子供に懐かれたら家政婦になりました。あれ?雇用主の様子がおかしいようです

ナナシ

23.傷

「ルーカス様…令嬢の私ではなく、そんな庶民の女の言う事を信じるのですか!?」


「当たり前だ、それに失礼だがあなたは誰だ?初めて会ったと思うが…」


「なっ!なにを!騎士団の鍛錬中にいつも見学に来ておりました!何度か声もかけさせて頂きましたし…お父様から婚約の打診も…」


「すまないが覚えがない…人違いではないか?」


彼女はルーカス様の言葉に顔を真っ赤にしてワナワナと震えている。


「どこの誰だが知らないが、この事は上に報告させて貰う。名前を伺ってもいいかな?」


ルーカス様は彼女をジロっと睨みつけた。


「うっ…も、もういいです!あなた達行きますわよ!」


彼女はくるっと踵を返すとスタスタと逃げるように歩き出した。


そして近くに停めてあった馬車にそそくさと乗り込んだ。


「あの紋章は…ロズワール伯爵だな、娘なんていたか?」


ルーカスさんは居なくなる馬車をじっと睨みつけていた。


そして見えなくなると…


「あの…ルーカスさん…もう大丈夫です…」


ルーカスさんの抱きしめる力が強くてなんだかドキドキしてきたのでそっと声をかけた。


「あ!す、すまない!」


ルーカスさんは慌てて私達を腕からは離すがまだ心配そうにそばにいた。


「それよりも大丈夫か?何かされたのか?」


「いえ…大丈夫です。ルーカスさんが来てくれて助かりました」


叩かれた背中がまだヒリヒリとするが百回が一回になっただけマシだった。


これは百回受けたら…死んでたかもな…


少しゾッとする。


そして立ち上がろうとすると…


痛っ…


背中の傷が服に当たって激痛が走った。


顔が引き攣るが下を向いて耐える。


するとアリスちゃんがルーカスさんの手を掴むと


「ん!ん!ん!」


一生懸命何か言おうと私の背中を指さした。


「アリス…ちゃん大丈夫だよ」


にっこりと笑って見せるが変なあぶら汗が流れる。


「アリスどうした?」


ルーカスさんがアリスちゃんの指さす私の背中を見ると…


「リナ!背中から血が滲んでいるぞ!」


大変だとルーカスさんは慌てた様子で私を抱き上げた。


背中を触らないように子供の様に抱っこされた。


ええ!恥ずかしい!


「アリス!お前は走れるか!?」


アリスちゃんは頷くと走り出したルーカスさんのあとを一生懸命後ろから付いてくる。


「ルーカスさん…わたしも…走れます!」


「その背中何かされたんだろ!いいから黙って大人しく抱かれてろ!」


ルーカスさんに一喝されて私はシュンと黙り込んだ。


ルーカスさんは騎士団に設置されている医務室に私を文字通り担ぎこんだ。


「先生!彼女を診てください!」


「ん?この子は…あー噂の家政婦さんか、何かあったのかな?」


先生と呼ばれた年配の医者らしき人は白衣をまとい、長い髪を後ろに束ねていた。


眼鏡をクイッとあげると私をじっとみて微笑んだ。


ほっとする笑顔を向けられる。


「背中から血が!」


「!!」


ルーカスさんとアリスちゃんだけが慌ててあたふたとしている。


私はうろたえるアリスちゃんの手をギュッと握りしめた。


背中を見せながら座らされる。見えないがどうやら血が出て服に染みているらしい。


ルーカスさんはすぐ側で心配そうに先生と私を見つめていると…


「ルーカスさんはとりあえず外に出てようか?彼女の背中を見るなら服を脱がさないといけないからね」


「え…あっ!そ、それはすまない!」


ルーカスさんは脱ぐと聞いて顔を赤くして椅子や扉に体をぶつけながら外に飛び出していった。


「ふふ、冷静なルーカスさんがあんなに慌てるとは…」


先生はルーカスさんの様子に笑っている。


「では…家政婦さん服を破くけどいいかな?」


「はい…」


困るけど仕方ない…明日から何着よう。


変な事が心配になる。


チョキチョキと服を切る音が後ろからしてくる。


「これは…鞭の傷かな…暴行にあたるよ。誰にやられたのかな?」


先生の声が気持ち冷たくなった気がする。怒ってるのかもしれない。


「それは…貴族の方に不敬をはたらいてしまい、その罰ですから一回で済んだだけよかったです…あの、傷痕って…残りますか?」


ちょっと心配になって聞くと先生の唸る声が聞こえる。


「どうかな…元の通りとはいかないかもしれない、少しだけうっすらと残ってしまうかもしれないね…」


先生のせいではないのにすまなそうに言われる。


アリスちゃんがそばで不安そうに私の手を掴んで見上げていた。


「そうですか」


私は極力気にしてなさそうに答えた。

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