ちゃんおはよー」
「姫ちゃんおはよう!ほら上履きしっかり履いてね(お、姫かー。おはよう。おいおい、かかと踏むとあぶねぇーぞ)」
「うん、たまに癖でかかと踏んじゃうんだ……おばぁちゃんにも怒られるけど治せないものは仕方ないよね!」
「そうね、私も癖があったからわかるけど。一番早く治すには周りに認知してもらう事かな!みんなが教えてくれるから自然と治るかもよ(そうだなぁ、癖ってなかなか染みつくし。まぁ美乃とかにも頼んでそういうことが無いように見張ってもらうか)」
「やっぱ紫雨音ちゃんだぁよねー」
姫がぱっと飛びついてくる
「二人とも朝から仲がいいですね」
「あ、エイル先生おはよー!!」
「おはよー」
「先生の心が浄化されていきますね」
すぅーと現れスッと消えていくエイル先生。
「私たちも教室いこっか!」
「うん」
教室に入るとざわざわといつもらしい騒がしさだった。
「みんな!おっはよー。元気だった!」
姫がみんなに手を振りながら挨拶をする
「姫ちゃんこそ!朝から元気そうだね!ほら、新しい髪留め買ったから来てきて、絶対似合うよ」
「呼ばれたからいくねー」
席についてランドセルを開けた。筆箱を机の上に置き、道具箱を引き出してそこにノートと教科書を入れた。
「万年さんおはよう、元気そうだね」
「あ、確か渡船わたふね ウツル君だったよね?元気だよー。どうかしたの?(たしか渡船ウツルだっけか?どったの)」
「それはその、学校一の子に接点をってね。はは」
爽やかに笑うウツルをみて、「あ、殴りたい」と思った。それくらいかっこよく清々しい顔だった
「へ?学校一ですか?(ん?なんだ学校一って、戦闘力か)」
「はい、彼女にしたいランキングですよ!知らなかったんですか」
「知りませんね……って私一位なの?!(俺がそんなランキングに乗るなんてな。昔は彼氏にしたくないランキング一位だったのに)」
「なんせ君と仲がいいだけで女子、男子問わず人気になれるなんて言われるほどだからね」
「渡船さんは私を利用して人気になりたいと?(俺なんか踏み台にすらならんけどな)」
「まさか、僕個人的にも気になってるからさ。万年さんは金上君との事件以降男子と話してないって聞いたから先手をって」
「あー」
「まずはオトモダチからいいですか?」
「積極的ですねー、押しに弱いと思われたら困るのでクラスメイトからで」
「流石、一番だけあるね。間接的に振られたけど痛いな」
「気を落とさないでください。誰であろうと振ってましたから」
「なんというか、あぁ仕方ないね」
少し悲しげに渡船は去っていった
「罪悪感とはこうして生まれるのね(こくられる側も相手の気持ちとか考えたり大変やな)」
チャイムがなり、先生が降臨した。重そうに抱えるプリントを見てみんな固まる。
「ぬきうちですかー?」察した一人が先生に尋ねると先生が不敵な笑みを浮かべる
「安心しろ、保護者あてのプリントだ。帰りの会にもっと配るから先に渡すぞ」
学芸会についてとかかれた何とも懐かしいプリントがあった。11月にやるようだ
「ほぇー学芸会か。確か一か月前後用意期間あったよなー」
保健だより・学年だより・行事予定表・謎のシラバス
「あぁ、見ての通り幼稚園や保育園行ってた人らには懐かしい劇がある。今日の午後2時間は前々から言ってた劇の役決めをするからな、っても他校の劇を見てどんな役がいいかってアンケートするだけだ。あとだな、親のみに来れる日が書ける紙があるから絶対出せよ」
全て配り終え説明を終えると、先生が着替えろよーと指示を出して職員室へ帰っていった。
1.2時間目は体育だ。各自体操着を出して着替え始めた。
先生が笛を鳴らし廊下にみんなを整列させた。
番号順に並び、体育館に向かった。先生が重苦しい扉を開けると、足元に流れるひんやりとした風を感じた
