島流しされた悪役令嬢は、ゆるい監視の元で自由を満喫します♪

鼻血の親分

14. 手編みのセーター

 ※ジェラール視点

「薄唇殿が凄くウザいです。殿下、どうにかしてください」

 あれから数日が経つ。バルナバはアニエスの近況より、ブリスの愚痴を多く報告してくる。全く困ったものだ。奴の動きは把握してる。確かにあまりいい印象を持ってないが……。

「一度、お屋敷へいらしてください。ね?」
「いや、私は“彼女とは会わない”──そう、決めたんだ」
「何でです? この前も密かに孤児院覗いたかと思えば即帰っちゃうし!」

 ま、またその話をぶり返すのか?

 あの翌日、バルナバに散々咎められた。黙って来たこともそうだが、アニエスが気づいたにもかかわらず、帰ったことに相当不満だった様だ。彼女はあれからしていたらしい。だが、私のことは何も語ってないそうだ。何か言ったのかなって、ちょっと期待した私は恥ずかしい。一人にしてくれと執務室へ閉じこもり自問自答を繰り返した。随分と苦しんだものだ。

「その話はもういい。で、変わったことはないのか?」

 不満げなバルナバだったが、ふと何かを思い出した様だ。言いたくて、言いたくて仕方ない素振りを見せる。

「実は最近、手芸に凝ってます」
「手芸?」
「ええ、偶然通りかかった手芸店の洋服を見て、いたく感動した様でして……毎日、食堂の帰りに寄っています」
「彼女は何がしたいのだ?」
「子供たちに手編みのセーターをプレゼントしたいって、せっせと編んでますよ」
「ほう……」

 アニエスが孤児のために手編みのセーターを。何と素敵な話なんだ。

「でも、上手く出来ずに悩んでました。僕からしてみれば、まあまあの出来だと思うのですが……」
「彼女のことだ。クオリティーにこだわってるのだろう」
「はい。でも解決しました」
「ん? それは?」
「ベルティーユです。彼女の手芸はプロ並みだったのを忘れてまして、アニエス様はベルティーユを師と仰いで教えを乞うています」
「侍女を師……か……」

 彼女は元々このペチェア城の女執事だった。洋服、装飾品、靴などの選定に加えて、料理、裁縫……何でも一流の腕前。だが、使用人に厳し過ぎて孤立していたのをバルナバが配置転換したのだ。

「ベルティーユは王宮から送られてくる給金を管理していますが、アニエス様の身なりが随分と見窄らしいので、その給金から上等の生地を取り寄せ、洋服を作っていたのです」

 つまり、彼女が着てるのは侍女がこしらえた洋服なのか。

「それはもうアニエス様は大喜びして!」
「それでベルティーユの腕前を知って、教えてもらったと言うわけだな」
「はい。あ、それと……これは報告しなくてもいい話ですが」
「何だ?」
「ついでに……でしょうけど、僕も……」

 バルナバは制服の上着を脱いだ。少しドヤ顔だ。見ると、おいおい、手編みのセーターを着ている。

「似合いますか?」

 なっ、なっ、何をどさくさにお前もセーター着てるんだ!?

「アニエスが編んだのか?」
「はい。嬉しかったです!」

 暫く呆然としながらも、セーターを食い入る様に眺めてしまった。私は激しい嫉妬に細悩まれる。そしてココロの中でため息を吐く。

「すまないが、一人にしてくれ」

 う、羨ましい。素直にそう思った……。

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