嘘と微熱〜甘美な一夜から始まる溺愛御曹司の愛執〜

桜月海羽

四章 甘い微熱/四、愛執 Side Masaomi【4】

* * *


桜が蕾をつける、三月中旬。


満を持して、俺たちは同棲を始めた。
俺はタカミステーションホテルのフランスとイタリアのオープンに向けて忙しく、父からの贔屓がなくなった茉莉花も同様に慌ただしい日々を送っている。


早朝に家を出て夜遅くに帰宅する俺と、残業をするようになった彼女。
当然、会う時間はこれまで以上に限られ、今後はさらにすれ違いが生じてしまいそうだったため、籍を入れる前に一緒に住むことにしたのだ。


茉莉花は、これまでは頼まれることがなかった業務にも触れるようになり、帰宅後にはまるで新人のように勉強している。
残業の日ですら嬉しそうにしているのはおかしくもあるが、茉莉花が生き生きしているのは喜ばしく、そんな彼女をできる限り応援したい。


反して、家の中でくらいは茉莉花を独占したい俺は、少し寂しくもあった。
今夜は久しぶりにゆっくりできるというのに、茉莉花は料理中にはパワーポイントの動画を観ていたかと思うと、今はノートパソコンと向き合っている。
お風呂上がりでいい香りがする彼女を前に、俺は見事なおあずけを食らっていた。


「茉莉花」

「……うん」

「そろそろ寝ない?」

「……ちょっと待って。まだもうちょっとやりたいことが……。あ、オミくんは先に寝てていいよ?」


以前はあれだけ『オミくん』と連呼してくれていたはずなのに、今や俺たちの立場は逆転している。
それでも、「じゃあ待ってるよ」と微笑んでみせるのは、一回り年上の男のプライドを守るためである。


茉莉花はしばらく待ってもノートパソコンの前から動かず、彼女が俺を見たのは声をかけてから一時間が過ぎた頃だった。


「あれ? オミくん、まだ起きててくれたの?」
「茉莉花と一緒に寝たいからね」
「待たせちゃってごめんね! オミくんは疲れてるのに……」
「じゃあ、癒して」


茉莉花を抱き上げてベッドに運び、有無を言わせずに覆い被さる。


「えっと……余計に疲れない?」
「全然。むしろ、明日は休みだから、朝までだってできるよ」
「あっ……朝……?」


にっこりと笑う俺に、彼女の口元が引き攣る。


「冗談だよ」
「オミくんが言うと冗談に聞こえないんだよ」
「お望みでしたら、朝までご奉仕しましょうか?」
「……ッ! 遠慮します……!」


頬をかあっと染めた茉莉花が、両手で俺の胸元を押してくる。その手を左手で掴んで一纏めにし、彼女の頭の上で固定した。


「オ、オミくん……?」
「放置プレイのお返しにたくさん感じさせてあげるよ」
「待っ――」


柔らかな唇はキスで塞ぎ、食むように甘やかすようにくちづける。
戯れるような行為を繰り返せば、キスに弱い茉莉花はすぐに大人しくなった。


舌を搦めれば吐息を零し、俺を映す大きな瞳はあっという間に潤んでいく。
清純そうな顔をしてこんなに色香を振りまくなんて、本当にずるい。
少女の頃の彼女を知っているからこそ、目の前の光景とのギャップに脳がクラクラと揺れ、理性が簡単に溶かされてしまう。


茉莉花が愛おしくて、ずっと腕の中に閉じこめておきたいほどに大切で。想いは未だに日に日に膨らみ、絶えず募っていく。
彼女を抱くたびに満たされて、けれどまたすぐに欲しくなって、キリがない。
一緒にいるだけで嬉しくて幸せなのも本心なのに、欲深くなっていくばかりだ。


これはもう、愛情というよりも執着や愛執に近いものではないか……と感じることもあるが、どうしたって茉莉花が愛おしくてたまらないのだから仕方がない。
甘ったるく俺を誘惑する彼女とひとつに溶け合うさなか、それはこれからもっと強くなっていく気がしていた――。

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