「今日は、軽いランニングの後にバスケットボールをするぞー。まずは準備運動するから整列して」
小学生のわりに統率力の高いクラスのお陰でスグにみんな並び終わった。
「はーい、手を開いて広がって!そーれ」
ぴっ!ぴっ!と笛に合わせて準備運動を開始した。
「走るっても急にはアブねぇからストレッチ運動もするぞー」
運動を終えて、ストレッチをこなしヤヤ火照ってきたタイミングから、ランニングが始まった。
「軽く10分なー。それと競争とかすんなよ?したら先生が追いかけてやる」
美乃と姫に併走しながら喋っていた。美乃が息を切らして歩き気味なほど遅く姫が後ろ走りでケロッとしながら走っていた
「はぁ、はぁ。二人ともよく走れるね。私は準備運動でクタクタだよ」
「姫はいっつも遠くから来てるし!元気一杯だよ」
「えぇ、私もペース配分頑張ってるからそこまでかな(まぁ気合ってやつだな)」
だらだらと回っていると先生を含む先行組がもう追いついてきた。
「万年達、遅すぎるのも考え物だぞー」
だんだん遠くなる声に改めて自分たちの遅さを感じた。
「さて、私もだいぶ回復したので速度をあげましょう」
美乃も気付いて少しペースを上げた。10分という長くも短い時間
笛が鳴り、ゆったり回る時間には地面に果てる美乃の姿があった。
「ぜぇ、ぜぇ、このあと続きませんよー。ちょっと流石に」
「美乃ちゃんも毎日走る?はっはー!!私みたいに最強の走り屋になれるよ!」
「どこの暴走族かな?」
先生がバスケットボールの入った箱を持ってきた。ペアを作れと促した
「まぁ番号順でもいいがな、たまにあるんだ。嫌な奴と組む羽目になって喧嘩する奴が……私がどやされるからやめてほしい物だ」
先生は主的主観を述べると体育館のステージに上がり胡坐を組みだした。
「どうしようね、私たち三人だし」
「あー、なら私は他の子と組むよ。姫ちゃんと美乃ちゃんで組んでいいよ!(そうだな、俺は誰とでもいいから二人で組なよ)」
二人を置いてほかの誰かを探してみた。今日は偶数だから誰かしらはあぶれるハズだ。
きょろきょろしているが、話しなれている人はほとんど組んでいた。あの金上でさえ。
「お、万年さんもペアいないと見たがどうかな?」
善のオーラで脳みその不浄を振り払われる感覚を覚えた。フルフルと頭を振るい向き直る。
「えぇ、いつも仲よくしている友達が奇数だから私が抜けてちょうどペアで(あぁ、仕方ねぇよ。友達が知らん奴らと組んで嫌な思いをするよりは、俺が一線引いて楽しむ二人を見るのが興ってもんだろ)」
「奇遇だね、僕も仲のいい人同士で組んで貰いたかったから抜け出してきたよ」
「では、やりますか?ボールなら取ってきますよ(なるほど、んじゃ!やるかー!ボールとってくるわ)」
体育館の端に寄ってトスをしあった。ふわぁーと飛ぶ紫雨音のボールに比べ渡船のボールは力強かった
ゆったりと進む時間に酔いしれてか、渡船の球が勢いよく飛んできた
「あ、ごめん!少し強すぎた」
取れるか迷いつつも平手で弾き返した。
「おー、すごい万年さん!実はやってたりした?」
「いえ、ちょっと身体能力が高いだけですよ(そうだな、漫画で読んだりしてたからなぁ。ニートなめんなよ)」
チャイムが鳴るまで、ずっと渡船とボールをパスしあっていた。
「あーい、放課だ放課!水分補給忘れんなよ。ボールはしまっとけ!二時間目はお楽しみのドッチボールだ」
体育館から出る奴や人が少ないのをいいことに走り回るやつがいた。
「お、万年どうかしたか?」
「いえ、騒がしいのは端から見ているのが楽しいので(いやー?こう傍観ってかんじか?それが心地いいんだよ)」
「そうか、そうか。年寄みたいだな、まったく」
がしがしと頭を撫でてくる先生。他の奴にやったら保護者召喚ものだろと思いつつ横に並んで遊んでいる生徒を見ていた
