子供に懐かれたら家政婦になりました。あれ?雇用主の様子がおかしいようです

ナナシ

88.セドナ様

「キャッ!」


馬が地面の障害物を避ける為に少し跳ねる。


その衝撃にルーカスさんにしがみついた…


「大丈夫か?」


ルーカスさんは片腕で馬の綱を持ち、反対の腕はしっかりと私を掴まえていた。


「だ、大丈夫です。少し驚いただけで…」


でも動く振動にルーカスさんを抱きしめる力が思わず強くなる。


「そのまましっかりと掴まってればいい」


ルーカスさんはちらっと視線を下にして私を見るとニコッと安心させるように笑ってくれた。


「はい…」


なんだかいつもより頼りになるルーカスさんを馬の衝撃を理由にギュッと抱きしめた。




馬の速度が遅くなって来ると衝撃も落ち着いて来た。


慌ててルーカスさんから離れようとするが…


あれ?


なんか力が強くて離れられない…


「あの…ルーカスさんそろそろ離れた方が…」


押し付けられた胸元からそっと顔を上げて上を向く。


するとルーカスさんがこちらを見ていた。


「もう少しだけ…いいか?騎士団に着くまで…」


「は、はい」


「ありがとう」


ルーカスさんの愛おしげに見つめる瞳に嫌とは言えなくなってしまった。


馬をしまう為に騎士団の裏手に回る、その前の門番の前でルーカスさんがそっと力を緩めた。


私は温もりが名残惜しくておずおずと離れると…


「あっ!ルーカスさんお疲れ様です!前の方は…奥様ですね。仲が良くて羨ましいです」


門番の人は微笑ましげに私達を見つめた。


「まぁな…君も早くいい相手が見つかるといいな」


ルーカスさんは何故か得意げに挨拶をする…私は恥ずかしくてペコッと頭を下げてその場を通して貰った。


「待っててくれ」


厩舎前に来るとルーカスさんが私に綱を預けてサッと馬から降りる。


そして両手を広げた。


「おいで、リナ」


なんだかニコニコと笑いながら私に馬から飛び降りろと言ってくる。


「え?む、無理です!何か…台かなんかあれば…」


キョロキョロと周りを見回すと…


「リナは俺の事が信用出来ないと?」


ニコニコとした笑顔が寂しそうな捨てられた子犬のようになってしまった。


「い、いえそういう訳では…だって、恥ずかしいし…」


絶対に降りる時に怖くて抱きついてしまう自信があった。


「問題ない、ほらここにいるのは馬だけだ。それに少女達が待ってる急がないと」


そうだった!私は騎士様達の手伝いに来てるのに、ルーカスさんの手を煩わせる訳には…


覚悟を決めて手を伸ばすとルーカスさんが嬉しそうに両手を掴んだ…


そしてあっという間に引っ張られてすっぽりと抱えられていた。


「ほら、怖くないだろ?」


微笑むルーカスさんの顔を目の前に…私は下を向いて頷いた。


「おっほん…」


すると建物の方から咳払いがする、見ればセドナ副団長がこちらを気まずそうに見ていた。


「楽しそうなところ悪いが…リナちゃんが来てくれたという事はあの件を了承してくれたのかな?」


「セドナ副隊長様!」


私は慌ててルーカスさんから下ろして貰うとセドナ副隊長の元に駆け寄る。


後ろからはルーカスさんの残念そうな声がしたが今は聞こえないフリをする。


「リナちゃん、私の事はセドナでいいよ。ここでは唯一の女同士仲良くしよう」


セドナ副隊長がさわやかに微笑んだ。


セドナ副隊長は長い真っ赤な髪をキュッと一本に縛りキリッとした美しい女性だ。


騎士団の服を来ていると宝塚の男役のようなかっこよさがある。


そんなセドナ副隊長に微笑まれて私は頬を染めずにはいられなかった。

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