島流しされた悪役令嬢は、ゆるい監視の元で自由を満喫します♪

鼻血の親分

29. 美人

 ※ブリス視点

 ワン、ワン、ワンっと尻尾をふりふりしながら俺の元へ走ってくる。そしてお腹を出して甘えてくる。そんな仕草を見てココロが和む。

「キースって言うのか。可愛いな」

 アニエス牧場の放羊犬として、城からバルナバが連れて来た時は「ちっちゃくて大丈夫か?」と思ったが羊には厳しくしっかり統率が出来ていた。流石は王室犬だ。コーギーは勇敢で機敏なところがある。

 気に入った。俺は罪人の監視よりキースと牧場で過ごすことが多くなるだろう。まあ、それには理由がもう一つあるのだが……。



「アニエス様、新たな使用人を連れて来ました」

 先程、バルナバが屋敷で紹介したオンナがいる。歳は二十五歳だったかな。黒髪が美しく気品があり貴族の雰囲気を感じた。聞けば囚人だったと言う。

「本日より、使用人として牧場や畑の世話をさせて頂くソフィアです。皆様、宜しくお願いします」

 ソフィア……。はて、何処かで聞いたことがある名前に黒髪だ。だが、思い出せない。

「わあー、綺麗な御方! アニエスです。自給自足を目指してるから手伝ってね!」
「じ、自給自足ですか……」

 冷静なベルティーユ、わくわく感溢れるコリンヌにチャラ男のバルナバ、そして笑顔が眩しいアニエスに見つめられ、彼女はどう答えれば正解なのか、瞬時に判断した様だ。

「私、そういうの得意です! お任せください!」

 わあーっと皆んなが期待に満ちた表情を浮かべる。

 ふん。と端っこで腕組みしてる俺だが、ソフィアの笑顔があまりにも可愛らしく、不覚にもドキッとしてしまった。

「こちらはブリス監視官殿です。彼はわたくしの監視で王都から派遣されてますが、牧場を手伝ってくれてます。監視官殿、彼女を宜しくね」

 な、何だ、その紹介は? それじゃまるで俺が良い人みたいじゃないか。たまたま手伝ってるだけだぞ。

「お、おう。ブリスだ。宜しくな」

 小っ恥ずかしいだろ。と言うか、アニエス、コリンヌ、ソフィア。俺は今までこんなに美しい女性に囲まれたことは無かった。何て巡り合わせだ。よりによって王都ではなく、囚人島で経験するとは……。



 さて、牧場ではソフィアと二人きりだ。羊は勝手に草食ってるし、俺はキースと戯れている。彼女は畑を観察しながら何やら考えてる様だな。お前が何者なのか思い出したい。何故監獄へ入ったのか? 一体何の罪で? そこにヒントがあるだろう。

「なあ、ソフィア」
「はい?」
「どこかで……って王都だが会った気がするんだが」
「いえ、覚えがありませんわ」

 彼女は微笑している。

「お前は王都にいたよな?」
「ええ、実家が牧場や農場を経営してましたので」

「何故、監獄へ?」そう、口にしようとしたがやめた。ちょっと聞きにくい。話したくないだろうし。いや、聞かなくても調べれば分かるかもしれない。質問を変えよう。

「お前は貴族なのか?」
「ジェントリです。王都に近い場所ですよ」
「ふーん。そうか……どうりで園芸に詳しいんだな」

 俺は単に、何か引っかかる失念が知りたいだけなのか? それとも美人の彼女に興味を持ってしまったのか? その答えは王都へ行くまでお預けだ……。

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