「ドッチボールするわけだが、万年的にどう分ける?番号でもいいし男女でもいいし何でもいいぞ」
「男子の背の順低い奴と女子の背の順高い人。それとその逆で」
「なんだその奇抜な!いいな」
自然と会話が止み、喧騒をBGMにくつろいでいた。
チャイムが鳴るより早く先生がステージを降りた。ボールを用意し、整列させるため外に出た。
外からは微かに「チャイムなるからそろそろ戻れよー」と響いていた
チャイムが鳴り、みんなが並び始めた。ドッチボールだからか先生が事前に声かけしていたからか。またこのクラスの統率力がバケモノクラスだからか、ぴしっと並んでいた。
「うーし、背の順に整列!そんで区切るから」
それぞれ分かれて向き合った。
「んじゃよろしくお願いします!」
ボールを高く上げると同時に笛を鳴らす先生。両チームの意識高い系がボールを狙いに行く。
「おっしゃー!ボールげっと!」
敵陣がボールを手に入れ、攻撃を仕掛けてきた。
団子になっていた女子数人が当てられ外野に出ていく。
「ピッ!そこ三人アウト」先生が笛を鳴らして判定をする
わーぎゃーと逃げ惑う奴、おりゃぁ!と当てに行くやつ。
激しい攻防の末、両者五人程度となった。
潟脊かたせ がんばれ!」よけ続けて残った敵陣の潟脊がボールを手に入れたようだ。
「えぃ!!」弱弱しい声と裏腹に少し強めのボールが飛んできた。
渡船が取りに出たが、弾いてしまった。
「みんなすまん!あとは任せた」
向こうはまだ二人戦力が居たがこっちには逃げ上手の四人だけだった
「よーし、敵は四人だ。僕と南野にボールをくれ」
敵が旨く立ち回りどんどん味方が一掃されていく
「あとは万年さんだけだね」
敵の沢谷・南野ペアと向かい合った。ボールをもった沢谷が投げの体制に入る
「うりゃぁ!!!」
凄まじい勢いのボールが眼前に迫ってくる。
「お、おい!万年避けろ」
先生が慌てて声を出す。
ゴッ!っと鈍い音が鳴る。投げた沢谷は固まり、先生も頭を抱える。
「危なかったわ、ギリギリ取れました(あっぶねぇー死ぬかと思った)」
両手でボールを受け取り、固まってる沢谷を狙った。
「あ、えっと沢谷アウトだ」
静まった空間が一気に湧き上がる。
沢谷に当てたボールがまた帰ってきた。次に強い南野に狙いを定めた
「お、まじか……だが油断してた沢谷はともかくとして俺は強いぞ」
力を溜め、出せる限りをボールに込めた
「行きますよ!!(喰らえ!デスボール)」
ボールが高く上がっていく。当てようと思って投げたのにボールは上へそれていたのだ
だが、それが転じてか外野にボールが渡った。
渡船が受け取り構えると、渡船コールが始まった。
南野と渡船がにらみ合う。
「行くよ!南野君」 「あぁ、こい!渡船を倒して俺が」
謎の牽制をしあう二人に動きが出た。渡船のボールが鋭く南野を襲う
「うぁ、とっと……やっぱ渡船には勝てないか」
肩を落として南野が外野に向かう。
「はっは、僕と万年さんだけだね。一緒に頑張ろう」
「う、うん」
二人でと言いつつも、渡船が飛んできたすべてのボールを軽快に取って残りの三人を倒した
「はい」手を出す渡船に固まった。
「あ、えっとごめんね?ハイタッチってやつだよ。唐突に女子にするもんじゃなかったね」
「いいよ、ほい!」
ぱん!と手を交わして整列に向かった。
「両者いい勝負をしたな!次コートを変えてもう一戦だな」
さっき勝ったせいかボールは相手陣地スタートだった。
先手、南野が渡船を狙ってきた。ブーイングは出たが、渡船を仕留めた南野はガッツポーズをとった
「ぴっ!渡船アウト」
「すまないね、万年さん……また戻ってくるよ」
「なんでよ」
その代わりうちにボールがあった。構えて団子を狙った。
「ぴっ!そこ二人アウト」
「やったね紫雨音ちゃん!」
姫とハイタッチを交わし、再び戦地に赴いた。
