嘘と微熱〜甘美な一夜から始まる溺愛御曹司の愛執〜

桜月海羽

エピローグ【2】

* * *


お盆が過ぎ、もうすぐ八月も終わる頃。


「今日がなんの日か知ってる?」


ベッドの中にいた私は、微睡みそうになりながらもオミくんを見た。
ついさきほどまで彼に抱かれていて、身体にはまだ上手く力が入らない。
思考も鈍くて、突然の質問の答えを考える気力もあまりない。
オミくんと身体を重ねたあとはいつも、こんな風に心も身体もふにゃふにゃになってしまう。


「わからない?」
「うん……。なんの日?」


彼が唇の端を持ち上げ、私の耳元に顔を近づけてくる。


「俺が茉莉花を初めて抱いた日」


低く囁やかれた瞬間、一瞬で顔がボッと熱くなった。


「どうしてそんなこと覚えてるの……」


羞恥心が膨れ上がり、頭が一気に冴える。


「抱きたくてたまらなかった好きな女をようやく抱けたんだ。忘れるわけがないよ。それに、茉莉花の処女をもらった日でもあるんだから」
「やめてっ……! そういう言い方しないで……っ!」
「どうして? あの日の茉莉花は、初めてのことに緊張してるのにすごく上手に感じてくれて、俺は本当に嬉しかったよ」


恥ずかしげもなく胸の内を語るオミくんの瞳は、悪戯な弧を描いている。


「なんなら、今からあの夜を再現しようか」
「えっ……?」


私が目を見開いたときには、視界いっぱいに彼の顔が映っていた。
もう眠りたいのに、幸せそうな笑顔を見せるオミくんには絶対に敵わない。


優しいキスを落とされれば、あとは彼の思うまま。
私は抵抗することもなく、心も身体も優しく溶かされていくしかなかった。
甘苦しい快感の中で、初めての夜の記憶が鮮明になっていく。




はじまりは、アルコール混じりのたったひとつの嘘。


微熱に侵された唇で交わしたファーストキスを、今もよく覚えている。
あの夜に交わしたキスは、嘘つきで、正直で、まるで甘美な毒のようだった。


けれど、あの夜にはオミくんも本音を隠していた。
私をたしなめたはずの彼のキスは、最初からずっと優しかった。


唇を重ねれば甘い熱を感じる今と同じように、あの夜のキスを思い出せばそこには確かにオミくんの想いが秘められていた――と今ならわかる。


意地っ張りだった私と、少しだけ不器用だった彼。
私のお腹に新しい命が宿ったことを知った私たちが涙交じりに喜び合うのは、あともう少しだけ未来のこと――。





【END】

Special thanks!


*Date*
2022,06,21 執筆開始
2022,07,15 執筆完了
2022,08,22 本編公開
2022,08,24 全編公開

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