51.バーンズ侯爵

サフランはバーンズ侯爵の屋敷の前に馬車を停めさせると窺うように馬車から降りた。


「何か御用でしょうか？」


門にいた警備兵に声をかけられる。


「はい、私ロズワール伯爵の娘、サフランと申します。是非ともバーンズ侯爵様にお耳に入れたい情報がありまして…」


「侯爵は忙しい身です。後日改めて約束を取り付けてからお越しください」


丁重に断られる。


「では…ラッセル侯爵の娘の件で…とお伝えできますでしょうか？それでも駄目なら諦めますわ」


「……わかりました…少しお待ちください」


門番が屋敷の中に入るとサフランは自信満々に待っていた。


そして少しすると門番が戻り…


「どうぞ…」


門を開けてサフランを招き入れた。


サフランは鼻を鳴らして後をついて行った…






屋敷に入ると、分厚い扉の部屋へと通される。


「凄い扉ですね…これなら外に声など一切漏れないでしょうね…」


扉を触りながら中へと入ると…


「君がサフラン嬢かな？」


中にいた人に声をかけられ、サフランは慌てて膝を突いた。


「初めてお目にかかります、サフラン・ロズワールと申します。バーンズ侯爵にお会いできた事、大変感謝致します」


「おもてをあげよ、ロズワールね…聞いた事ないなぁ…」


そう言いながらジロっと舐めるような蛇のような目で見つめられる。


「わ、私…ルーカス様と親しくしていただいておりまして…そこで気になる子を見まして…これは是非ともバーンズ侯爵様に知らせた方がいいかと思いまして…」


「ルーカス…」


その名を聞いてバーンズ侯爵の顔にシワが寄った。


「あの忌々しい男か…」


何やらルーカス様の事を知っているようだった。


「ご存知でしたか？」


「まぁ遠い親戚みたいなものだ…」


「それでは本題のアリス様の事です」


アリスと聞いて眉がピクっと動いた。


「あの子は可哀想な子だ…」


悲しそうに顔を染めて呟いた。


「何があったかお聞きしても？」


私が伺うように上目遣いで見つめた。


「まぁいいだろう。あれの親が死んだのは知っているんだな」


「はい」


「私は親が居なくなった可哀想なアリスを引き取ってやろうとしたんだ！だがアリスが首を縦に振らずに…ルーカスなんかのところに…あんな若造のところでは幸せになれない！」


苦虫を噛み潰したように顔を歪める。


「はい、その可哀想なアリス様がある女に騙されているのです」


「どういう事だ？」


バーンズ侯爵が興味深そうに見つめてきた。


私は口が笑うのを必死に抑えると…


「ルーカス様の元にリナと言う庶民の女が居るのですが…それがアリス様とルーカス様をたぶらかしているのです！アレを使えばアリス様はバーンズ侯爵様の元に喜んで来ると思われますわ」


「あの可愛いアリスが…私のモノに？」


バーンズ侯爵は何を思ったのかにやりと笑った。


「もう少し詳しく話してみろ…」


「喜んで…」


私はにっこりと笑った。