子供に懐かれたら家政婦になりました。あれ?雇用主の様子がおかしいようです

ナナシ

41.怪我の具合

ルーカスさんの足の速さのおかげですぐに騎士団の訓練所にたどり着くと医務室へと急いだ。


「あの…ルーカスさん先に団長様に挨拶をされた方がよろしいのでは…」


「大丈夫だ、団長には先程伝えてある。それよりもリナとアリスの体の方が優先だ」


ルーカスさんは一直線に医務室へと向かうと医務室の扉を勢いよく開いた。


「先生!アリスが!アリスが喋ったんです!」


「うわっ!」


先生が突然突入してきたルーカスさんに驚いて椅子から転げ落ちた。


「きゃあ!先生大丈夫ですか!?」


私は慌ててルーカスさんの上から先生を見下ろした。


下ろして貰い先生の様子を伺うと…


「痛たたた…」


先生は腰を押さえながら立ち上がった、そしてゆっくりとベッドに座る。


「先生…すみません。大丈夫でしょうか?」


「家政婦さんが謝る必要は無いよ…ルーカスさん、君はもう少し落ち着いた男だと思っていたが…」


先生がルーカスさんを睨みつけた。


「す、すみません先生、アリスとリナの事になるとつい…」


「それで…確かあの子が喋ったと?」


先生はゆっくりと起き上がると椅子に腰掛けた。


「そうなんですが、上手く言葉が出てこないようで…」


「ふむ…アリスちゃんだったね、こっちにおいで」


先生が手招きするとアリスちゃんは私の後ろにそっと隠れた。


「大丈夫だよ。先生は私の怪我も手当てしてくれた方だからね、怖くないよ」


アリスちゃんは私をみて頷くと手を取って先生の前に向かった。


私もアリスちゃんが不安にならないように手を握りしめてそばにいてあげる。


「どれ…あーんってできるかな?」


アリスちゃんは口を開けると…


「あー!って声を出してごらん。無理に出さなくていいぞ」


「あ…あ…」


少し声が出たがかすれている。


「久しぶりに声を出したからかすれているな、まだ喉が開いてないようだ。ゆっくりと毎日少しずつ声を出す練習をすればまたおしゃべりできるようになるはずだよ」


先生がアリスちゃんにニッコリと笑いかけた。


「良かったね、アリスちゃん!嬉しいな…アリスちゃんとおしゃべり出来るの楽しみ」


「!」


アリスちゃんは顔をあげて、私を見つめる。


「アリスちゃんも私やルーカスさんとおしゃべりしたくない?お話を一緒に読んだり、美味しいね~って話したり」


うん!


アリスちゃんは大きく頷いた。


「じゃあ毎日少しずつ声を出す練習しようね」


アリスちゃんはわかったと頷くと、それを見ていた先生が感心したように私たちを見ていた。


「前から思っとったが家政婦さんは子供の扱いが上手いなぁ~」


「そう言って貰えると嬉しいです。子供は素直ですからね。嘘なく向き合うようにしてます」


「そんなリナも素敵だが先生、今はリナの怪我を見てください!」


ルーカスさんが落ち着かない様子で先生を催促する。


「ルーカスさん、先生だって怪我をなさってるんだから無理させないようにしないと…私なら大丈夫ですから」


「いや、見るくらい大丈夫だ。ほら、ルーカスさんは外に出ていなさい」


「いや、もうその必要はない」


ルーカスさんはニッコリと笑って私を見た。


それは…一応婚約したからと言うことかな…


「でも…やっぱり恥ずかしいですから、ルーカスさんは外で待ってて貰えますか?」


私は苦笑してルーカスさんに頼むとなんだかショックを受けた様な顔で渋々部屋から出て行った。


ルーカスさんが出ていくと先生に傷の具合を見せる。


「どうだ?まだ痛むかな?」


「少し…でもだいぶ痛みは引きました。もう歩いたりは問題無いと思うのですが…」


「そうだな、軽く動くくらいなら大丈夫そうだな」


先生の言葉にほっとする。


これで毎回ルーカスさんに抱っこされなくて済む、あれは本気で恥ずかし…


思い出してまた頬が熱くなってきた。


「薬もちゃんと塗れた様だね、包帯もまぁまぁ上手く巻けてるが…誰がやったんだい?」


「そ、その…ルーカスさんに…」


私は恥ずかしくなって小さな声で答えると


「何!?あいつ…手は出されてないかい?なんかあれば言うんだよ」


「だ、大丈夫です!ルーカスさんは優しいですし、とっても紳士です。私の嫌がることは決してしませんから…それに私達この怪我の件で仮婚約をする事になりまして…」


先生には伝えた方がいいと思い団長様からの申し出の話をした。


「なるほど…だからあんなに浮かれていたのだな。まぁ真面目と優しさが取り柄の男だ、悪い物件では無いと思うが…ただ…」


先生が言葉を濁した。


「ただ?」


「君達の事となると見境無くなるところが玉に瑕のようだね」


先生のからかうような顔に私は顔を真っ赤にした。

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