子供に懐かれたら家政婦になりました。あれ?雇用主の様子がおかしいようです

ナナシ

7.ルーカス

「アリスちゃんが無口?あなた何を言ってるんですか?」


アリスちゃんの事を何もわかっていないこの人に腹が立った!


「え?い、いや…俺の家に来てからほとんど喋らないから…」


男がそう言うのを聞いて私は決めた。


「アリスちゃん、お姉さんちょっとこの人とお話があるの、だからアリスちゃんそこの修道院で遊んで待っててくれる?アリスちゃんくらいの子が沢山いるからお友達になれるよ」


アリスちゃんに笑って説明する。


「あっ、いや別にいい。アリスがここに行きたいと手を引くから連れて来ただけだ。すぐに帰るつもりだから」


アリスちゃんの代わりに男が断りを入れる。


「あなたは黙って貰えます?」


私はにっこりと笑って黙れと目で睨みつけた。


男が怯んだすきにアリスちゃんを連れて修道院へと入る。


「シスター!ちょっとお客さんが来てて…私少し話があるのでこの子の面倒をお願い出来ますか?」


修道院から覗いていたのだろうシスターは笑って頷くとアリスちゃんに手を伸ばした。


「私は目が悪いの、よかったら私の手を引いてくれる?」


シスターの手を見つめるとアリスちゃんは恐る恐る手を伸ばしてその手を掴んだ。


さすがシスターだ!


私は安心してアリスちゃんを預けると再び外に出た、そこではあの人がでかい図体でオロオロと動きながら待っていた。


「お待たせしました。向こうにベンチがありますからそこでいいですか?」


「あ、ああ」


男の人は頷くのを確認して私は先に歩き出した。


修道院の裏手には子供達が遊べる広場がある、そこの端に気持ち程度のベンチが置いてあるのだ。


そこはシスターの席。


そこに座って遊ぶ子供達を見つめている、そのベンチを借りて私は男の人と話す事にした。


「ここにどうぞ」


ベンチを指し示すと男の人が端に座った。


私も少し離れて反対側の端に座ると…


「まずはもう一度自己紹介から…私は…」


「リナ…だったな」


呼び捨て…まぁいいけど、どう見てもこの人の方が年上だし。


私が頷くと


「俺は…ルーカスだ。護衛の仕事をしている」


護衛ね、確かにガタイがいいから強そうだ。髪は短髪で紺色、あまり笑わないが見た目は悪くない…というかかなりいい。


きっと女の人にモテるだろう、写真の…女性の方に少し目元が似てる気がする。


歳は少し上かな?三十まではいってないようにみえた。


「アリスちゃんのことですけど…彼女はあなたのお姉さんか妹さんの子供ですか?」


「な、何故それを!?アリスに聞いたのか?」


「いいえ、部屋を掃除していたら写真が出てきて…すみませんが勝手に見てしまいました。そこにアリスちゃんとご両親と思われる方が写ってました。裏を見て名前が書いてありましたから」


「ああ…あれは姉夫婦の写真だ」


お姉さんか…


「やはりもうこの世には?」


「そこまでわかるのか!?」


「アリスちゃんの様子からそうかなと…」


やはり両親に先立たれたんだ…


アリスちゃんのあの小さな手を思い出すと鼻がツーンとしみた。


「姉夫婦達がアリスと旅行中に事故にあったんだ…馬車ごと崖から落ちて…アリスはあの二人に守られるように抱きしめられていて傷一つなく無事だったそうだ。身寄りが俺だけなんで引き取ったのだが…俺はこのとおり怖い見た目だ。アリスはなかなか心を開いてくれなくてな」


「前からそうでしたか?」


「前?いや…姉さんと来る時はよく笑うおしゃべりな子だった」


そうだろう、料理をしている時や掃除の時のアリスちゃんは元気よく普通の子供に見えた。


「ルーカスさん落ち着いて聞いてくださいね、アリスちゃんは声が出せないんです。きっと両親を目の前で亡くしたショックからでしょう。決して無口だからなんかじゃ無いです」


「え!?」


ルーカスさんは本当に知らなかったようで驚いた顔をして固まってしまった。



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