島流しされた悪役令嬢は、ゆるい監視の元で自由を満喫します♪

鼻血の親分

86. 信念

 ※ジェラール視点

「でぇ、でぇ、殿下あああああああーーっ!」

 城に着くなり人目も憚らずバルナバは涙を浮かべ大声で駆け寄ってくる。よっぽど責任者が辛かったのかと、少し後悔の念に駆られてしまった。

「苦労かけたな」
「もーう、大変でしたよおお!」
「暫く島に滞在するから安心しろ」
「はいいっ、ココロ強いです!」

 ベターッとバルナバに引っ付かれ、ああだこうだと愚痴を言い出すので話が長くなる予感がした。私はビソンに会いたいのだ。

「すまん、ビソンに急用がある。お前の話は後でじっくり聞くから」
「は、はい。では、お待ちしてますからあ!」

 纏わりつく彼を振り切り、次官の執務室へ駆けって行く。途中で数人の見知らぬ警護の者を見かけた。恐らくビソンの配下だろう。いつの間にかこの城はライクス王国に乗っ取られた気がしてならない。

 執務室に入るとビソンの周りにも配下が二人いた。予期せぬ私の登場に少々慌ててる様子だ。

「こ、これは殿下!?」
「ビソン、話がある。二人きりでな」

 彼は配下に目配りして退出させた。そして私にソファへ腰掛けるよう、促す。

「そのご様子だとルーク様からお聞きになられたのですね?」

 彼は突然の訪問を悟った様だ。なら話は早い。

「私は二ヶ月前まで単なる島の領主だった。この国に脅威が迫ってることも知らないな」
「黙っていたことをお詫び致します」
「ビソン、君は我が国をどうしたい?」

 直接彼の心意を確かめばならない。場合によっては排除も辞さない構えだ。

「侵略されず国の独立性を守ることです」
「ライクス王国の高官とは思えない発言だが?」
「そう捉えるのはごもっとも。しかし信じて頂きたい。皇帝の侵略主義には反対してるのです」
「……で、ルーク様を担いでどう対抗するのだ?」

 ビソンはソファへ座り、落ち着いて話を切り出す。

「仮に属国扱いされてでも戦争は回避すべき。難しい舵取りです。これが出来るのはビルニーではなくケヴィンでもない。ルーク様以外、考えられない。そして次の代であるジェラール様に引き継いで頂きたい」

 驚いた。そんな大役が待っているとは……。いや、おぼろげには自覚していた。だから彼に会ってるのだ。

「私はライクス王国の官僚……出生は伯爵家です。が、西のはてに位置し母親は隣国出身なのです」

 初めてビソンの生い立ちを聞いた。彼はライクス王国に侵略され、今や内乱の真っ最中である西国の人間でもある。皇帝からはその才覚を認められていたが、裏切りの疑念もあって出身とは離れたジョリー王国戦略担当に命じられていたのだ。

 そして彼は皇帝を嘲笑うかの様に侵略反対を唱える地下組織のリーダーでもあった。

「皇帝の時代を何とか耐え忍べば、道は切り開かれます。私の真の目的はライクス王国の暴走を止めること。このジョリー王国を守り東西の国を解放させたいのです!」

 力強く語った彼の目は一点の曇りもない。逆に何も知らない自分が情けなくさえ感じる。

 何という壮大な信念を持っているんだ。私がとてもちっぽけな王太子に見えてしまう……。ああ一人になりたいぞ。籠って籠って集中したい。 

「ビソン、すまないが……」
「はい。じっくりお考えください」

 私は静かに頷き、自分の執務室へ戻ることにした。

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