「ぴっ!あうと!」「ぴっ!あうと!」「ぴっ!あうと!」「ぴっ!あうと!」
何回も続き、また残りが選別されていった。
「南野に竹内、それと沢谷もいるのか。最悪、僕が当たってボールの勢いを消すから万年さんがそれを取ってくれてもいいよ」
3対2で俺を守るように渡船が立っていた
「なんで渡船君はこうも付きまとう形で守るのかな?(なんだ、俺は姫とか向かねぇし。ボールだって取れるぞ)」
「いっただろ?個人的に気になってるって。それに女子一人に対して向こうは男子三人だ」
相変わらず南野が攻守を担っていた。
「よっしゃ、次沢谷!外野に回せ」
「うん、いいよ!それ!」
高く上げられたボールを、渡船が軽くジャンプしてそのボールを取った。
「すごいね、私なら向こうに回すよ(たぁーすげぇーなお前。大人しく外野に回せばいいのに)」
渡船が勢いよくボールを投げた。小学生とは思えない身体能力。南野が敢えて当たり、沢谷がそれを取った
「あちゃー、向こうも同じことを考えたか」
沢谷が低空軌道で球を飛ばしてきたが、渡船が軽く蹴り上げ俺が取った
「ナイスきゃっち!万年さん、腰辺りを外気味に狙うといいよ」
「んーできるかな……やってみるよ(ちぇーいい顔して指示するなよな)」
軽くバスケのようにバウンドさせてから手に取り波動砲のように投げた。
ほぼいるだけだった竹内の太腿にすれて外野にボールが流れた
「よっしゃ!やったね万年さん」
外野で姫がボールを取った。「紫雨音ちゃん!受け取って」とこっちでも取れないような勢いのボールが飛んできた
「おっと、姫さん強いね。ほら、彼女の期待に応えないとね万年さん?」
片手で受け止めた渡船がボールを渡してきた。
軽く構えるだけで南野と沢谷が警戒する、投げる振で牽制を駆ける
「よーし!(喰らえ!デスボール)」
若干カーブを描きながら南野の手に当たりそれをカバーに入った沢谷が取り損ね、指先にボールが当たった。
「ぴっ!ダブルアウト!すごいな万年」
今度はきれいにパーンとハイタッチして喜んだ。
「そろそろ放課になるし終わりだな。おーい、お前ら整列しろ」
号令が終わり、ぞろぞろと体育館から出ていった。
着替えを終えて、仄かな疲れに浸っていた
「はぁー、いつもより疲れる気がするわ」
「し!う!ね!ちゃーん」
ばぁんと机をたたくように現れた姫
「わっ、あぁ姫ちゃんか」
「紫雨音ちゃんさっきすごかったね!」
「あぁ、俺もびっくりした。万年さんがあんなに運動できるなんて」
グッとと沢谷も入ってきた。
「はは、紫雨音ちゃん人気者だね!」
周りを見ると着替えを終えた数人が集まっていた。
わちゃわちゃと褒められたり、なにかしてたと質問攻めにあった。転校してすぐは金上に絡まれたせいかみんな話しにくかったのだろう
「お、人気者だなぁ。モテすぎッてたのしそうだな?先生なんて若いころどんなけMVPとっても……」
ぬっと湧いて出て闇を振りまく先生が居た。
「暗い話は無しですよ?まったくです」
「なんだ、万年!おまえ今日は神様に見えるぞ……くそぉお前に祈るか」
「雲雀さんはどうしたんですか?」
主役の私が居なくても話は回るだろうと抜けて先生に質問をしていた
「風揺君さぁとの式代の為って海外支部に短期だけど行ってしまったんだ……あぁ私のいちゃらぶが」
「先生の愛が重すぎて一回逃げられたんじゃないですか?」
「あぁん?なんか言ったか」
「いえ、ただ先生は焦りすぎではと。むか──────ちょっと前に読んだ本にあったので」
「むかし?あぁ若いのに昔とか言ってると年取るぞ」


全ての授業が終わり下駄箱へ向かっていると宇佐美羽と福音寿音に呼び止められた。
「万年先輩!助けてください」「そ、その……しゅりちゃんが」
「なにかあったようですね、わかりました」
