子供に懐かれたら家政婦になりました。あれ?雇用主の様子がおかしいようです

ナナシ

29.笑顔

私達はルーカスさんに抱きかかえられてあっという間に家に帰ってきた。


ルーカスさんは私達の二倍ほどの速さで歩いているのに体にはその振動がほとんど伝わってこなかった…


一体どんな歩き方をしてるんだ?


驚きながら家につくとそっとルーカスさんはまっすぐ自分の部屋に向かいそのベッドに座らされた。


「ルーカスさん、私は自分の布団で大丈夫ですよ」


「駄目だ、床だと起き上がりも大変だし…それに今はリナさんが掃除してくれてるからベッドも綺麗だろ?」


「そんなのは気にしませんが…」


見れば確かに一度綺麗にしてからルーカスさんは丁寧にベッドを使っていてくれていた。


「怪我の間だけ寝る場所を交換しよう」


どうも頑なな感じのルーカスさんにふっと力が抜ける。


「わかりました…怪我の間ベッドをお借りしますね」


私はよろしくと頭を下げた。


その日の夕食は軽く用意をしてあったのでそれを温めて食べることになった。


私が手伝おうと立ち上がるとルーカスさんとアリスちゃんに止められてしまった。


「アリス!リナさんが動かないように見張っといてくれ!」


ルーカスさんの頼みにアリスちゃんがコクッと頷くと私のそばに立って腰に手を当てじっと見つめていた。


「アリスちゃ~ん、そんなところにいると疲れちゃうよ?ほら隣に座って!見てるだけならそばでもいいでしょ?」


私は座っていた隣をポンポンと叩いた。


アリスちゃんは伺うように近づくと…ポンッと隣に座った。


その様子にクスクスと笑いが込み上げるが…笑うと皮膚が動いて少し痛かった…


アリスちゃんにそれを見つからないように声をかける。


「ただ待ってるのも暇だから何か本でも読んでようか?何がいい?」


アリスちゃんに聞くと嬉しそうに飛び跳ねて自分のお気に入りの本を持ってきた。


料理を待っている間にアリスちゃんに本を読んであげることにした。


アリスちゃんは私の監視を忘れて楽しそうに絵本を見つめている。
今度紙芝居でも作ってあげようかな…


そんな事を思っていると


「すまない…少し焦げてしまった…」


ルーカスさんがすまなそうに眉を下げて料理を持って部屋にやってきた。


確かに少し焦げた匂いがする。


「温めすぎちゃいましたか?」


私が見ようと立ち上がろうとする。


「リナさん、今行くから動かないでくれ」


ルーカスさんがそばに慌てて来るので私は腰を下ろした。


「そんなに心配して頂かなくても大丈夫ですよ、ずっと休んでる訳には行かないんですから」


「いや、怪我が治るまでは仕事は休んでくれ」


「そんな事出来ませんよ」


「俺が仕事を休んで君の面倒をみるから…今は怪我を治すことに専念して欲しい」


「でも…」


「アリスもそれがいいよな?」


ルーカスさんがアリスちゃんをみると眉を下げてコクコクと頷く。


アリスちゃんのこの顔に弱い事にルーカスさんはよくわかっているようだ。


「では修道院に戻ってしばらくお休みさせていただきます。さすがにルーカスさんにお世話をしていただく訳にはいきませんから」


「そ、それは…せめてここにいてくれないか?アリスもいるし…」


「ん~、じゃあお給金は貰いませんよ。アリスちゃんを見る代わりにここに居させていただくと言うのでどうでしょうか?」


「それで構わない!」


ルーカスさんが子供のように顔を輝かせて頷いた。


「じゃあとりあえずご飯にしましょうか?きっとアリスちゃんがお腹空いてるよね?お昼食べれなかったから…」


アリスちゃんに目を向けると…


ぐぅ~


可愛い音がアリスちゃんのお腹から聞こえてきた。


「「あはは!」」


私とルーカスさんが一緒に笑い出す。


ぐうううぅ~!!


するとルーカスさんの方からも大きな音が…


「え!?」


私とアリスちゃんは驚くと


「すまん、俺もお腹が空いていた…アリスと同じだな」


恥ずかしそうに頬を赤らめた。


クスクス…


アリスちゃんは昼間の不安な顔は消えて楽しそうに笑っていた。



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