ねぇ、笑って……?
8.彼女の闇-6
「いえ、違います。ここは多分……兄の家です」
「多分?」と、名達が聞く。
「兄?」と、俺が聞いた。
「あなたたちは……?」
男は聞いた。
「俺たちは――」
名達が言いかけた時、家の中から言い争う声が聞こえてきて、俺には叫び声じゃないかと思った。
「朱音!」
焦って玄関ドアに手を掛けると、名達に腕を掴まれ、落ち着くように囁かれた。
「朱音って……葉山朱音さん?」
背後からの、少し高めの声に、俺たちは振り返る。
「え……?」
「知ってるの?」
「はい。兄の元カノです」
つまり、この男は後藤田仁也の弟。
「君はどうしてここへ?」と、名達が聞いた。
「兄を探していた母が……ここへ……」
俺は痺れを切らして玄関ドアを引いた。鍵はかかっていない。俺に続いて、名達と後藤田仁也の弟も入って来た。
「知った口をきかないで! 聖也のことは私が誰よりもよくわかってるわ!」
リビングらしい部屋から甲高い女の声が聞こえてきた。
「母さん……」
後藤田仁也の弟が呟いた。
この子が『聖也』か。
後藤田不動産について調べて、仁也に年の離れた異母弟がいることは知っていた。
「母親だから……?」
朱音の声――!
「だったら、仁也さんは?」
名達も気がついたようで、俺を見て小さく頷いた。
俺はリビングの会話が良く聞こえるように、ゆっくりと慎重にドアノブを押した。ドアは軽く、少しだけ隙間を作った。
「何が……言いたいのよ……」
この女が社長夫人か。
声だけ聞けば若く、二十代の息子がいるようには思えない。
「役立たずの彼氏から何を聞いたか知らないけど、聖也は私と主人の子よ。あんたの彼氏は関係ない!」
「だったら、この鑑定書は?」
低く、威圧的なイントネーション。
後藤田仁也か――!
「そんなもの、どうにでも――」
「――だったら本人を連れてラボに行くか? 目の前で唾液でも毛髪でも採取すれば納得か?」
「そんなことさせないわ!」
一体、何の話をしている?
「会社から手を引け」
「嫌よ……」
「遺産を持って、男とどこにでも行け」
「嫌よ!」
女の金切り声が家中に響く。
「聖也が会社を継ぎたいのなら、正当な手順で継がせる。だが、あんたは関わらせない」
「その言葉を信用しろと? 冗談じゃないわ。私は聖也のそばを離れないわよ」
「そうやってあんたの異常な執着に聖也が苦しんでることが、どうしてわからない!」
バンッとテーブルか何かを叩く音がした。
「あんた狂ってるよ! 二十も上の男と結婚して、後継者欲しさに――」
「――狂ってるのはあんたじゃない? そんな妄想、誰が信じるのよ!」
「妄想だと……?」
「鑑定書が何よ! 今となっては真実なんて誰にも分らないわ」
不安に駆られてか、聖也君が身を乗り出してリビングの中を覗こうとした。
「だったら、聖也にこれを見せてもいいな」と、仁也。
「ちょ――」
俺は聖也君を止めようとして、軽くドアに触れてしまった。ドアが微かに揺れる。
「どうぞ? 母親がレイプされて生まれた子だと知ったら、聖也はさぞ悲しむでしょうね!!」
パンッ――!
見なくても、仁也が女を叩いたのだとわかった。
聖也君は青ざめた顔をしている。
「何がレイプだ!」
「三十を過ぎたあんたが二十年前のことを何と言おうと、誰が信じるのよ!」
「レイプはどっちよ。仁也さんは中学生だったのよ。どんなにスキャンダラスでも、あなたは刑事罰の対象になる」
レイプ……?
何の話を――。
「しゃぶられて感じてたじゃない」
「薬を盛っておきながら――」
「――そんな証拠はないわ!」
「多分?」と、名達が聞く。
「兄?」と、俺が聞いた。
「あなたたちは……?」
男は聞いた。
「俺たちは――」
名達が言いかけた時、家の中から言い争う声が聞こえてきて、俺には叫び声じゃないかと思った。
「朱音!」
焦って玄関ドアに手を掛けると、名達に腕を掴まれ、落ち着くように囁かれた。
「朱音って……葉山朱音さん?」
背後からの、少し高めの声に、俺たちは振り返る。
「え……?」
「知ってるの?」
「はい。兄の元カノです」
つまり、この男は後藤田仁也の弟。
「君はどうしてここへ?」と、名達が聞いた。
「兄を探していた母が……ここへ……」
俺は痺れを切らして玄関ドアを引いた。鍵はかかっていない。俺に続いて、名達と後藤田仁也の弟も入って来た。
「知った口をきかないで! 聖也のことは私が誰よりもよくわかってるわ!」
リビングらしい部屋から甲高い女の声が聞こえてきた。
「母さん……」
後藤田仁也の弟が呟いた。
この子が『聖也』か。
後藤田不動産について調べて、仁也に年の離れた異母弟がいることは知っていた。
「母親だから……?」
朱音の声――!
「だったら、仁也さんは?」
名達も気がついたようで、俺を見て小さく頷いた。
俺はリビングの会話が良く聞こえるように、ゆっくりと慎重にドアノブを押した。ドアは軽く、少しだけ隙間を作った。
「何が……言いたいのよ……」
この女が社長夫人か。
声だけ聞けば若く、二十代の息子がいるようには思えない。
「役立たずの彼氏から何を聞いたか知らないけど、聖也は私と主人の子よ。あんたの彼氏は関係ない!」
「だったら、この鑑定書は?」
低く、威圧的なイントネーション。
後藤田仁也か――!
「そんなもの、どうにでも――」
「――だったら本人を連れてラボに行くか? 目の前で唾液でも毛髪でも採取すれば納得か?」
「そんなことさせないわ!」
一体、何の話をしている?
「会社から手を引け」
「嫌よ……」
「遺産を持って、男とどこにでも行け」
「嫌よ!」
女の金切り声が家中に響く。
「聖也が会社を継ぎたいのなら、正当な手順で継がせる。だが、あんたは関わらせない」
「その言葉を信用しろと? 冗談じゃないわ。私は聖也のそばを離れないわよ」
「そうやってあんたの異常な執着に聖也が苦しんでることが、どうしてわからない!」
バンッとテーブルか何かを叩く音がした。
「あんた狂ってるよ! 二十も上の男と結婚して、後継者欲しさに――」
「――狂ってるのはあんたじゃない? そんな妄想、誰が信じるのよ!」
「妄想だと……?」
「鑑定書が何よ! 今となっては真実なんて誰にも分らないわ」
不安に駆られてか、聖也君が身を乗り出してリビングの中を覗こうとした。
「だったら、聖也にこれを見せてもいいな」と、仁也。
「ちょ――」
俺は聖也君を止めようとして、軽くドアに触れてしまった。ドアが微かに揺れる。
「どうぞ? 母親がレイプされて生まれた子だと知ったら、聖也はさぞ悲しむでしょうね!!」
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