島流しされた悪役令嬢は、ゆるい監視の元で自由を満喫します♪

鼻血の親分

19. 紫花

「アニエス様、殿下がチョ~恥ずかしそうに受け取りましたよう!」
「そう? ホントに? あー、気に入ってくれたかしら!?」

 実はドキドキして、あまり眠れなかったのです。

「僕の予想ではとっても気に入ってると思います。あの御方は少々、照れる癖がございまして……」

 そうね。彼は幼い頃からシャイだった。でも可愛かったよ。二つ年上だけど。

「今日は肌寒いから、きっと密かに着てますよ」
「そっか。そうだといいな」

 わたくしは大胆なことをしたと後悔していた。罪人が領主様にプレゼントだなんて、よく考えたら非常識ではないだろうか、と。

 ちょうど、子供たちにセーターを編んでいたら、コリンヌがバルナバさんのために編みだして……。恥ずかしいからって、わたくしが作ったことになってるけどね。それで大人にも編みたくなって、つい作っちゃった。でもジェラール様に渡す勇気が無かったから、薄唇さんにあげたの。アレはちょっと後悔したなー。

 だから、やっぱりってベルティーユに教わりながらクオリティーの高い刺繍を施したセーターを編んだの!

 喜んでくれたなら嬉しい……。

「それにしてもアニエス様、薄唇殿が居ないと清々しますね。アイツ、朝からここで飯食ってるんですよ! 全く、厚かましいったらありゃしない!」
「らしいね~。うふふ、まあベルティーユが上手く応対してくれてるから良いけど」

 今日は定期便の日だから地引網漁はお休みだった。わたくしは久々に緩りとした朝を過ごしている。

「大衆食堂も定休日なんです。だから本日は我々もお休みしましょう。アニエス様、何かしたいことありますか?」
「うーん。セーターもだいたい編んだしね。お庭でも散策しょうかなー」
「広い庭ですからね。紅茶飲んだら行きましょう」


 一息ついたわたくしはバルナバさん、コリンヌとお花畑を散策してみる。暫く歩くと、お野菜の畑があるのに気がついた。

「あら、まだ新しいわね」
「ええ、これはベルティーユが拵えた野菜畑です」

 ふかふかの土が盛られた畝に沢山の苗が植えられている。

「トマトにアスパラ、カボチャ、赤唐辛子……いっぱいある!」
「少しでも家計を考えてのことですかね?」
「そう……わたくしのことを思ってなのね」

 正直、生活するのに必要なお金がどうなってるのか分かっていない。全てベルティーユに任せていた。それでも食材のお魚や昼食は漁や食堂を手伝って調達している。まあ、それだけでは厳しいのかな?

 わたくしは一生ここで生きていかなければならない。だから自分で出来ることをしようと思った。時間はたっぷりある。

 ──よおし、この島で自給自足を目指そうか?

 新たな目標を見つけた。


 とその時、馬車が屋敷の前に止まった様だ。遠くからではよく見えない。

「誰か来たのかしら?」
「ん?……あれは荷物の配達ですね。ベルティーユが頼んだのかな?」

 お屋敷へ戻るとエントランスに美しいお花が飾られていた。

「わあー、きれいーー!」

 ライラックだ。花の良い香りがする。

「ア、アニエス様……?」

 珍しくベルティーユが動揺している。

「どうしたの? このお花は貴女が頼んだの?」
「いえ、これは領主様からアニエス様への……」
「えっ、えーーっ!?」

 その美しい花はジェラール王子からの贈り物だった。

 紫色のライラック。春を告げる花だ。そして花言葉は『初恋』……。

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