嘘と微熱〜甘美な一夜から始まる溺愛御曹司の愛執〜

桜月海羽

四章 甘い微熱/二、涙の決意【4】

「言っただろ? 俺にとって茉莉花は世界で一番大事な女だ。茉莉花のためになることなら、迷惑だなんて思わないよ。誰に責められたって、何発殴られたって、茉莉花が俺を選んでくれるのなら安いもんだ」
「私、なにも持ってないよ……?」
「俺を愛してくれる」
「それだけしかないんだよ……」


私の言葉に怯まないオミくんが、ふっと眉を下げて笑う。


「じゃあ、俺が今、鷹見を捨てて一から人生をやり直したいって言ったら? 茉莉花は俺の傍にいたくない?」
「っ……そんなの、思わない……! 思うわけがないよ! 私は、オミくんが鷹見と縁を切っても、オミくんと一緒にいたいからっ……!」


迷わずに答えると、彼は私と目を合わせたまま破顔した。


「ほらね。地位も名誉も関係なく、俺の心を見てくれるのは茉莉花だけだよ」


嬉しそうな表情が、私を見つめる瞳が、オミくんのすべてが愛おしい。


「好き、好きなの……」
「うん、知ってるよ」
「ずっと言えなくてごめんなさい……。傍にいたいのも、傍にいてほしいのも、オミくんだけなの……」
「やっと本音を言ってくれた」


彼は涙が止まらない私を抱きしめ、噛みしめるように呟いた。


オミくんの腕の中で身じろぎ、顔を上げると、視線がぶつかる。
すると、彼が困り顔で微笑んだ。


「俺のお姫様はなかなか素直になってくれないから随分困ったよ。俺をこんなに困らせるのは、世界中を探してもきっと茉莉花しかいない」


『茉莉花はいつも俺を困らせる』


オミくんに初めて抱かれた日から彼が幾度となく零していた言葉の意味が、今ようやくわかった。
オミくんは、私を好きでいてくれたが故にそんなこと言っていたんだ……と。


(わかりにくいよ、オミくん……)


私の心はいつだって彼に翻弄されていて、私だって困った回数は数え切れない。


けれど、今はもう、なんでもよかった。
オミくんの気持ちを受け入れられる喜びと、自分の想いを伝えられた幸せで、胸がいっぱいだったから……。


「茉莉花」


視線が重なれば、彼がなにを求めているのかはすぐにわかった。
涙で濡れた顔で笑みを零し、瞼をそっと閉じる。
聖夜の冷たい空気の中、キラキラと輝くクリスマスツリーの下で、私たちは人目も憚らずにキスを交わした。

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