ねぇ、笑って……?
1.再会-2
*****
今日は、いつもと違うことが多かった。
それは、きっと、予兆だったのだと思った。
だって、そうじゃなきゃ、こんな偶然なんかない。
「幕田、どうした?」
先に来ていた合コン相手の顔を見るなりフリーズした俺に、名達が言った。
せん……ぱ——。
幻覚かと思った。
先輩に会いたい気持ちが強すぎて、ついに幻を見るようになったのかと思った。そうなっても不思議じゃないくらい、先輩のことを考えていたから。
けれど、幻でも他人の空似でもなかった。
俺の記憶よりも髪が長くて、俺の記憶よりも痩せて、俺の記憶よりも綺麗になっていたけど、間違いなく先輩だ。
その証拠に、彼女は俺と目が合うなり顔を伏せた。
先輩だ……。
俺は他の誰にも目をくれず、先輩の向かいに座った。
そして、乾杯の前に自己紹介。
「葉山朱音……です……」
本物の先輩だ——!
先輩が小さな声で名乗った。
その声は記憶のままで、高くてよく通る可愛い声。
ずっと聞きたかった先輩の声。想像するだけで身体が疼くほど、好きな声。
人懐っこくて笑顔が絶えなかった、俺の記憶の中の先輩とは雰囲気が違っていたけれど、間違いなく、俺が会いたかった先輩。
昔は好んでニットやパーカーを着ていることが多かったが、目の前の彼女は触ったらきっとさらさらと手触りが柔らかそうな生地の、真っ白なブラウスを着ている。
かく言う俺だって、昔はTシャツかトレーナーにジーンズというラフな格好ばかりだったが、今では一端にスーツを着ている。
当の先輩は、テーブルの端で壁を見つめていた。他の四人の女性とはあまり親しくないのか、誰も先輩と言葉を交わさない。
「幕田さんはどんなお仕事をされてるんですか?」
先輩の隣の女性が言った。
『紫苑、毎日パソコンと——』
先輩の言葉がよみがえった。
「システム開発部なので、毎日パソコンと睨めっこしてます」
先輩が、一瞬驚いた顔で俺を見た。
先輩も……憶えてた——。
俺は先輩と付き合っていた頃から、暇さえあればネットサーフィンをしていた。パソコンやスマホは必要最低限しか活用しない彼女は、いつも不思議そうに俺を見てた。
『紫苑、毎日パソコンと睨めっこして楽しい?』
そう言って、先輩は時々後ろから顔を覗かせた。
『楽しいよ』
俺がそう答えると、ちょっといじけた顔で『私はつまんない……』と言って、俺の首に腕を回した。
「葉山さんはどんなお仕事をされてるんですか?」
俺は、俺に声をかけた女性ではなく、先輩に聞いた。
「え……。私は……」
「私たちはみんな服飾部門なんですけど、葉山さんは総務部なんですよー。急に一人足りなくなっちゃって、葉山さんに無理言ってお願いしたんです」
先輩が口を開く前に、隣の女性が言った。
「ちなみに、私たちは皆さんと同じ年なんですけど、葉山さんだけ二才年上なんですぅ」
そういうことか……。
人数が足りなくなって、自分たちの引き立て役に先輩を引き込んだのだろう。
それ自体はよくある話だ。きっと、先輩もわかって参加してる。
けれど、俺は彼女を見下したように笑う女たちにムカついた。
「へぇ……」
俺は爪が白くなるほど強くグラスを握る先輩の手に触れた。
「俺、年上好きなんですけど……、葉山さんは年下ダメですか?」
俺は大学入学直後の学部別コンパで、初めて先輩に告白した時と同じ台詞を言った。
ようやく、彼女が真っ直ぐ俺を見た。
ヤバい。
今すぐキスしたい——。
今日は、いつもと違うことが多かった。
それは、きっと、予兆だったのだと思った。
だって、そうじゃなきゃ、こんな偶然なんかない。
「幕田、どうした?」
先に来ていた合コン相手の顔を見るなりフリーズした俺に、名達が言った。
せん……ぱ——。
幻覚かと思った。
先輩に会いたい気持ちが強すぎて、ついに幻を見るようになったのかと思った。そうなっても不思議じゃないくらい、先輩のことを考えていたから。
けれど、幻でも他人の空似でもなかった。
俺の記憶よりも髪が長くて、俺の記憶よりも痩せて、俺の記憶よりも綺麗になっていたけど、間違いなく先輩だ。
その証拠に、彼女は俺と目が合うなり顔を伏せた。
先輩だ……。
俺は他の誰にも目をくれず、先輩の向かいに座った。
そして、乾杯の前に自己紹介。
「葉山朱音……です……」
本物の先輩だ——!
先輩が小さな声で名乗った。
その声は記憶のままで、高くてよく通る可愛い声。
ずっと聞きたかった先輩の声。想像するだけで身体が疼くほど、好きな声。
人懐っこくて笑顔が絶えなかった、俺の記憶の中の先輩とは雰囲気が違っていたけれど、間違いなく、俺が会いたかった先輩。
昔は好んでニットやパーカーを着ていることが多かったが、目の前の彼女は触ったらきっとさらさらと手触りが柔らかそうな生地の、真っ白なブラウスを着ている。
かく言う俺だって、昔はTシャツかトレーナーにジーンズというラフな格好ばかりだったが、今では一端にスーツを着ている。
当の先輩は、テーブルの端で壁を見つめていた。他の四人の女性とはあまり親しくないのか、誰も先輩と言葉を交わさない。
「幕田さんはどんなお仕事をされてるんですか?」
先輩の隣の女性が言った。
『紫苑、毎日パソコンと——』
先輩の言葉がよみがえった。
「システム開発部なので、毎日パソコンと睨めっこしてます」
先輩が、一瞬驚いた顔で俺を見た。
先輩も……憶えてた——。
俺は先輩と付き合っていた頃から、暇さえあればネットサーフィンをしていた。パソコンやスマホは必要最低限しか活用しない彼女は、いつも不思議そうに俺を見てた。
『紫苑、毎日パソコンと睨めっこして楽しい?』
そう言って、先輩は時々後ろから顔を覗かせた。
『楽しいよ』
俺がそう答えると、ちょっといじけた顔で『私はつまんない……』と言って、俺の首に腕を回した。
「葉山さんはどんなお仕事をされてるんですか?」
俺は、俺に声をかけた女性ではなく、先輩に聞いた。
「え……。私は……」
「私たちはみんな服飾部門なんですけど、葉山さんは総務部なんですよー。急に一人足りなくなっちゃって、葉山さんに無理言ってお願いしたんです」
先輩が口を開く前に、隣の女性が言った。
「ちなみに、私たちは皆さんと同じ年なんですけど、葉山さんだけ二才年上なんですぅ」
そういうことか……。
人数が足りなくなって、自分たちの引き立て役に先輩を引き込んだのだろう。
それ自体はよくある話だ。きっと、先輩もわかって参加してる。
けれど、俺は彼女を見下したように笑う女たちにムカついた。
「へぇ……」
俺は爪が白くなるほど強くグラスを握る先輩の手に触れた。
「俺、年上好きなんですけど……、葉山さんは年下ダメですか?」
俺は大学入学直後の学部別コンパで、初めて先輩に告白した時と同じ台詞を言った。
ようやく、彼女が真っ直ぐ俺を見た。
ヤバい。
今すぐキスしたい——。
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