島流しされた悪役令嬢は、ゆるい監視の元で自由を満喫します♪

鼻血の親分

32. 公務

 ※ジェラール視点

「本日の報告です。……あれ? 殿下、どうかしましたか?」

 いつもの如く、バルナバから報告を受ける時間だが、先程までビソンとあの御方との面談について話をしてたから表情が厳しかったのかもしれない。

「いや、何でもない。牧場は順調か?」
「そのことですが、敷地を少し拡大したくて相談したいのです」
「手狭……なのか? 羊が三匹とニワトリが二十匹……」
「あと犬が一匹。いやそうじゃなくて、実は大幅に畑の面積が広がってしまいそうで」
「ほう、畑か。確か自給自足を目指してるとか」
「はい、アニエス様やソフィアの構想では──」

 バルナバの話によると、かなりの野菜に加えて小麦の大量生産を考えてる様だ。更に薬草などの栽培も手掛けたいと言う。

「つまり、土地が足りない……と?」
「あの界隈は草原が広がっています。殿下に確認頂き、敷地の面積を増やしてほしいのです」
「確認……ねえ」

 それってアニエスに遭遇する可能性が高いってことだろう? まあ、公務ではあるが……。

「あ、それともう一つ」
「何だ? まだあるのか?」
「自家製のパンを製造するにあたり、簡易的な設備や道具を揃えたいと」
「それは良いだろう。資金を出そうじゃないか」
「流石は殿下! ありがとうございます!」

 オードラン公爵からの献金がある。それくらい充分賄えるはずだ。

「で、明日にでも視察されますか?」
「う、うむ……」

 すごく判断に迷うな。私は「彼女に会う勇気がないのか?」そう、自問自答を試みるもののポジティブな答えを見出せない。正直、勇気がないのだ。

「あ、何でしたらアニエス様が漁港へ行ってる間でも良いですから」

 バルナバに私のココロを見透かされた様だ。それはそれで恥ずかしいぞ。

「これは公務……だ……よな?」
「はい。完全なる御公務でございます!」
「お前は説明できるのか?」
「何をです?」
「だから、どのくらいの土地がいるのか? だ」
「僕よりソフィアに聞いた方が確実ですが」
「アニエスは?」
「勿論、アニエス様でも良いですよ」

 クルッとチェアーを反転させて考察してみる。

 これは公務だ。いいか、公務なんだ。領主として土地の配分及び活用については全てこの目で判断してきた。

「分かった。明日、視察しよう」
「かしこまりました! 明日は漁港休んでお迎えに上がります!」

 えっ? ま、待て! それってアニエスが居るってことか? 漁港はわざわざ休まなくてもいいじゃないか!

 言った瞬間、激しい後悔が走った。だが、もう後には引けない。恐らくあの御方に会うことが決まり、気持ちが昂って大胆な判断を下したのだろう。

 アニエスと会う? 話をする? そうなれば十年ぶりだぞ。何を話すんだ……いや公務だ。土地の配分について淡々と話をするだけだ。それにしても明日か。急過ぎるな。ココロの準備が……。

「殿下?」
「すまないが……」
「はい、はい。一人になりたいのですね。では僕はお先に失礼しますねー」

 ああ、明日はどんな顔をすればいい?……今晩はとても眠れそうにない。

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