ねぇ、笑って……?
9.解放-4
「許してなんて……言えない……」
「彼を愛してる……のか……?」
なけなしの虚栄心で、冷静さを保った。
「ち……がう……」
『そうだ』と言われたら、きっと発狂していた。
「じゃあ……どうして……?」
「彼と……デキたら……忘れられると思った」
そう……か……。
俺と同じだったんだ――。
やっと、朱音の気持ちが理解できた。
朱音は仁也に抱かれることで、彼の不能を治すことで、自分の罪を償えると思っていたんじゃないだろうか。
朱音はずっと、父親のように慕っていた男を憎んでいたと思う。自分の信頼を裏切り、母親に捨てられる原因となった事件の要因。けれど、長年憎んできた男は、実の母親よりも自分を慈しんでくれる唯一の人間だった。きっと、行き場のない罪悪感や喪失感に、朱音は苦しんだはずだ。そして、今は亡き彼への罪が、仁也を救うことで赦されると思い込んだのではないだろうか。
俺が母さんを殺した罪を許されたくて、朱音の笑顔を求めたように。
朱音は自分の罪から解放されたのだろうか……?
「彼がデキなかったのは、朱音のせいじゃないだろう?」
「わかってる……。だけど……」
「君は汚れてなんかいない」
「え……?」
「後藤田……さんから伝言」
再び、朱音の瞳に涙が溢れる。
俺は一生……あの人には敵わないかもしれない。
それでも、俺は朱音を放せない――。
このまま、朱音を連れて帰れば、それで全てが終わる。いつか忘れられる。過去に出来る。
わかっている。
それでも、彼に対する敗北感と、尊敬の入り混じった複雑な感情が、口を閉ざすことを許さなかった。
「朱音、後藤田さんは……『朱音をレイプしようとした』って言ったよ」
「え――」
「悪いのは全部自分で、朱音は何も悪くない、被害者だって」
こんな事を言えば、朱音が仁也を庇うのはわかっていた。
仁也さんは悪くない、と言うのだろう。
けれど、彼の朱音への愛情や誠意を黙ったまま朱音を取り戻すのは、フェアじゃない。くだらない正義感を後悔することになっても、黙っていては胸を張って朱音を取り戻せないと思った。
けれど、朱音は俺の予想に反した言葉を口にした。
「そう……」
え――?
朱音は腹を両手で抱え、俯いた。
「朱音……?」
全身から血の気が引く。
「紫苑……」
『安定期には入っていないから、無理は出来ない』
結城さんの言葉がよみがえる。
「具合が悪いのか?」
朱音は首を振る。
「じゃあ――」
「――紫苑。私、この子を産んでもいい?」
「え?」
真っ直ぐ俺の目を見る朱音の目に涙はなかった。
「私、この子を産みたい」
『私、東京に行く』
五年前、就職活動を始めた朱音が俺に東京行きを告げた時の表情と重なった。
真剣な、強い決意に満ちた朱音の目に、俺は何も言えなくなった。
もともと、朱音は自立心の強い女で、男に依存して生きる女ではない。俺は朱音の強さにどうしようもなく惹かれ、憧れた。
ああ――。
俺の好きな朱音だ――――。
「ありがとう……」
俺は優しく、きつく、朱音を抱き締めた。
「彼を愛してる……のか……?」
なけなしの虚栄心で、冷静さを保った。
「ち……がう……」
『そうだ』と言われたら、きっと発狂していた。
「じゃあ……どうして……?」
「彼と……デキたら……忘れられると思った」
そう……か……。
俺と同じだったんだ――。
やっと、朱音の気持ちが理解できた。
朱音は仁也に抱かれることで、彼の不能を治すことで、自分の罪を償えると思っていたんじゃないだろうか。
朱音はずっと、父親のように慕っていた男を憎んでいたと思う。自分の信頼を裏切り、母親に捨てられる原因となった事件の要因。けれど、長年憎んできた男は、実の母親よりも自分を慈しんでくれる唯一の人間だった。きっと、行き場のない罪悪感や喪失感に、朱音は苦しんだはずだ。そして、今は亡き彼への罪が、仁也を救うことで赦されると思い込んだのではないだろうか。
俺が母さんを殺した罪を許されたくて、朱音の笑顔を求めたように。
朱音は自分の罪から解放されたのだろうか……?
「彼がデキなかったのは、朱音のせいじゃないだろう?」
「わかってる……。だけど……」
「君は汚れてなんかいない」
「え……?」
「後藤田……さんから伝言」
再び、朱音の瞳に涙が溢れる。
俺は一生……あの人には敵わないかもしれない。
それでも、俺は朱音を放せない――。
このまま、朱音を連れて帰れば、それで全てが終わる。いつか忘れられる。過去に出来る。
わかっている。
それでも、彼に対する敗北感と、尊敬の入り混じった複雑な感情が、口を閉ざすことを許さなかった。
「朱音、後藤田さんは……『朱音をレイプしようとした』って言ったよ」
「え――」
「悪いのは全部自分で、朱音は何も悪くない、被害者だって」
こんな事を言えば、朱音が仁也を庇うのはわかっていた。
仁也さんは悪くない、と言うのだろう。
けれど、彼の朱音への愛情や誠意を黙ったまま朱音を取り戻すのは、フェアじゃない。くだらない正義感を後悔することになっても、黙っていては胸を張って朱音を取り戻せないと思った。
けれど、朱音は俺の予想に反した言葉を口にした。
「そう……」
え――?
朱音は腹を両手で抱え、俯いた。
「朱音……?」
全身から血の気が引く。
「紫苑……」
『安定期には入っていないから、無理は出来ない』
結城さんの言葉がよみがえる。
「具合が悪いのか?」
朱音は首を振る。
「じゃあ――」
「――紫苑。私、この子を産んでもいい?」
「え?」
真っ直ぐ俺の目を見る朱音の目に涙はなかった。
「私、この子を産みたい」
『私、東京に行く』
五年前、就職活動を始めた朱音が俺に東京行きを告げた時の表情と重なった。
真剣な、強い決意に満ちた朱音の目に、俺は何も言えなくなった。
もともと、朱音は自立心の強い女で、男に依存して生きる女ではない。俺は朱音の強さにどうしようもなく惹かれ、憧れた。
ああ――。
俺の好きな朱音だ――――。
「ありがとう……」
俺は優しく、きつく、朱音を抱き締めた。
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