島流しされた悪役令嬢は、ゆるい監視の元で自由を満喫します♪

鼻血の親分

105. 自由

 あれから半年経つ。

 わたくしはジェラール様との婚儀を済ませ、晴れて王太子妃となった。そして暫くは王室から出られなかったけど、ようやく自由に島へ行ける環境が整い、今楽しい気分で船上から降りていった。

 でも気がかりが一つある。それは……。

「お迎えにあがりました。アニエス様」
「ありがとう、コリンヌ」

 彼女は島駐在の侍女に任命していた。因みに殿下の計らいでバルナバさんは統括責任者として男爵の爵位を授与される予定なのでコリンヌも近々男爵夫人になる。

「あー、帰って来たって感じ。この潮の香り、新鮮な空気にのどかな風景……懐かしいわ!」
「牧場も変わりないですよ。アレ以外は……」

 そう、アレなのだ。問題は

 馬車に揺られながら彼女から近況報告を聞く。ベルティーユは監獄の責任者となって、未だ死刑執行されないブリスさんの面倒を見てるらしい。殿下が執行のサインをなさらないのが原因だけど。いつの間にか独房から出て一般棟で囚人に建設の指導をしてると言う。

「まあ彼は器用だからね。それより王女様が監獄におられたなんて殿下から聞いてびっくりしたわ」
「ベルティーユ様も時々お会いしてる様です。実質グレース様が監獄を仕切ってるって仰ってました」

 わたくしはあの御方のお陰で強くなったの。妹と一緒に訓練しながら……。できればお会いしたいな。

「アニエス様、殿下はお変わりないのですか?」
「ええ、彼は特別任務をお受けになられて、毎日の様に山へお出掛けに……」
「山?……ですか?」
「わたくしにも詳細は教えてくれないのです。国の行く末を左右するほどの大事業みたい」

 そうこうお話してるうちにお屋敷へ到着した。ソフィアが作物を持って歩く姿が見える。

「ソフィアーー!」
「あ、アニエス様! お待ちしてました!」
「牧場や農園は順調?」
「はい。もう全て上手く育ち小麦や薬草も収穫して、あとは作るのみです」

 念願のパン作り、それにわたくしの大事な任務であるお薬や薬膳料理、薬用酒、薬湯、化粧水に至るまで島やお国のため、健康に役立てるものを作らないといけないのだ。

 やることがたくさんある。

「……で、アレですけど」

 あ、ああアレね。浮かれてる場合ではなかった。

「大丈夫かしら?」
「はい。なんとか。でも、細かいところはまだ……」

 と、その時だ。

「ワンワン、ワ、ワーン!」

 キースを連れた女性を見た時、わたくしは正直ゾッとした。まるで自分を見てるかの様なのだ。

「お姉様あーーん!」
「カ、カリーヌ……!?」

 独房で太ったって聞いてたけど、すっかり元のスタイルに戻って……いえ、寧ろ逞しくもなっていた。彼女はグレース様の指導もあって、すっかり反省して改心したらしく、バルナバさんの指示で仮釈放されている。そしてとは研修のこと。カリーヌは一週間前から牧場の仕事を手伝っていたのだ。

「お姉様、私にも色々教えてくださいね。うふふ」
「い、いいけど畑の匂いは慣れたの?」
「うん、いや苦手……でもね、毎日が楽しいよお」

 わたくしはふと子供のころを思い出す。無邪気に笑う可愛い妹と今、重なった気がした。本来彼女は素直で明るい娘だ。これまで色々あったけど、やり直せるなら良好な関係を築きたい。ま、彼女は少々飽きっぽいのが欠点だけど。

「よおし、一緒にパン作ろうか?」
「やったー! お手伝いするよお!」

 その晩、バルナバさんやベルティーユもお屋敷に訪れ、久々に皆んなと晩餐を楽しんだ。カリーヌと作ったパンを食べながら……。


 わたくしはケヴィン様からの婚約破棄で人生が大きく変わっていった。勿論、それを望んだことは事実。でも島流しされて良かったのだ。開放感満ち溢れた島で温かい人々に恵まれ、愛する人と結ばれた。好きなことを楽しめる喜びを知った。

 全ては結果オーライなのだ。

 だから、これからもします!




 島流しされた悪役令嬢は、ゆるい監視の元で自由を満喫します♪

      ── END ──


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