ねぇ、笑って……?
8.彼女の闇-1
使い物にならない俺の代わりに、名達が影井に電話をして事情を話してくれた。影井はすぐに姉さんに連絡を取ってくれて、名達の電話から三十分後には、影井もマンションにいた。
朱音の元カレ・後藤田仁也は昨日から十日ほど休暇を取っていた。
「決まりだな……」と、名達が言った。
朱音は後藤田と一緒にいる――。
怒りで思考が研ぎ澄まされ、焦りで身体が震える。
朱音の中には俺の子供がいる。
「二人が一緒にいるとして――」と、影井が真剣な面持ちで言った。
「――どうやって探すんだ?」
「この状況じゃ警察を動かすのは無理だろうな」と、名達が言う。
二人の会話を聞きながら、俺は違うことを考えていた。
朱音を探す方法を、俺は知っている。
けれど……。
「杏菜?」
名達の声に視線を上げると、結城さんはテレビの前で蹲っていた。
「どうした……?」
名達が結城さんの顔を覗き込む。
「これ……!」
「ほつれてたから……直そうと……」
結城さんが力なく呟いた。
「テレビで見たことある……けど、違うよね……?」
影井が名達の横から覗き込む。
「何だ? これ……」
「多分……盗聴器だ」
そう言うと、名達がスマホを操作しだした。
「盗聴……器……?」
俺も結城さんの手の中を覗いた。
パンダのキーホルダーと黒くて四角い箱。パンダの顔の後ろから綿がはみ出していた。
「杏菜、それ貸して」
名達は奪い取るように結城さんから黒い箱を受け取って、顔を近づけてまじまじと見た。そして、またスマホを操作する。
「やっぱりだ」と言うと、名達はスマホの画面を俺たちに見せた。
そこには、目の前の黒い箱と同じものが表示されていた。画面の上には『小型盗聴器』と書かれている。
「半径十メートル以内なら受信できるらしい。録音タイプではないから、マンションから十メートル以内のどこかでこの部屋の様子を盗み聞いていたんだな」
「そんな……」と、結城さんが声を震わせて言った。
「朱音さん……このキーホルダーはいつも持ち歩いてるって言ってました!」
「後藤田って奴……イカれてる!」
後藤田は、俺と朱音が結婚しようとしていたことを知っていた――?
俺はゴクッと音を立てて唾を飲みこんだ。
早く、朱音を探さないと――。
俺は震える指でスマホのアドレス帳をスクロールした。
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