島流しされた悪役令嬢は、ゆるい監視の元で自由を満喫します♪

鼻血の親分

87. 里帰り

 “一緒に行こう”と誘われた時はすごく嬉しかった。でも彼は一足先に行かれたのだ。そのことはアルフィーから聞いている。かなり慌てたご様子だったとか。島で何かあったのか気になって仕方ない。

「アニエス様にとっては二ヶ月ぶりですね」

 船上でベルティーユが微笑んでくれる。「うん……」と、答えたけどあの島が何も起こってないことを祈っていた。

 定期船から降りると懐かしい風景を目の当たりにする。また、新鮮な空気に包まれて開放感が一気にココロを支配した。

『島は何も変わらず、暖かくわたくしを迎えてくれるのね』

 そう思うと心配ごとが吹っ飛んでいった気になる。

 コリンヌに会いたいな。ソフィアと牧場や農園を歩きたい。キースとお散歩したい。島は自由だ。誰にも気兼ねすることはない。窮屈な王都では考えられないほど、たくさんやりたいことが浮かんでくる。

 わたくしは思わず微笑んだ。

「ようやく元気が出ましたね」
「ベルティーユ、心配させてごめんね。殿下が慌てて島に戻ったから気になっていたの」
「あら、私も一ヶ月ぶりだから何も分からないわ。でも大丈夫よ、きっと」

 二人で馬車に乗ってお屋敷へ向かう。わたくしは船上とはうって変わってワクワク感で一杯になった。

「あっ!?」

 お屋敷の前にコリンヌが居る。お城勤めと聞いていたけど?……でも今、そんなことはどうでもいい。

「コリンヌーー!」
「アニエス様!?」

 馬車から降りて彼女と抱き合った。コリンヌの甘い香りが懐かしい。

「お元気でしたか、会いたかったですう」
「わたくしもよ。でも、すごい偶然ねえ」 
「バルナバ様と一緒に来たのですが……」

 彼女はチラッとお屋敷を見た。中に彼が居るのを察したけど少し不安を感じる。

「何かあったの?」
「さあ? ソフィアに用事があるみたいで。あの……お役人と一緒に入ってます」

 ベルティーユも不思議がって、お互い顔を見合わせた。でも、直ぐに答えを知ることになる。

「ソフィア。急いで港へな!」

 バタバタと足音が聞こえた。バルナバさんがエントランスから出て来たのだ。

「バルナバ……さんっ!」

 久しぶりの彼に突然の笑顔で驚かせてみせる。

「えっ?……カ、カリ……脱走したのか?……い、いや違う……ア、アニエス様? アニエス様だーー! それにベルティーユ! おおおおおおおおおーー!」

 何という雄叫びなのだ。ちょっと大袈裟よ。それにカリーヌと間違えたな? って思ったけどまあそこは許そう。

「ねえ、ソフィアがどうかしたの?」
「ああ、それが王都へ行くんだ。でも心配ないよ。一度、実家へ帰るだけさ。無実が証明されてるけど彼女は島の住民だからね」
「そっか……」

 うん、それは良いこと。なーんだ。心配することは何もないよ。

 と、胸を撫で下ろしていたらソフィアが荷物を持って現れた。

「ソフィア!」
「あー、アニエス様あ! お久しぶりです! わぁ嬉しい! あ、でもどうして?」
「里帰り……かしら。うふふ」
「まあまあ!……で、いつまで滞在されるのですか?」
「え、えーと……たぶん十日くらいかな?」

 確か殿下はそう仰ってたよね? でも、彼とお会いしてないから何とも言えないけど……。

「丁度良かったあ。次の定期船で戻ってきますからアニエス様、牧場と農園の世話をお願いしても宜しいですか? 私、それが心配で……」
「うんうん、大丈夫よ! 任せといて!」

 彼女が不在になるのは寂しいけど滞在中にまた会える。それに、やりたいことがたくさんあるのだ。

 わたくしは活気に満ち溢れていた。

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