嘘と微熱〜甘美な一夜から始まる溺愛御曹司の愛執〜
四章 甘い微熱/一、弱い自分【3】
* * *
翌日の日曜日。
午前中は仕事だったオミくんが迎えに来てくれたのは、十五時前のことだった。
彼のマンションに着いて早々、ソファの前にあるローテーブルにフルーツがたっぷり乗ったタルトが並べられた。
「茉莉花を迎えに行く前に買ったんだ。茉莉花、いちごが好きだっただろ? キウイタルトやレモンタルトもあるけど、どれがいい?」
オミくんは、私の好みをよく知っている。
フルーツが好きなことも、その中でも特にいちごが好きなことも。
嬉しいのに答えられずにいると、出してくれたばかりのアールグレイティーの傍にいちごタルトを載せた白亜のプレートが置かれた。
「残りは持って帰っていいよ」
微笑む彼のカップからはコーヒーの香りが漂っていて、私のためにわざわざ紅茶を淹れてくれたんだ……と気づく。
こんな気遣いが嬉しくてたまらなくて、今にも泣いてしまいそうだった。
「茉莉花から誘われるなんて初めてだね」
曇りのない笑顔が眩しくて痛い。
オミくんへの想いを痛感させられて、胸の奥が軋んだような音を立てていた。
「どんな理由でも『会いたい』って言ってくれて嬉しかったよ」
一瞬悲しげに瞳を伏せた彼が、私を真っ直ぐに見つめてくる。
沈黙が下りた直後、美麗な顔がゆっくりと近づいてきた。
「……っ、ダメッ!」
キスの気配を感じて、両手でオミくんの胸元を押し返す。
彼は苦笑を零すと、小さなため息を零した。
「どうした?」
優しい瞳を前に、言葉よりも先に涙が溢れてしまいそうだったけれど。
「こういうことはもうしない……。今日はお別れを言いに来たの」
最後くらいはきちんとけじめをつけるべきだと、必死に自分自身を奮い立たせた。
見開かれた瞳の中に私を映すオミくんは、一拍置いて真剣な顔になった。
「どうしても俺の気持ちを受け入れられない?」
受け入れたい。なによりも、そう望んでいる。
「うん……」
けれど、嘘つきな私は、心とは裏腹な答えを放つ。
すると、彼がふっと瞳をたわませた。まるで、私の嘘を見透かすように。
「ベッドの中ではあんなに『好き』って言ってくれるのに?」
「えっ……?」
オミくんの言葉を、すぐには噛み砕けなかった。
なにを言われてるのかわからなくて、少し経ってその意味を理解したときにもにわかには信じられなかった。
「嘘……そんなこと言ってな――」
「嘘じゃない。茉莉花は俺に抱かれてるとき、いつも『好き』って言ってくれるよ」
困惑する私に反し、彼は余裕そうに微笑んでいる。
そんな記憶はまったくないけれど、オミくんの顔つきからは嘘じゃないんだということが語られている。
「俺に乱されてわけがわからなくなったときに限り、って条件付きだけどね」
彼がクスッと笑った瞬間、最近特に〝激しかった〟理由に気づいた。
「でも、間違いなく言ってくれたよ。オミくんが好き、って何度も何度もね」
脳芯まで真っ白になるほど責められ、幾度となく果てさせられたのは、きっと私が『好き』と口走っていたせい。
本音を隠し切れていなかったことを知り、頬がかあっと熱くなっていった。
「そもそも、言葉なんてなくても、全身から俺への気持ちが溢れてたよ。茉莉花が意地っ張りすぎて、なかなか確信を持てなかったけど」
すべてを知っていると言いたげな笑顔に、困惑と動揺を隠せない。
突きつけられたばかりの真実を、受け止め切れなかった。
それでも、今さら答えを変えるわけにはいかない。
「……そうだったとしても、オミくんとは結婚できないよ」
戸惑う心を諫め、なんとか最後まで言い切る。
「茉莉花」
すると、オミくんの面持ちが急に厳しくなった。
「自分の人生を決めるのは父親でも家族でもない、自分自身だ。父親を悲しませたくないなら、本気で自分が幸せになれる道を考えるんだ」
声音も視線もいつになく鋭く、彼の一言一言が重かった。
