50.サフラン

クソックソックソッ！！


こんなはずでは無いのに！


サフランは嫌がる従者達を引き連れて馬車を走らせていた！


伯爵家の令嬢として生まれ、一人っ子という事もあり大切に甘やかされて育てられてきた。


順風満帆に親の敷いたレールの上を我が物顔で歩いていたら小石につまずいた。


この私が…あの庶民のせいで！！


あの時に自分を睨みつけ見上げた顔が頭から離れない！


鞭で打って声も出さずに耐えた女は初めてだった。


あの女の何もかもが気に食わない！


庶民の癖に騎士のルーカス様に色目を使って…ルーカス様はあの女に絶対に騙されているんだ！


騎士団長も何か変な薬でも飲まされているのかも…


いつだって男は私に優しいのに…
あの女が現れてから全ておかしくなった。


一度も怒った事のないお父様にも怒られるし…しばらく部屋で大人しくしていろですって！


そんなんじゃ駄目だ！


私があの女の本性を暴いてやる。


馬車の中で一人憤怒していると…


「お嬢様…帰りましょう…こんな事よくありません。ロズワール様の言う通りに部屋にいらっしゃった方がよろしいかと思います」


ビクビクしながら口答えしてきた。


今まで意見なんてした事もなかったのに！？


キッ！と従者を睨みつける！


「うるさい！誰に口を利いてるの！？お前は私の言うことを聞いてればいいのよ！それ以上余計な事を言えばあんたも鞭で打つわよ！」


従者は震えるとそれっきり口を噤んだ。


ふん！最初っからそうしてればいいのよ！


「それで？私が言った事を調べてきた？」


もう一人のずっと黙っていた従者を睨みつける。


「……は、はい…ラッセル侯爵は事故で他界、その際に夫人のリデル様もお亡くなりになってます。娘が一人助かったようですが…その後の事はわかりませんでした…」


従者はビクビクしながらサフランお嬢様の様子を窺った。


「それがあの子供って訳ね…」


「聞いたところあの子供…アリス様は口が利けないそうです…」


「なにそれ、欠陥品みたいね」


従者は一瞬言葉を止めてこちらを見つめた。


「早く続きを」


「は、はい…憶測するにルーカス様の親族かと…どうも引き取ったようです」


「本来ならもっと引き取る人が居たんじゃないの…なんでルーカス様が…」


ルーカス様にお荷物が増えたようで気に食わなかった！


「ラッセル侯爵と夫人はご両親とももう既に他界されているようでした」


「そんなの知るわけないじゃない！」


私はイラつき親指の爪を噛みながら考える…


「他にあの子供を養子にしようとした親族はいなかったのかしら？」


従者が答えるのに渋っていると…私は鞭を掴んだ。


「言いなさい！」


バシッと床を叩きつけると


「バ、バーンズ侯爵様です！！ロナウド・バーンズ侯爵が養子の話を持ちかけていたのを聞いた者がいたと…バーンズ侯爵はラッセル侯爵の遠い親族に当たります」


その名前を聞いてニヤッと笑う。


「なるほどね～あのバーンズ侯爵ね…それはいいわ！今すぐバーンズ侯爵に会いに行くわよ」


私は御者に行き先を伝えた。