嘘と微熱〜甘美な一夜から始まる溺愛御曹司の愛執〜

桜月海羽

四章 甘い微熱/四、愛執 Side Masaomi【1】

怒涛の展開を見せたクリスマスから、約三週間が過ぎた。


タカミステーションホテルの海外進出ついては順調に進んでいる。
年明け早々、アメリカのロサンゼルスに一号店がオープンしたばかりだが、早くも四か月先まで予約が埋まった。
俺も一週間ほど現地に行っていたが、評判も上々だ。
手応えもしっかりと感じているし、このままいけば収益も安定するだろう。


三か月後に控えたフランスとイタリアでのオープンのあとには、ヨーロッパはもちろん、アジアにも進出していく。
すでに着工に入った場所もあり、今は新たに開拓地を探しているところだ。
とはいえ、タカミステーションホテルの海外事業部に俺が関わるのは、海外の三号館となるイタリアのホテルがオープンするまで。
そのあとの俺は、ようやくタカミホテルの国内事業部の業務だけに集中できるようになる。


取締役就任からずっとタカミステーションホテルの海外進出に関わってきたため、少しばかり名残惜しくもある。
一方で、タカミホテルの国内事業部のCEOとしてやりたいことは数え切れないほどあり、早くそちらに力を注ぎたい気持ちが強かった。


そうして仕事に励む傍ら、茉莉花との結婚に向けての準備も始めている。
裕人には早々に報告し、年明けには彼女の両親に年末の非礼をしっかりと詫び、改めて結婚の許可をもらうために挨拶に行った。


茉莉花の両親は心の整理がつき始めていたのか、クリスマスのときよりも表情は柔らかく、彼女に対する態度にも今までよりもずっと信頼がこもっていた。
裕人は驚きはしたものの、なんとなく俺の想いを察していたようで、『心のどこかではこうなる気がしてた』と苦笑いを見せた。


そして、三が日の間に俺の実家にも茉莉花を連れて行き、祖父母と両親に彼女を会わせて結婚するつもりであることを伝えた。
もともと、両親は俺の意思を尊重してくれていたため、特に不安視はしていなかったが、予想以上に茉莉花を歓迎してくれたのは嬉しい誤算だった。


『雅臣は一生独身でいる気かと思ってた』という父に母も頷き、ふたりの気を揉ませていたことを知ったが、それ故に喜びも大きかったのだろう。


『オミくんのご両親に反対されても頑張るね……!』


そんな風に強がっていた彼女も、俺の両親の態度に安堵の笑みを浮かべていた。
無事にお互いの両親の許可をもらった今は、式場を探しているところである。


クリスマスの夜、茉莉花から『万里小路さんとの婚約はいいの?』と訊かれたときには耳を疑ったが、俺は一度もそんな話は聞いていなかった。
念のために父に確認したところ、やっぱり父も知らないようだった。
つまり、万里小路社長が勝手に目論んでいたのだろう。娘の希子さんにも何度か会ったことはあるが、あの親子ならそういう行動に出るのも頷ける。


万里小路社長は以前から自分の娘を俺に勧めていたし、パーティーなどでふたりと顔を合わせたときには周囲を牽制するような態度も見受けられ、彼女の方も初対面の頃から満更でもない様子だった。
だからといって、やっていいことと悪いことがある。
茉莉花に余計なことを吹き込んだ希子さんに対しては怒りが芽生えたし、そのせいで、茉莉花が少しでも傷ついた瞬間があるというのも腹立たしい。


鷹見との関係を築きたがる会社や人間は、五万といる。
そういった人間はこぞって万里小路社長と似たようなことをしているが、俺に言わせればすべて無意味だ。


俺は何年も茉莉花しか眼中になかったし、彼女以外との結婚も考えていなかった。
両親も祖父母も、俺のプライベートに関しては寛容で口出しはしてこない。
親戚の中には万里小路社長のような人間もいるが、総帥である祖父がそれを良しとしないため、強引な態度に出る者はひとりもいない。
こんな状態の中、俺に付け入る隙があるはずがないのだ。


そもそも、秘書という肩書きだけはあるものの、ろくに仕事もせずに親の財産で遊び歩いてばかりいる希子さんのような女性にはなんの魅力も感じない。
それが悪いとは言わないが、少なくとも俺の心は一ミリも惹かれない。
もっとも、相手がどんな女性でも、俺は茉莉花にしか興味がないのだけれど。

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