こくりと頷き、美羽と寿音の後ろへ着く。しゅりが暴走しているのは傍目でも理解できた
「ここに居るんですよ!いいですか先輩が居れば簡単に浄化できるんです」
「しゅりちゃん!何しているの!」
「あぁ、先輩じゃないか。む、怒っている」
「えぇ、怒りますよ!勝手に私の名前を使って悪いことをするなんて」
「むぅ、いつもと違うのはつまらないですね。我は先輩に言われてやってます!」
しゅりが高らかに宣言すると同時に走り出した。そのセリフに、まだ残っていた人の目が向く。
「あ、その。ちょっとしゅりちゃん?!」
心なしか泣きそうなしゅりに追う足が重くなってくる。
周りの人に弁解をし寿音と美羽にしゅりの行きそうな場所を聞いた。
「この近所にある使われてないビルに最近よく言ってるって聞いたよ」
「た、たしかに心が落ち着くって言ってました」
「ん、ありがとね二人とも!分かるよ言わなくても……しゅりの事好きだもんね!だから全部先輩の私に託してね」
ぽんっと二人の肩を叩き、家に向かった。
家に入るが女神は居なかった。家の鍵をかけてないのに家を空けるとは
スマホのMAPを起動し、走りながら廃ビルに向かった。
「あぁ、私がどうにかしないと!しゅりちゃんは」
走り、走り。慌てる必要はない。だが脳はアドレナリンを放出し、手足がかってにそこへ向かう。
扉の無いビル。正確には自動ドアが取り壊され、割れたガラスが散乱していた
独特の埃臭さに、じゃりじゃりと心地よいガラスの音がゴミ以外なにもない世界に響き渡る
「確か、前にブログでありましたよね?廃墟散策でしたっけ?しゅりが行きそうな場所と言ったらこのあたりでしょうか」
ブログを読むと、4階の給湯室を抜けた先にあるテラスがスポットらしい
「エレベーターは、使えないですよね」
エレベーターの重い鉄でできた扉は無残に凹んでいて仮に電気が流れていても使えないだろうと思った。
「脇に階段があると、見取り図で行くとこのまま三階までは行けるかな」
手入れのされてないバキバキにひび割れたコンクリ製階段を上て行く。
三階に着くとロビーの様な場所に出た。見取り図を確認し、階段へ向かう
「なぜ四階に行くには真ん中の階段しかないんだろうね」
今はもう見なくなった、四角い箱パソコンにボロボロで焼け焦げた世界地図。カップルの名前が書かれたホワイトボード
「ねぇ、しゅりちゃん!いるの?」
四階へ続く階段に向かいながら声をかける。反応はなかった
パラパラとコンクリートの欠片が降ってくる。それに倣うようにパラパラと降り始めた雨が、コンクリートの重苦しさを一層増した
四階へ向かうと部屋が見えた。天井から下げられたネームプレートを探り、給湯室を見つけた
「誰かいる?」
さび付いた扉を開けた。蝶番寄りに扉を押しながら開くが誰もいない。
割れたコップに異様な臭い。コンロにはべこべこになったフライパンが乗っていた
「テラスに出る扉はこれかな?うんしょ」
頑張って開けるとしゅりが雨の中、遠くを眺めていた
「あぁ、私はどうしてこう失敗ばかりなんだろう……いっそ私を知らない人しかいない場所なら」
その幻想的な姿に声を出せずに固まっていた
「仕方ないよね、もうそんな風にみんな思ってるし……」
「しゅり……」
か細い声が喉から漏れる。一歩、踏み出していた。
「あなた達!二人でそこ立ったら危ないよ!」
しゅりが驚いて手すりを背に座り込む。紫雨音もズッテっとこけた
「ほら、はやく!そもそも入れないように鍵があったはずだけど!」
しゅりが立ち上がって、声の主の横を去っていく
「あ!ちょっと君ぃ?」
自分もと立ち上がると同時にテラスが崩壊し始めた
「危ない!大丈夫?」
ガラガラと崩れる中で上から伸びた手に手を掴まれた
「君は、誰なんだ」
「今はそんなこといいでしょ?ほらしっかり捕まって」
