子供に懐かれたら家政婦になりました。あれ?雇用主の様子がおかしいようです

ナナシ

73.思い出

ルーカスさんはイアンさんと今後の話がまだあると言うので、私はアリスちゃんを連れて少し屋敷の中を見て歩く事になった。


「アリスちゃん、案内してくれる?」


アリスちゃんはコクリと頷いて歩き出した。


この屋敷に来てから言葉を発していない事が少し気がかりだった。


メイドさんに案内されながらふかふかの長い絨毯の廊下を歩いていくと中央の階段の前にルーカスさんの家で見た写真に写る二人の肖像画が飾られていた。


アリスちゃんに似ているその二人は優しそうな笑顔で寄り添い微笑んでいた。


アリスちゃんはそれを見るなり回れ右をして廊下を駆け出した。


「アリスちゃん!」


「アリス様!?」


アリスちゃんは近くの部屋に飛び込んで行く!
私とメイドさんは慌てて後を追いかけると…


「この部屋は…」


メイドさんの顔が悲しみに染まった。


「すみませんがリナ様…私達メイドはこの部屋には入れません…どうかアリス様を連れてきて貰えますか?」


「私が入ってもいいのですか?」


「リナ様なら…よろしくお願い致します」


メイドさんが大丈夫だと頭を下げるので私は部屋へと入った。


「アリスちゃん?」


部屋に入ってアリスちゃんに声をかけると…


ガチャーン!


奥の部屋から何かが壊れる音がした。


私は音のする方に駆けつけると、そこにはアリスちゃんのご両親の写真の入った額がたくさん飾られていた。


アリスちゃんはそのひとつひとつを床に落としていたのだ。


「アリスちゃんどうしたの!?」


私は写真をアリスちゃんから取り上げると…


「うー、うー!」


アリスちゃんは何か言いたそうに歯を食いしばっていた。


「大丈夫、ゆっくり…ゆっくり話してごらん」


アリスちゃんをだき抱えると背中をゆっくりと優しく撫でる。


そしてその部屋に備え付けられた豪華なベッドの上にアリスちゃんを座らせた。


「アリスちゃん…息を吸って…吐いて…もう一度ゆっくり吸って…」


アリスちゃんの息を整えながら部屋の様子を窺う。


どうやらここは生前のアリスちゃんのご両親の部屋のようだった…


豪華な作りの部屋の家具たちは部屋の主が居なくなった時のままになっているようだった。


「アリスちゃん…なんで写真立てを壊したのかな?なんかいやだった?」


プルプルとアリスちゃんは首を横に振ると…ゆっくりと口を開いた。


アリスちゃんが喋り出すのをじっと待っていると…


「リナ…ここにすむ…よね?」


「え?ああ、アリスちゃんとルーカスさんがいいのなら」


「リナ…いてほしい。でもママがふたりはダメでしょ?」


ポロッとアリスの大きな瞳から涙がこぼれた。


「ま、まえに…きいた、あたらしいママくる…ならママとパパのかおがあったらダメって…だから…リナとルーカスくるならかくさないと…リナかえっちゃう?」


アリスちゃんが不安そうに私の腕を掴んだ。


「アリスちゃん…」


私はベッドに座るとアリスちゃんを抱きしめて膝に乗せた。


「アリスちゃんのママとパパの顔…アリスちゃんは見たくないの?」


ブンブン!


アリスちゃんは違うと首を振った。


「でも…リナたちいなくなるの…もういやだ…」


「なら大丈夫。私達はアリスちゃんのママとパパのお顔大好きだよ、だってアリスちゃんに似てるんだもん。ほら見てこの目元アリスちゃんにそっくり!この髪もこの瞳も…お二人が居なかったらアリスちゃんに会えなかった…そう思うと感謝しかないよ」


「リナ…アリスのママとパパ…すき?」


「うん!アリスちゃんと同じだよ。だから隠す必要なんて無いんだよ」


「いいの?」


「いいの!それよりもアリスちゃんにママとパパの事聞きたいな~どんなママだったの?」


「ママ…やさしくてきれいで…いいにおい。パパ…ちょっとおひげザラザラなの…」


「うんうん」


「ママ…パパ…うわぁ~ん!!」


アリスちゃんは我慢してた涙が溢れ出た、そしてわんわんと顔を埋めて泣き出す。


私はアリスちゃんを抱きしめて好きなだけ泣かせてあげることにした。





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