翌日の日曜日。
午前中は仕事だったオミくんが迎えに来てくれたのは、十五時前のことだった。
彼のマンションに着いて早々、ソファの前にあるローテーブルにフルーツがたっぷり乗ったタルトが並べられた。
「茉莉花を迎えに行く前に買ったんだ。茉莉花、いちごが好きだっただろ? キウイタルトやレモンタルトもあるけど、どれがいい?」
オミくんは、私の好みをよく知っている。
フルーツが好きなことも、その中でも特にいちごが好きなことも。
嬉しいのに答えられずにいると、出してくれたばかりのアールグレイティーの傍にいちごタルトを載せた白亜のプレートが置かれた。
「残りは持って帰っていいよ」
微笑む彼のカップからはコーヒーの香りが漂っていて、私のためにわざわざ紅茶を淹れてくれたんだ……と気づく。
こんな気遣いが嬉しくてたまらなくて、今にも泣いてしまいそうだった。
「茉莉花から誘われるなんて初めてだね」
曇りのない笑顔が眩しくて痛い。
オミくんへの想いを痛感させられて、胸の奥が軋んだような音を立てていた。
「どんな理由でも『会いたい』って言ってくれて嬉しかったよ」
一瞬悲しげに瞳を伏せた彼が、私を真っ直ぐに見つめてくる。
沈黙が下りた直後、美麗な顔がゆっくりと近づいてきた。
「……っ、ダメッ!」
キスの気配を感じて、両手でオミくんの胸元を押し返す。
彼は苦笑を零すと、小さなため息を零した。
「どうした?」
優しい瞳を前に、言葉よりも先に涙が溢れてしまいそうだったけれど。
「こういうことはもうしない……。今日はお別れを言いに来たの」
最後くらいはきちんとけじめをつけるべきだと、必死に自分自身を奮い立たせた。
見開かれた瞳の中に私を映すオミくんは、一拍置いて真剣な顔になった。
「どうしても俺の気持ちを受け入れられない?」
受け入れたい。なによりも、そう望んでいる。
「うん……」
けれど、嘘つきな私は、心とは裏腹な答えを放つ。
すると、彼がふっと瞳をたわませた。まるで、私の嘘を見透かすように。
「ベッドの中ではあんなに『好き』って言ってくれるのに?」
「えっ……?」
オミくんの言葉を、すぐには噛み砕けなかった。
なにを言われてるのかわからなくて、少し経ってその意味を理解したときにもにわかには信じられなかった。
「嘘……そんなこと言ってな――」
「嘘じゃない。茉莉花は俺に抱かれてるとき、いつも『好き』って言ってくれるよ」
困惑する私に反し、彼は余裕そうに微笑んでいる。
そんな記憶はまったくないけれど、オミくんの顔つきからは嘘じゃないんだということが語られている。
「俺に乱されてわけがわからなくなったときに限り、って条件付きだけどね」
彼がクスッと笑った瞬間、最近特に〝激しかった〟理由に気づいた。
「でも、間違いなく言ってくれたよ。オミくんが好き、って何度も何度もね」
脳芯まで真っ白になるほど責められ、幾度となく果てさせられたのは、きっと私が『好き』と口走っていたせい。
本音を隠し切れていなかったことを知り、頬がかあっと熱くなっていった。
「そもそも、言葉なんてなくても、全身から俺への気持ちが溢れてたよ。茉莉花が意地っ張りすぎて、なかなか確信を持てなかったけど」
すべてを知っていると言いたげな笑顔に、困惑と動揺を隠せない。
突きつけられたばかりの真実を、受け止め切れなかった。
それでも、今さら答えを変えるわけにはいかない。
「……そうだったとしても、オミくんとは結婚できないよ」
戸惑う心を諫め、なんとか最後まで言い切る。
「茉莉花」
すると、オミくんの面持ちが急に厳しくなった。
「自分の人生を決めるのは父親でも家族でもない、自分自身だ。父親を悲しませたくないなら、本気で自分が幸せになれる道を考えるんだ」
声音も視線もいつになく鋭く、彼の一言一言が重かった。
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