「セ、先輩!どうしてこんなところに」
その手を伸ばした主の横からしゅりが覗いていた
「あなたも手伝って、そこなら崩れないから」
「無理です……私はもうだめなんです」
しゅりがその場でうずくまる。降る雨が強くなり声の主も苦悶の声を出し始める
「誰かわからないけど、もうその手を放してください。そもそも私が全部悪いんだから」
「そんなことを言わないで!貴女まだ小学生でしょ!何を思ってそんなこと口にしたか分からないけど、まだやり直せるんだよ!何回だって」
「そうですか、なら尚更。私だって貴女が苦しむ顔は見たくない」
もうどうにでもなれと全てを吐き出した。不謹慎だ、だがこの状況だからこそしゅりを
「あ、力を緩めちゃ、私も雨で滑って」
声の主がさらに力を籠めるが少しづつ下がっていく
「私も手伝います!」
しゅりが顔をパン!と叩き気合を入れてどこかに駆けていった
「すいませんね、なんか……私がブログ何て書かなければこんな」
更に雨が増し、一秒一秒が長くなる。雨粒が止まって見える程長く
「ロープ持ってきました!使ってください!」
しゅりがわっかを作ったロープを持ってきた。


「はぁ、はぁ……助かりました。ごめんなさい二人とも」
「先輩は悪くないよ、元と言えば私が全部悪いの!言いたいことを言い出せずに……全部何か理由を付けて逃げてきたから」
雨で、濡れた服で重くなった空気がさらに重くなる。危なくないようにと敷いた段ボールはもう見る影もないほどだった
「それは仕方ないよ?いままで本音で頼ることを知らなかったんだから。これからは私に頼っていいのよ?」
「うぅ、せんぱい……」
しゅりを軽く抱き留めた。夏と言えど冷え始めていた体には心地よい暖かさだった
「あのー、二人とも?ラブラブのところ申し訳ないけど。このまま濡れてると風邪ひいちゃうよ」
声の主がぶるぶると震えながら立ち上がった。
「べ、べつに先輩とはそんなこと!我は天涯孤独だ!」
「とりあえずここから出ないとね!濡れてるのは変わらないしこのままどこか」
「うーん、私の家は……いえ、我の家はここから遠いですね」
「私もそうだね。ちゃりで通うくらいには遠いかな」
「なら私の家だね。服はわからないけどお母さん居ると思うから」
もと通った道を戻り入り口に出るとちゃりが置いてあった。
「あった、私の愛車!ガンガルディアス三号!」
「そういえばお姉さんは何者なんですか?」
「あー自己紹介してなかったわね。皆尾里みなおさと 第二高校一年の美杉みすぎ 日和ひよりよ」
「我は上野目しゅり。先輩と同じ組織に属している」
「はっは、すこし人見知りぽくてごめんなさい。私は万年紫雨音」
「なるほど、紫雨音ちゃんにしゅりちゃんね!よーし急ぐよ!」
一緒に走り家に着くと、玄関で女神が待ち構えていた。
「紫雨音!なんで危険なことを」
ド叱られた後に、風呂に通された。指先はもうシワしわになっていた。
さっぱりしてソファーに倒れ込んだ。
「すみません。万年さん、私までお風呂を」
「いえ、想定済みでしたので。それよりも紫雨音を助けてくださりありがとうございました」
「あはは、私も分かるんですよ。あんな場所で黄昏たくなる気持ちが」
今度は、しゅりの方に行き話し始めた。
「あ、紫雨音ちゃんそのTシャツってマルハテのじゃない?!」
「もしかして日和さんも好きなのですか?」
「それはもう!パラダイス・ロスト軍四天王エンジェル様に命をかけたいほど!」
「わかってるじゃないですか!やはりエンジェル様しかないですよね」
「うんうん!ただお父さんが子供っぽいのはもう見るなーって言うからなかなか見れなくてね」
「なんて親です、マルキテから見せて理解させなければ!シリーズ初期から人気TOPなのに」
