ねぇ、笑って……?
3.彼女の過去-6
「私……」
朱音の声はか細く震え、瞳は涙で濡れていた。
「私も……紫苑と一緒にいたい……けど……」
俺は朱音を抱き締めた。
「けど……?」
本当はその先の言葉なんて聞きたくない。
朱音が俺を求めてくれている事実だけで良かった。
けれど、なぜか朱音の気持ちの全てを聞かなきゃいけない気がした。
今は、朱音の言葉全て、聞き漏らしてはいけないと思う。
朱音は細い腕で、俺のシャツを掴んだ。
「紫苑に……傷ついてほしくない……」
「どういう……意味?」
また、だ——。
朱音『らしくない』言い方。
『傷つけたくない』じゃなくて『傷ついてほしくない』と言った。
「朱音……?」
「わたし……は……汚い……から……」
俺は朱音の顔を覗き込んだ。
「汚い? どこが?」
「他の男に抱かれた……から……」
言いながら俺を見上げた彼女の瞳は、少し虚ろ。
他の男に抱かれたから汚い?
他、って元カレ以外……ってことか?
意味が分からなかった。
ただ一つ確かなのは、それは朱音の言葉ではないということ。
「朱音、それ誰に言われたの?」
「え……?」
「他の男って誰? 浮気でもしたの?」
「ちがっ……」
朱音は自分の言葉に戸惑っているようだった。
「勘違い……かもしれないけど……」と言いながら、俺はシャツの袖で朱音の涙を拭った。
「四年前に俺と別れてから、朱音は誰ともセックスしてないんじゃない?」
朱音は本当に驚いた表情をした。
「どう……して……」
「いや……、ホントに何となく……そう思って……。当たり?」
朱音は恥ずかしそうに手で口を覆って、小さく頷いた。
じゃあ、『他の男』って——。
「朱音、もしかして元カレに『処女じゃないから汚い』とか言われた?」
朱音の動揺振りを見たら、言葉は必要なかった。
つまり、朱音は一年以上も付き合っていた男に、処女でないことを理由に拒絶されていたのだ。そして、自分以外の人間が彼女に近づかないように、束縛した。支配に近いかもしれない。朱音が『逃げなければ』と思うほどだったのだから。
「朱音、俺に抱かれるの嫌だった?」
朱音はうつむいたままで首を振った。
「セックスは……汚い?」
もう一度、彼女は首を振る。
「俺も思わないよ。好きな人に触れて、好きな人の体温を感じて、好きな人と繋がるの……最高に気持ちよくて幸せだと思う。それに——」
俺は両手で朱音の頬に触れると、グイッと引っ張った。
「――『汚い』なんて、俺はばい菌じゃねーっつーの!」
朱音はキョトンとした顔で俺を見ていた。
「ばい菌……って」
朱音の目尻が下がって、口角が上がった。頬が少し膨らむ。
「ふふ……」
笑……った——。
再会してから、朱音が笑っているように感じたことはあっても、『笑顔』を見ることは叶わなかった。
それが、今、目の前に朱音の『笑顔』がある。
夢にまで見た、朱音の笑顔。
四年振りに見た、朱音の笑顔。
ほんの数秒のことが、涙が出るほど嬉しかった。
「紫苑……? どうして……泣いてるの……?」
「朱音……笑って……?」
「え……?」
「笑って……俺を許して」
もう、俺を許せるのはきみだけだから――。
朱音の声はか細く震え、瞳は涙で濡れていた。
「私も……紫苑と一緒にいたい……けど……」
俺は朱音を抱き締めた。
「けど……?」
本当はその先の言葉なんて聞きたくない。
朱音が俺を求めてくれている事実だけで良かった。
けれど、なぜか朱音の気持ちの全てを聞かなきゃいけない気がした。
今は、朱音の言葉全て、聞き漏らしてはいけないと思う。
朱音は細い腕で、俺のシャツを掴んだ。
「紫苑に……傷ついてほしくない……」
「どういう……意味?」
また、だ——。
朱音『らしくない』言い方。
『傷つけたくない』じゃなくて『傷ついてほしくない』と言った。
「朱音……?」
「わたし……は……汚い……から……」
俺は朱音の顔を覗き込んだ。
「汚い? どこが?」
「他の男に抱かれた……から……」
言いながら俺を見上げた彼女の瞳は、少し虚ろ。
他の男に抱かれたから汚い?
他、って元カレ以外……ってことか?
意味が分からなかった。
ただ一つ確かなのは、それは朱音の言葉ではないということ。
「朱音、それ誰に言われたの?」
「え……?」
「他の男って誰? 浮気でもしたの?」
「ちがっ……」
朱音は自分の言葉に戸惑っているようだった。
「勘違い……かもしれないけど……」と言いながら、俺はシャツの袖で朱音の涙を拭った。
「四年前に俺と別れてから、朱音は誰ともセックスしてないんじゃない?」
朱音は本当に驚いた表情をした。
「どう……して……」
「いや……、ホントに何となく……そう思って……。当たり?」
朱音は恥ずかしそうに手で口を覆って、小さく頷いた。
じゃあ、『他の男』って——。
「朱音、もしかして元カレに『処女じゃないから汚い』とか言われた?」
朱音の動揺振りを見たら、言葉は必要なかった。
つまり、朱音は一年以上も付き合っていた男に、処女でないことを理由に拒絶されていたのだ。そして、自分以外の人間が彼女に近づかないように、束縛した。支配に近いかもしれない。朱音が『逃げなければ』と思うほどだったのだから。
「朱音、俺に抱かれるの嫌だった?」
朱音はうつむいたままで首を振った。
「セックスは……汚い?」
もう一度、彼女は首を振る。
「俺も思わないよ。好きな人に触れて、好きな人の体温を感じて、好きな人と繋がるの……最高に気持ちよくて幸せだと思う。それに——」
俺は両手で朱音の頬に触れると、グイッと引っ張った。
「――『汚い』なんて、俺はばい菌じゃねーっつーの!」
朱音はキョトンとした顔で俺を見ていた。
「ばい菌……って」
朱音の目尻が下がって、口角が上がった。頬が少し膨らむ。
「ふふ……」
笑……った——。
再会してから、朱音が笑っているように感じたことはあっても、『笑顔』を見ることは叶わなかった。
それが、今、目の前に朱音の『笑顔』がある。
夢にまで見た、朱音の笑顔。
四年振りに見た、朱音の笑顔。
ほんの数秒のことが、涙が出るほど嬉しかった。
「紫苑……? どうして……泣いてるの……?」
「朱音……笑って……?」
「え……?」
「笑って……俺を許して」
もう、俺を許せるのはきみだけだから――。
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