ねぇ、笑って……?

深冬 芽以

8.彼女の闇-4

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 父さんから連絡が来るまでの二日が、俺には二週間にも二十日にも感じた。家で朱音の帰りを待ち続ける気力がなくて、仕事に出た。マンションの管理人に、朱音が帰ったら電話してほしいと頼んで。管理人は、喧嘩して朱音が出て行ったのだと思ったらしい。
 朱音がいなくなって三日目の夜、ちょうどマンションのリビングの電気を点けた時に、スマホが震えた。ポケットから出してやると、スマホは父さんの名前を表示させながら必死でもがいていた。
「もしもし!」
『朱音さんの居場所の目星がついた』
 挨拶もなく、父さんが言った。
「どこ?」
『住所はメールで送る』
「わかった」
『紫苑。後藤田不動産は今お家騒動の渦中にある。社長が倒れて、夫人と専務である仁也のどちらが次期社長になるかでもめているらしい。仁也について少し探ってみたが、悪い噂は一つもない。容姿端麗、品行方正、頭脳明晰……と、まぁ完璧と言えるほどの評判だ。お前には手に負えないかもしれないぞ』
 電話の向こうで、靴のかかとが床を蹴る音がした。
「そんな人間、むしろ胡散臭いだろ」
『確かにな。それから、あの盗聴器はGPSの発信機でもあった。いつからかはわからないが、朱音さんはずっと監視されていたようだな』
「そうか……」
 靴音が止まった。
『とにかく気をつけろ。すぐに地元警察を動かせるようにしておくから、何かあったら連絡しろ』
「わかった」
 電話を切るとすぐに、ショートメールが送られてきた。
 俺は住所を見て、すぐにそこへ行く手段をネットで検索した。

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