「はは、ただ私のために色々頑張ってはくれてるんだよ。でも距離感とかいろいろあってねー、落ち着きたいときはアソコで伸び伸び変身ごっこしたり、マルハテ見て時間を潰してるんだ」
「なんて自堕落な……」
そこから話を終えたしゅりも交えてしばらくマルハテ談義をしていると家のチャイムが鳴った。
「しゅりちゃんのお父さんですね。服の方はもう洗って乾いてますので。それとこの服は差し上げます、こうなることを予測はしていたのでといっても理解されないでしょうが」
「では先輩のお母さんと日和さんそれに先輩!迷惑をかけて本当にごめんなさい!まだ難しいけど、すこしづつ慣れていくから……」
「えぇ、紫雨音共々協力は惜しみませんよ?泣きたくなったら来てもいいのですよ?」
「ですね、私で力になれることはするし、呼ばれたら来るから」
「うん!また会ったらマルハテについてかたろー」
迎えに来た父親と帰っていくしゅり。腕を大きく広げ何か楽し気に話すしゅりの頭を撫でるしゅりを見て残った三人は慈愛の気持ちに包まれた
「なんか、私もあんな時期があったな……」
「微笑ましい父娘ですね、なんというか赤飯作りますか?」
「いらないです。そういえば夜ご飯はまだ?」
「忘れてましたね。では日和ちゃんを送りつつ外で食べましょう」
「そんな、悪いですよ!雨も止んでるので自力で帰りますって」
「一保護者として、御礼替わりですよ」
「そういわれると引けないな、はは!」
自転車は女神が車の後ろにどうやってかは知らないが収納していた。
雨が止んだ街道を進んでいく車。
「しかし驚きましたよ、まさかお父さんが前にあったっていってたすごい人と会えるなんて」
車内では日和が女神と話していた。思い出したようにマシンガントークを繰り広げる日和に女神は少し気おされていた
「そうでうか?現代の人はできないんですかね」
「いやー、私はネットとかあんまりしないから知らないけど今は一世を風靡してるって」
「でも人気も大変です。この前は沢山の人に閉じ込められそうになりました」
「え、誘拐とか拉致!?事件に巻き込まれたんですか?」
「いえ、スマートホン?で沢山フォトされました?幸い助けてくれた方が居たので助かりましたが」
「成程、じゃぁお父さんの話は嘘じゃなかったってことね。まぁ武勇伝なんて意味ないもんね」
「もうすぐ着きますよ、ほら紫雨音も起きなさい」
女神の呼び声に、夢半部の脳ミソを回転させ起き上がる
日和の家に着くと、男性が飛び出てきた。
「日和!あれほど夜は早く帰りなさいと」
強く、だが叱るというより悲しさを含んだそんな。
「ごめんねー人助けしてたら遅くなっちゃって。結果的に御礼でソレ以上って感じ」
女神が固まる、男性も女神を見るや否、目を見開いていた。
「あぁ女神さんじゃないですか」「美杉町太郎生さん!」
異質なロミオとジュリエット的展開に日和のとこへ行き事情を聴いた。
「あの、もしかして日和のお父さんってあの有名な?」
「う、うん。なんかお父さんの話だと一方的に万年さんを女神さんって呼んでる感じだったけど、お互い仲良かったんだね」
「いえ?あの二人は確か二回目だったよ会うの」
しばらくして女神が車へ向かった。
「日和さん、これ返し忘れてました」
「あ!ガンガルディアス三号!」
元気よく手を振る二人に見送られながら女神が車を走らせた。
「ふふ、奇縁ですね」
女神の不敵な笑みに寒気を覚え突っ込みを入れてしまった
「もしかして家が分かったからって足繫く通うとか言わないよね?」
「いえ、ふぁん?としてのルールは心得ていますよ!」
「ならいいけどぉ?」
「さて、夜ご飯は何がいいですか?」
「かつ丼にしようか、そこの角を左折してまっすぐ行くとかつ丼やがあるから」
「わかりました。では行きましょう」



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